第22話4月11日②

 そうしてローナ先生への報告が終わったとき、ネモフィラから申し出があった。


「契約して早々で悪いのだが、真名が疼くのだ。今のうちに行かなければならない……会わなければならない?詳しくは分からないが単独行動を許可してほしい。今すぐに行かないと取り返しがつかない感じがするのだ。」


「ネモフィラが知らぬのは無理もないのじゃが、リコリスがこの間誘拐されたばかりでの。今はちとまずいのじゃ。妾がついて行くのでは駄目かの?」


「すまないが無理だ。先にも話したとおり我の愛馬は一人用だ」


「そう言われてものう。リコリスからも何か言ってやってほしいのじゃ」


「私は行くべきだと思います。私の真名もサポートすべきと言っていますので。それに、ネモフィラは妖精でありながら死霊系でもありますから魅了は効きづらいですし、意識操作魔法も効かないでしょう」


「リコリスの真名もそう言っておるのか。すまぬ、妾の半身よ。お主に決めてほしいのじゃ」


「そう言われても……あんなことがあったばかりだし」


 ネモフィラが妖精でありながら死霊系の属性を持つことは、先ほどの自己紹介しているときに俺も聞いていた。

 リコリスの時はどうにかなった。しかし、今回も無事で済むという保証はない。そこに、単独行動をさせて問題ないのか。そうして迷っている間にスイセンは行動した。


「ん……。私の通信具を貸してあげる……。今すぐ行って……本当に間に合わなくなる……」


「感謝する!」


「スイセン!?」


「ん……絶対に必要なことだって……私の真名も言ってる……大丈夫、何かあっても……私の真名でどうにでもする……」 


 どうにかなった後じゃ遅い。でも、速さには自信があるとネモフィラは言っていた。今から行って間に合うかどうか。


「ん……。出会ったばかりのネモフィラを……信じ切れないのは分かる……。でも……私のことも……信じられない……?」


「その言い方は卑怯じゃないか?スイセン」


「ん……他に思い付かなかった……ごめんなさい……」


「どうしても必要なことなんだな?それなら信じて待つことにするよ」


「ん……ありがとう……」


 あまり笑顔を見せないスイセンが微笑んでいる。悔しいので髪がグシャグシャになるように撫で繰り回した。しかし、それでもスイセンは楽しそうに微笑み続けていた。


「どうにか収まるところに収まったようじゃのう」


「すごいね。いつもこんな感じなの?僕びっくりしちゃった」


「今回は特別ですね。ネモフィラには私のせいで大変な思いをさせてしまいました」


「リコリスが気にすることはない。今回はタイミングが悪かっただけじゃ。アスターも落ち込まんでよいぞ」


「あはは……。ちょっと責任感じちゃったっす」


「ん……。後もう少し遅ければ……本当に危なかった……」


「スイセン、もうアルス様からの可愛がりは済んだのですか?」


「んーん……。もう、時間切れ……」



 いつの間にスイセンはあそこに?と思った瞬間。

 通信具が通信を受け取った。学園からの連絡だ。

 通信相手はローナ先生だったが、勢いよく話し出す。



「緊急です、アルス君!今すぐ来てほしいってカーミラ様が!」


「カーミラ様が?」


 面識は持ったことがないはずだし、なにか緊急で呼び出されるようなことにも心当たりはない。そう思ったが、もしかしてネモフィラに何かあったのか!?


「ん……。ネモフィラとは別件……。でも急いだ方がいい……」


「分かった。ローナ先生、すぐにそちらに向かいます!」

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