第12話4月4日②
リリス様のもとから帰還して、すぐに召喚契約の間の使用許可をもらってきた。前回はローナ先生の仕事の早さに驚いてしまったが、こうやって何度も利用することになるととても有り難く感じる。それにしても。
「今回も立ち会うの?いや、ダメな訳じゃないんだけど。それならフェアじゃない、って言っていた理由が知りたいなって」
「なんじゃ、説明しておらんかったのか?フェアじゃないというのは妾たちの姿を見せて安心させるのと、下手な存在が召喚された時に妾の半身に注意を促すことでもあるのじゃ。」
「そんな理由があったんだね」
「まぁ、ほとんどそんな心配するようなことは起きんのじゃが可能性の話じゃからのう。とにかく、詳しく聞きたいなら召喚した相手に聞いた方がよいのじゃ」
「カトレアを信じてない訳じゃないけど、そう言ってくれるならそうしてみるよ。それじゃあ早速、召喚するよ。我ら異界からの召喚者との契約を求めるものなり。我らと共に歩み、共に滅ぶものなり。我が言葉を聞き届けしものよ、我が力を依り代にしその姿を現せ。『サモン』!」
呪文を唱えると同時に目を閉じておく。いつものように魔法陣が光輝いて、召喚に成功したことを教えてくれる。
目を閉じていても眩しかった目を開くと。
白い髪に白い瞳、白い肌に白い着物。どこまでも白い、新雪のような少女。眠そうに半分目を閉じている。ストレートロングの髪は、そこから二房だけ二つ結びで目元の高さに氷の結晶の髪飾りで留めて前に垂らしている。
またしても、見た目からは種族が分からない。
彼女が口を開かないまま時間が過ぎたので此方から話しかけることにする。
「初めまして、俺はアルス。召喚に応じてくれたということは、契約を結んでくれると考えてもいいのかな?」
「ん……。その通り……。私はずっと一人で……誰とも話したことがなかったから……。なにか粗相があったらごめんなさい……」
「ずっと一人で……。そういうことなら、何も気にしなくて大丈夫だよ。なにかあればフォローするよ。それで、申し訳ないんだけど聞いてみたいことがあるんだ」
「ん……。何を答えればいい……?」
「俺と一緒に居るのは、リコリスとカトレアと言うんだけど、なにか感じることはあるかい?」
「ん……。召喚された召喚獣は……同じ召喚獣の気持ちが……何となく分かるようになってる……。とても暖かい気持ちが……伝わってくる……。私も……そのなかに入りたい……」
「そっか。そう思ってくれるなら嬉しいよ。それで、もしよければ真名契約を結んでくれないかな?」
まだ少し話しただけだが、とても悪い娘には見えない。むしろとても良い娘に見受けられる。これから一緒にやっていけるように思えるけど、どうだろうか?
「ん……。それなら、試練を受けてもらう……。けど……雪女の試練は……難しいと思う……。雪女は……愛する者を……本能的に凍らせたくなる……。だから、試練は……私が凍らせようとすることに……耐えないといけない……。それでも……受ける……?」
ここまでリコリスも、カトレアも口を出してこないということは契約することを認めてくれているということだろう。それなら、俺は前に進むだけだ。
「受けるよ。なにか必要な準備があったりするかい?リコリスとカトレアを避難させたりとか」
「んーん……。その必要はない……。それくらいは制御できるから……。準備が良いようなら……始めるよ……?」
「ああ、いつでも構わない」
俺が答えるのと同時に、強烈な吹雪が吹き付ける。体がどんどんと冷えて指先もかじかんでいく。吐く息も白い。
凍らせてくるのに耐える。肺まで凍えるので息を止める。あの子はこんな寒いなか凍えているのだろうか?
今までずっと一人で、誰も側に居らず。
暖めてあげたい。
そう思った瞬間、体からなにかが抜けるいつもの感覚がする。そうすると、冷えていた体が温かくなっていく。
そのうちに吹雪もやんだ。
「ん……。正直、驚いた……。達成するとは思ってなかったから……。あなたに私の……真名を教えてあげる……。私の真名は【スイセン】……。これから……よろしくね……」
「ああ、よろしくスイセン」
「ん……。それで、リコリスとカトレアの……真名に誓ったことを……教えてほしい……」
「私が仕えることで」
「妾が守ることじゃな」
「ん……。仕えることと……守ること……それなら私は攻めを担当する……。アルス達にとって……すべての障害を排除することを……【スイセン】の名に懸けて……誓う……。立ち塞がるものは……凍らせる……」
「それはとても頼もしそうだ。これから一生涯、一緒に居ようスイセン」
「ん……。任せて……。ずっと一緒……嬉しい……」
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