第21話4月11日①
召喚契約の間について早々、スイセンが発言する。
「ん……。ガーネット、もし真名契約をするなら……今でも問題ないとは思う……」
「そう……だね。僕も問題はないと思う。でも、ダメだったらっていう不安がどうしても消えなくて。だから、ごめんなさい」
「ん……。それならそれで……問題はない……。気にしないで……。私の方こそ、急かしてごめん……」
「ううん!それこそ気にしないで。言ってくれたのは嬉しかったから。でもね!序列は気にしないよ?だって僕が正式に契約するときにはみんな家族になるんだし!今もそんなに変わらないと思うけどね?それに普段そんなことを気にしてる娘、アルスのところにはそもそも居ないじゃん!」
ガーネットが、そう元気にスイセンに返す。
リリス様と交流を持つようになって、過去に複数契約していた人物の詳細を知ることが出来たが序列争いというものがあったそうだ。
それに比べると俺のところはとても平和だ。誰かと誰かが言い争いなどをしていたり、出し抜こうとしたりといったことは見たことがない。
そもそもとして、最初に契約していたリコリスが、真名に誓ったことが仕えることという時点で起こりようがないとも言える。
しかし、既にガーネットとは仮契約を先にしているが序列が変わるのだろうか?そう思っていたのが顔に出ていたのだろう、リコリスが教えてくれる。
「アルス様。序列が契約した順番になるのは、契約の強さの順番の後になります。リリス様は、詳しくはアルス様にお教えしていないかもしれませんが私達には序列争いについてもお話しくださいました。」
真名契約は最上級の契約と言っていたと思うのだが、それよりも上の契約とは何があるのだろうか?その疑問も読み取ったのだろう。続けて答えてくれる。
「もっとも強い契約は真名契約と言ってもいいでしょう。しかし、なにも同じ相手に一つだけと決まっているわけではないのです。つまり、契約する個数を増やすことが出来るのです。」
確かに何個かの契約をすることもあるというのは、学園の授業で習っていた。特にそんな必要もなかったし、数を増やしてしまえばその分パスに流れる量も増える。それは、彼女たちの負担になったことだろう。
「ここからがリリス様に聞いた話なのですが、真名契約以外の契約では同じ契約でも人によって結び付きが変わるそうなのです。そのため、私達は他の契約を増やさないことにしました。リリス様は、その真名契約にもまだ何かあると仰っていました。しかし、楽しみにしてて、と教えてはくださいませんでしたが」
いつの間にかそんな協定を結んでいたとは知らなかった。
それにしても、リリス様が言っていたという真名契約に隠されているもの。それは一体なんだろうか。楽しみにしていてほしい、ということは悪いことではないのだろう。
そうして、さっそく召喚を行うことにする。
「我ら異界からの召喚者との契約を求めるものなり。我らと共に歩み、共に滅ぶものなり。我が言葉を聞き届けしものよ、我が力を依り代にしその姿を現せ。『サモン』!」
呪文を唱えると共に手で目を覆う。光が収まってから手をどけると。
現れたのは異様な姿をした女性だった。服装は確か、乗馬服と呼ばれるものを身に纏っている。しかし、頭に黒いもやがかかっていて顔を見ることが出来ないのだ。俺は一体、どんな存在を召喚してしまったのだろうか。
「そなたが召喚者か。我の種族はデュラハンだ。このような姿で失礼する」
「俺はアルス。デュラハンは皆そういう姿をしているのかな?」
「している者もいるし、していない者も居るといったところだな。人によるだろう」
「そうなんだ。どんな違いがあるのかは、聞いてもいいのかな?」
「構わぬが、他の者に聞いたことはなくてな。我の場合は真名契約に関わるものなのだ」
「そっか。実はその真名契約を結びたくて召喚したんだ」
「真名契約の試練をするのは構わん。しかし、いいのか?
そこのドラゴニュートは真名契約ではないだろう?序列が変わると思うが。」
「僕のことなら、納得してるから気にしなくて大丈夫だよ!」
「そうなのか。そなたのところは不思議なところなのだな」
不思議なところと言われるとそうなのかもしれない。リリス様からも、真名契約を結んでいるところでは最多だと言われたし。その上で序列争いもない。
「よいだろう。我の真名契約の試練は、我のこの頭がどれか選ぶことだ」
頭を選ぶとはどういう事だろうか。その疑問が伝わったのだろう、言葉を続けてくれる。
「我らデュラハンは真名契約の種類がいくつかあってな。その一つに数ある頭の幻影の中から、本物を選ぶというものがあるのだ。そなたには、その試練を受けてもらう」
「そういう試練もあるんだね。わかった受けるよ」
「この頭の幻影は、触覚も騙すため実際に手に取ってもよい。では始める」
その言葉と共にいくつもの頭が浮かぶ。何とはなしに全ての頭を眺めていたのだが、ひとつだけ強烈に目を引くものがある。
それは薄紫色の髪をしているのは他と同じなのだが、なんと瞳の虹彩と呼ばれる部分が白く本来白目のところは黒に近い紫色をしているのだ。
どこか引き寄せられるようにそれに近づいていく。彼女を見る。特に反応を見せることはない。しかし彼女の体にこの頭が乗っているところを考えると、とてもらしいと思えたのだ。それにとても綺麗だと、そう思えてしまったというのもある。
「これにします」
「本当にそれでいいのだな?」
確認の言葉に頷くことで答える。もしかしたら違うのかもしれない。失敗したときにやり直せるのかは聞いていないので、もしかしたらもう挑戦できないかもしれないがそうだとしても後悔はしないと思う。これで違うなら何度やっても正解できないという思いがあるためだ。果たして結果は──。
「合格だ。よくぞ正解した。なぜこれを選んだのか聞いてもいいだろうか?」
彼女は俺が選んだ頭を乗せながらそう問うてきたので、先ほど思っていたことをそのまま伝えると。
「そ、そうか。よくわかった。とても嬉しく思う。この瞳を見たものには怖がられたこともあったのだが。そなたは違うようだ。」
「その瞳も素敵だと思うけどな。」
つい言葉が出てしまった。既に照れた様子だったのが、さらに照れてしまったのか顔に手を当てている。そうしていて落ち着いたのだろう。言葉を紡いだ。
「ともかく、そなたは合格したので真名を伝える。我の真名は【ネモフィラ】だ。これからよろしく頼む我が君よ」
「よろしく。ネモフィラ」
そうして彼女は皆の輪に入り、自己紹介と共に皆の真名に誓ったことも聞いているようだ。彼女の瞳が怖がられていたこともあったというので、様子を見ていたのだがそんな反応をする娘は居ないようで安心する。そして決まったのだろう、彼女はこちらを見て。
「必要とあらばどこへでも行こう。そして、どこへなりと我が君の前へ馳せ参じることを【ネモフィラ】の名に誓おう」
「それを誓うということは、足には自信があるのかな?」
「それもあるが、我にはこの愛馬が居るのだ」
そこには黒い馬が居た。最初のネモフィラのように頭には黒いもやがかかってはいるが。
「この愛馬に乗れば、どんな場所へもそう時間も掛からずに行けるのだ」
「それは一緒に乗って、どこか良いところに行ってみたいな」
「我の愛馬は残念ながら一人用でな。二人乗ることは出来ぬのだ。無理に乗れば、速度が出せぬ。それ故に、我が担いで走った方が速いほどなのだ。」
「それならそれで、皆で一緒にどこかへ旅をするのもいいかもね」
「いずれは、そういうことをしてもいいかもしれぬな」
そこまで話したところで一言断ってから、通信具を使ってローナ先生へ契約の報告をする。
リコリスの誘拐の事件が起きたことを受けて、学園の通信具とも連絡先を交換していたのだ。
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