第46話5月30日

 今日は皆でお祝いをする日。朝の目覚めはリコリスのキスからだ。キスをしてもリコリスが息を荒げていない。大地母神様への力の供給でリコリスの器も大きくなったのだろう。そのリコリスから、渡したいものがあるらしい。


「毎日、少しずつ編んでいました。どうか受け取ってください」


 リコリスから受け取ったのは、手編みの赤いマフラーだった。


「ありがとう、リコリス。大切にするよ」


 リコリスは、はい、と微笑みながら返事をしてくれた。

 部屋を出ると、今度はカトレアの番のようだ。


「妾からはこれじゃ。気に入ってくれるといいのじゃが」


 そうして渡されたのは、イヤーカフだった。さっそく着けてみる。


「似合う?」


「うむ、妾の見立てに間違いはなかったようじゃな。次が待っておるぞ」


 次はスイセンの番だ。


「ん……。私からは、これ……」


 スイセンから渡されたのは、腕時計だった。そのまま装着する。


「大事に使うよ」


「ん……。そうしてほしい……」


 スイセンの次はアスターだ。


「あたいからはこれっす!」


 アスターからは、革でできた手袋のようだ。はめてみる。


「皆のセンスもいいけど、アスターはファッションに造詣が深い分なおさらだね。アスターはどう思う?」


「バッチリっす!次はネモフィラっすよ」


「我からはこれを受け取ってほしい」


 そう言って渡されたのはアンクレットだった。足に着ける。


「どうかな?」


「うむ。我も何を贈ろうかと悩んだ甲斐があった。我と言えば足だと思ったのでそれにした」


 その次に今か今かと待ち構えていたのはガーベラだった。


「僕からはこれ!」


 ガーベラから渡されたのはブレスレットだった。腕時計とは反対の腕に着ける。


「ガーベラとはお揃いになったね」


「僕ももっとちゃんとお揃いにしようかと思ったんだけど、ガーネット様にそれはやめておけって止められちゃった!」


 さすがにガーベラだけ特別扱いはまずいので、止めてくれたガーネット様にはあとで感謝しておこう。そうやって自分の欲望に素直なのも、ガーベラらしいが。


 ガーベラの次はナデシコだ。


「ウチからはこれどすえ。ようほどけるように」


 そう言って渡されたのはくしだった。ほどけるようにとはどういう意味だろうか?そう疑問に思っても答えてくれないということは、教える気はないということだろう。それなら、玉藻前様に聞くことになるぞ?と思っても目をそらすだけなので、自分の口からは恥ずかしくて言えないのだろう。そこで初めて、顔を赤らめたのでよしとしておく。

 ナデシコの次はクロユリだ。


「わ、私からは、これです!」


 そうしてクロユリに渡されたのは石鹸だった。これはまた櫛よりも判断が難しい物がきたぞ。という疑問を感じ取ったのかクロユリが言葉を続ける。


「せ、石鹸を贈り物にするのは、病気を払ったりとか快気祝いの意味があるそうなんです。玉藻前様に手伝ってもらって作りました!」


「この石鹸、手作りなんだ!?それはすごいね。大事に飾っておいたらダメかな?」


「か、飾る!?で、出来れば使ってください」


「そっか。それなら大事に使わせてもらうよ。でも、小さくなったら取っておいてもいいかな?さすがに無くなっちゃうのは寂しくて」


「そ、それくらいなら……」


「ありがとう、クロユリ」


「そ、そんな私の方こそ、ありがとうございます」


「皆もいろいろなプレゼントありがとう。それで、ずっと見えていたけど今日は本当に豪勢だね」


 そうなのだ。リビングに入ってからずっと視界の隅に写っていたのだが、とても豪華な料理の数々が並べられている。なかには料理で飾りなんかも作られているほどだ。

 リビングに入ってから怒涛のプレゼントが続いていたのでちゃんと見れなかったが、よく見てみると俺たちを模した飾りの料理だった。

 そうして、食卓につき。


「それでは、いただきましょう」


 リコリスの挨拶で、皆が食べ始める。この挨拶もリコリスと二人きりのときは一緒に言っていたのを懐かしみながら、俺も食事を摂る。うん、美味しい。俺の舌に合わせた味だ。

 そうしながら皆の様子を見る。リコリスと二人で始まった生活も、気付けば九人もの大所帯になってしまった。

 感慨に耽っていたら、俺たちを模した飾りをガーベラが食べていた。うん、誰かが食べるならガーベラだと思っていたので予想通りだ。


 誰も彼もが笑顔で食べ進めている。この幸せな空間が本当に愛おしい。俺は皆と出会えてよかった。その思いを抱きながら口を開く。


「ありがとう皆。とても嬉しいよ。こんなに嬉しかったことは、今まで生きてきて一番だ。本当にありがとう。」


 そう言葉にすると、彼女たちは花が咲き誇るような笑顔を見せてくれた。その笑顔に見惚れながらも、言葉を続ける。


「リコリス、カトレア、スイセン、アスター、ネモフィラ、ガーベラ、ナデシコ、クロユリ。皆、愛しているよ。これからも永遠に一緒に居よう!」


 その瞬間、光輝く彼女たち。一体何が起きているのだろうか。やがて、光が収まると繋がっているパスが強化されているように感じる。これは一体……と思っていると、とても興奮した様子で彼女たちが言葉を紡いでいく。


「契りが結ばれました!」


「正式に真名契約から夫婦と認められたというわけじゃな」


「ん……。ここまで、色々とあった……」


「本当っすね。なんだかあっという間だったっす」


「実際、あっという間だろうな。最初にリコリス殿が召喚されてからちょうど一ヶ月だ」


「でもでも!時間なんて関係ないよ!その証拠に皆同時だったんだし!」


「ほんまにそうどすなぁ。ウチも今までにあらへんほど楽しい日々どしたわ」


「じ、じゃあもう私達は夫婦ってことだよね。これからは、お兄ちゃんじゃなくて旦那様かな!?」


 ずっとなりたいと思っていた。彼女たちに相応しい契約主であることと共に、伴侶となることを。

 それが正式に認められたというのは、俺もこの上なく嬉しい。

 そこには先ほどと同じ、いやそれ以上に花が咲き乱れたような、皆の笑顔があった。


「あぁ、リコリス、カトレア、スイセン、アスター、ネモフィラ、ガーベラ、ナデシコ、クロユリ。これからは、夫婦として永遠によろしくな!愛してる!」


 俺たちの物語はいつまでも、どこまでも続く。この愛しい花園を中心にして。永遠に。

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