第33話4月19日

 今日はナデシコとクロユリに俺の過去を話してほしいとのことで、皆はそれぞれ席を外すそうだ。俺も話すのはもう構わないのだが、クロユリはまだ幼い。今までの話を聞いた皆の反応を思うと、いささか憚られる。

 というわけでクロユリには眠っていてもらおうと思う。


 いつものように、膝を叩いてクロユリを誘う。クロユリは嬉しそうに、とことこと歩いて俺の膝に頭を乗せる。いわゆる、膝枕だがこれをするのはクロユリを召喚した日と玉藻前様のところに会いに行った日と合わせて今日で三度目だ。


 頭を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。この音を聞いているとなんだか癒される。

 ちなみに皆を撫でたときの反応は、リコリスは相変わらずご満悦な顔を見せてくれる。

 カトレアは照れ臭そうに目をそらす。

 スイセンは完全に目を閉じてなされるがままになる。

 アスターも照れ臭そうにしながらも嬉しそうに。

 ネモフィラは平然としているように見えて動作がぎこちなくなる。

 ガーベラは満面の笑みをする。

 ナデシコはにこにこと感情を読ませないようにしていて、何を考えているのか分かり辛くしてこちらの反応を見て楽しんでいるように思う。


 そして、クロユリは見ていて微笑ましくなるようなはにかんだ笑みを今も浮かべてくれている。

 やがて寝息をたて始めたので、ナデシコに俺の過去を話す。クロユリが時折、耳をピクピクとさせるのがとても可愛い。


 そうして話し終わってもナデシコは変わらず、にこにことした笑みを浮かべ続けている。初めての反応なので、こういう娘も居るんだななどと思っていたらガバッと勢いよくクロユリが体を起こした。


 お兄ちゃん今まで大変だったね、これからは私もずっと一緒にいる。と泣きながら抱きついてくるので、慌ててなだめることとなった。ナデシコを見ると相変わらずにこにことしていたので、クロユリが起きていたのを分かっていたらしい。


 そうしてなんとか、クロユリが落ち着いた頃に皆が帰ってきた。その直前にナデシコからこっそり、ウチもクロユリはんと同じ思いどす。と伝えられた。ナデシコはナデシコで、何も感じなかったというわけではなかったらしい。

 そう考えたら、一瞬だけ不満そうな顔をしていたが、そのあとは罰の悪そうな顔をしていた。自分でも今のは悪かったと反省してしまったらしい。


 その顔を皆に見られて、事情を自ら話したあとはからかわれていたが甘んじて受けるようだ。俺は気にしていないよ、と伝えるとそのからかいもすぐに収まったが。


 そのあとは皆で修行をすることにする。

 リコリスとカトレアは、それぞれ魅了に掛けることとレジストすること。

 スイセンとネモフィラは、霊力を鍛える。じゃんけんで背中に隠して相手が何を出しているか当てていくと同時に、相手に勝つことを目的としている。

 アスターは姿を写し取らなくても、それぞれの力が使えるように訓練。あたいの姿をアルスさんにずっと見ていてほしいっすから、と言われたときにはいじらしくて撫で繰り回してしまった。

 ガーベラは体を鍛えつつ時折、全員に対して威圧を使う。本人は威圧は得意じゃないと言っていたが、ガーネット様ほどでは確かにない。しかし、意識してないところにやられるとかなりキツい。

 俺とクロユリは仙気の獲得、増加をそれぞれ目標にしている。この環境のなかで精神を統一することが修行内容だ。

 そしてナデシコは神通力を使いこなす修行をしつつ、全体のアドバイスをしていく。ないとは思うが、一応じゃんけんに不正がないかも確認してくれている。


 そんな感じで、今日の残りの時間を過ごしていた。

 俺以外の全員が、かなりの手応えを感じられたそうだ。

 俺も一応、仙気を獲得していないか測定器で測ることにした。


 測定器とは、あらゆる力を測ることができる装置だ。他に一つも存在しないため魔道具ではないとされている。学園にある一つのみしか存在しないため契約主と判別された者たちがサモンズ学園に集められる理由でもある。


 俺は初めて上限を越えたが、評価規格外としか言うことが出来ない。これは歴代最高値が上限とどれだけ離れているか不明なためであると言われた。

 例えばの話をするが、仮に歴代最高値が100だとすれば最低でも100以上と言うことはできるが、上限がもし1億だとしたらその数値は意味がないどころか害になりかねない。そういった理由で、評価規格外ということになった経緯がある。


 測定器に手を置く。測定器の外見は巨大な水晶だ。その水晶の中に表示されるのは、精力値──測定不能。の一行だけ。やはり仙気の獲得は出来なかったらしい。残念には思うが、今までも他の力を得ることは出来なかったのでこの結果には慣れている。


 次の日になって俺もいきなり言われたが、かなり精力が上がっていたらしい。

 これからも時間を見つけて修行を行っていくことが決まった。

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