第2話4月1日②
召喚魔法を唱えるための部屋に入る。
この部屋は全員個人で入り、広さもかなりのものとなっていて中央には召喚のための魔法陣が描かれている。
これだけ広いのは過去にドラゴンを呼び出して部屋が崩壊し、大きな騒ぎになったこともあるためだとか本当かどうか分からない話が伝わっているためだ。
しかし実際にこうして用意されているのだから、全くの嘘と言うわけでもないのだろう。
ちなみに、個人で行うのは他人に見られると困ることになる契約方法もあるためだ。
それこそサキュバスとかがその代表格と言える。
それを授業で習ってからだったな……俺のあだ名がエロ魔神になったのは。
やめよう。それを考えるのは本当に召喚できてしまってからにしよう。
さて、何が呼び出されるのか。不安が大きいがやってみるしかないだろう。よし!
「我求めるは異界からの召喚者なり。我と共に歩み、共に滅ぶものなり。我が言葉を聞き届けしものよ、我が力を依り代にしその姿を現せ。『サモン』!」
俺の詠唱と共に魔方陣が光輝く。あまりの眩しさに目を開けていられないが、これは召喚には成功した証だ。
一体何が召喚されたのか。恐る恐る光の収まった魔法陣を見る。
そこには黒みがかった赤い髪に瞳。悪魔のような翼、白皙の肌。豊満な胸に細いウエスト。
服装は露出が多く肩やへそが丸出しで、太ももにスリットの入ったミニスカート。
うん、どこからどう見てもサキュバスだ。どうやら本当にサキュバスを呼び出してしまったらしい。さすがにリリス様ではないとは思いたいが……?
「召喚に応じ参上しました、ご主人様。つきましてはこの世界における仮の名を頂いてもよろしいでしょうか?」
「うん?仮の名?君自身の名前は教えてもらえないということだろうか?」
「僭越ながら私自身の名前は真名となりますので、ご主人様といえども試練を受けて頂かなければ教えることはできない決まりなのです。申し訳ありません」
「俺としては、君がリリス様ではないかと恐いから教えてもらいたいのだけど……その試練というのはどういうものなのかな?」
「私ごときがリリス様などとは恐れ多いことです。試練というのは私が全力で精気を吸い取って、それに耐えられれば資格ありと見なされます。ご主人様はどうやら精力がかなりあるご様子ですので、問題ないかもしれませんね」
「君がリリス様ではないというのは正直安心したよ。その真名を俺が知ることによって何かメリットとかはあったりするのかな?」
「もちろんございます。仮の名を与えられたときよりも力が増しますし、ご主人様から供給される力……私の場合は精力ですね。その変換効率がよくなるのでより私が力を使いやすくなります。他にも私にとってデメリット含め存在していますが……ご主人様がお気になさるものではありません。私は既にご主人様に仕える者ですので」
「そう言われると気になるけど……今教えてくれたりは?」
「ご主人様が試練を乗り越えて機会がありましたら、お教えするかもしれません」
「それは俺にとって害になるものだったりは?」
「そのようなことはあり得ないと断言させていただきます」
「そう。なら試練を受けようかな。その試練ってやっぱり……その……そういうことをするのかな?」
「最終的にはそうなる予定です。しかし、段階を踏まないと死なせてしまうこともありますので。ご主人様は大丈夫かと思いますが同じ手順を踏んでいただきます」
「分かった。まずは何をすればいい?」
「まずは手を繋いでいただきます。ご主人様、お手を拝借しても?」
「これでいい?」
彼女に向けて両手を伸ばす。
「では失礼させていただきます」
俺の両手に彼女の両手が重ねられる。
そして何かを、恐らくは精力だろう。
それが抜けていくような感覚がする。
しかし、その感覚よりも彼女の掌から感じる体温の方が刺激が強くてほとんど誤差みたいなものだ。
女性の手なんて握ったことないからな……。
「やはり大丈夫のようですね。それでは次に行きます。次はハグです」
「分かった」
繋いでいた手を離し彼女を受け入れる。
やはり何かが抜けていくような気がするが、そんなものより柔らかな女性の身体の感触や間近にある彼女の綺麗な顔、否応なしに漂ってくる甘い香りにドキドキしてしまう。
「これも問題ないようですね。というよりもむしろほとんど満たされているような……?次はいよいよ粘膜接触になります。刺激が強いですので気をしっかり持ってくださいね。ではキスを」
「き、キスか。お手柔らかにお願いするよ」
「そんなに緊張なさらなくてもサキュバスとして、しっかりリードしますのでご主人様は身を任せてくださいませ。では失礼させていただきます」
彼女が顔を近付けてくる。思わず目をつぶってしまったが構わずに口に吸い付いてくる。
彼女のなすがままに受け入れる。
これは……なるほど、確かに気持ちいいものだ。カップルが人前でキスをしているのは何度か見たことがあるが、そうしたくなる気持ちも分かる。
彼女との間で水音が鳴る。舌を絡め取られる。
ふいに、彼女はどんな顔をしているのか気になった。
薄く目を開けてみると、目の前には顔を真っ赤にして目がとろんとしている彼女が居た。
彼女も気持ちよく感じてくれていたらいいな。
そう思った瞬間、俺の中から勢いよく何かが抜ける感覚がした。同時に彼女は翼をピンと伸ばし、体を震わせ──バタンと倒れこむ。なんとか受け止めたが突然どうしたのだろうか?息も荒いようだし。
「どうしたんだ?大丈夫か?」
「ハァ……ハァ……大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
「なんだか……とても大丈夫そうには見えないのだけど」
「いえ……ハァ……問題ありません。試練ですが……ハァ……ご主人様は認められました」
「え?その……最後までしてないけど、それでいいのか?」
「はい……ハァ……むしろ最後までしてしまうと私が耐えられませんので……ハァ……試練はここまでです」
「それはそれでよかったような残念なような……まぁよしとしよう。ということは君の真名を教えてもらえるということで良いのかな?」
「はい。ご主人様は資格をお示しくださったので、お教えできます。もう大丈夫です。支えてくださってありがとうございました」
「構わないよ。それにしても全力で精気を吸うと言っていたからもっと消耗するかと思ったけど、特になんともないね」
「え?その失礼ですが、貧血のような感覚や気怠さなどは?風邪のように熱っぽいとか……?」
「ないね。風邪のようなというよりは、恥ずかしさから来るものだと思うし」
そう答えると彼女はなぜかじっと俺の股間を眺めていたが。とんでもない方に仕えることになったみたいですね、と呟いた。何を見ていたのだろうか。テントを張っていたりなんてことはなかったはずだが。それはさておき。
「俺はアルス。孤児なので姓はないんだ。君の名前は?」
「私の真名は【リコリス】です。アルス様と同じく姓はありません。そして一つ謝らなければならないことがございます。リリス様ではないとは申し上げましたが、私はリリス様の直系の血筋に連なる者です。リリス様に何かおありのようなアルス様に黙っていて申し訳ありませんでした。」
「いや、特にリリス様と何かがあるというわけではないから、誤解させてしまってごめんね。リコリスが気にするようなことは何もないよ。だからこれから一生涯、共に居てくれると助かる」
「それはもちろん。私の全身全霊にかけてアルス様に仕えることを【リコリス】の名に懸けて誓います」
「その……それも真名の力の一つなのかな?」
「はい。真名に懸けて誓ったことは破れば命を落としますので。その代わりに守るためであれば力を増すものでもあります」
「ずいぶんと重い代償だね……。それはもう取り消せないのかな?」
「はい。なにせ真名に誓ったことですから」
「もう取り返しは付かないのか……くれぐれも破ることのないようにね。内容が内容だから言い辛いけど。」
「それはもちろんです!」
「じゃあ話を変えるけど、リリス様の直系ということはサキュバスの中でもリコリスは力が強い方だと考えてもいいのかな」
「もちろんです。どちらかと言えば、アルス様ほどの精力があれば並みのサキュバスでも強者になれるとは思いますが」
「そういうものなの?無駄に多いだけではなかったのはなんだか嬉しいね」
「下手をすれば、リリス様がこの場に居たかもしれないくらいには凄いものですよ!」
「あの先生の言葉が冗談じゃなくなるかもしれなかったのか……まぁでもリコリスでよかったよ。学友には触手やスライム、もしくは召喚失敗なんて賭けられてたもんだからさ」
「え?なんですかその愚か者たちは。何をもってそんなことを?これだけの力を持つアルス様が、そんな結果になるわけないじゃないですか!」
「ごめん、気を悪くしたよね。実は俺は精力こそ学園でも測りきれない程だけど、他の力は扱えなくてさ。ちょっと馬鹿にされてるんだ」
「それは決してマイナス点になどなりません。そんな輩の言うことなど、お気になさる必要はありませんよ。私はアルス様のようなご主人様を持てて幸せです!」
「そう言ってくれると助かるよ。ありがとうリコリス。そういえば契約って何をすればいいのかな?今までのって真名に関するものだったよね?」
「それでしたら契約として最上級の『真名契約』が結ばれましたよ。召喚獣の真名を知ることは、十分以上に契約として果たされますので」
「あ、そうなんだ。真名を知ることでも契約になるんだね。授業では習わなかったから、知らなかったよ」
「そもそもとして、召喚獣が真名を持っていることも珍しいですからね。ましてや真名契約は難易度も高いですので、一般的ではないのではないでしょうか」
「そうなんだ。じゃあもうこの部屋を出ても問題ないんだね。今のうちになにか話しておかないといけないことってあるかな?」
「そうですね。まだ確定ではないのですが、いずれリリス様にお会いすることになるかもしれません」
「えっ!?あぁ、リコリスはリリス様の直系だもんね。その関係で?」
「それもないとは言い切れませんが。恐らくリリス様自身が発見されているかと」
「誰を?」
「それはもちろん、アルス様を」
「どうして!?」
「リリス様がサキュバスの始祖なのはご存知かと思いますが、その縁なのかサキュバスが契約を結んだ暁にはリリス様に伝わるようなのです」
「なる……ほど。じゃあ俺はリリス様に目を付けられているわけなのか」
「残念ながら」
「そっか。まぁしょうがないよね。ともあれ、これから色々とよろしくねリコリス」
「はい、アルス様。このリコリス、どこまでもついていきます」
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