血の繋がらない家族の日常

「あ、おかえりスー。今日は早かったね」

「残念ながらこれから新しい仕事だ。面倒な風が吹いてきたからな」

「風ってことは、ビナートの王様」

「そう」


 あの戦闘を制したスグは自宅に到着。声をかけた少女もついさっき帰ってきたのか玄関で靴を脱いでいる。マゲユイ男は既婚者なのかと初見では勘繰ってみるも、分析を入れてみるとすぐにそうじゃないと判明した。


 《遠坂澪とうさかみお》。スグの姉の娘。父親は判っておらず、何の事情かは知らないが事件以降、命を狙われているらしい。そのため安全と彼女の呪いを恐れない条件を満たした、親戚であり夫婦でもあるハルボ・ネッセ、並びにクシャ・アルベリッヒのもとで暮らすことになった。陰で何度か誘拐されているぽいが、最後は予定調和だろうか、何事もなく家に帰ってくる。きっと、そばにいなくとも親の愛というものは健在なのであろう。


 気になる点は多いが特に気になったのは、クシャ・アルベリッヒという名だ。エンビちゃんが提供してきた情報が正しければ、上位者系統の者のはずだ。変なことをして感知されたら何をされるか分からない。でも、虎穴に入らずんば虎子を得ず。そのリスクを取るだけの利益はあるはずだ。


 そういえば、興奮のしすぎで道中の連中たちの情報を分析するのを忘れていたと、普通に凡ミスしていたことに気付き、わたしは一抹の後悔と次も同じミスをしないか不安にながらも、この後の展開を追う。


「あ、今日早い……その顔だとさっきした流れかな?」

「おお、どうしたんだ。急ぎの用事か」

「二人とも話が早くて助かる」


 玄関から廊下の先、ドアを開けるとそこには家の大部分を占めているエリアであろうリビングとダイニング、キッチンがある空間。天井は太陽の光差し込むガラス張りで、二階から下の様子を確認できる通路と一階に続く階段が併設されている。この説明だけでも気付くと思うが、この家は結構広い。


 仮に召使いが住み込みで三人いると語られても信じてしまうくらいのサイズ。とてもじゃないが、四人だけで過ごすには手持ち無沙汰を感じられる。


「それで、どうして欲しんだ」と眼鏡をクイッとするいかにも科学者です、という風貌をしている男性が問いただす。


「戦闘装備と……あのバカ王子のところに飛ばせる力を貸してほしいんだ。ハルさん」と装備を科学者に要求し、瞬間移動を――むず痒いがハルさんつまり、ハルボネッセ?になるのかな、そんなことを女性に要請する。


「別に使えるけど……さっき買い物で二回使用したから、帰還するときはそのバカ王子にでも頼んでくれよ。イヤかもしれないが」

「それはそうだが、我儘も言ってられないからそうする」

「スグ、ご所望品だ」


 消去法的にクシャさんであろう男から、作動させたら光線ソードが出せそうなバルブ上の細長い筒を投げ渡され、動揺もその品を弾くことなく軽やかにキャッチ。


「この前みたいに全裸になることはないだろうな」

「そのはずだ」


「信じるぞ」と握り締め、何かエネルギーを流しいれている様子。


 一定量が溜まったのか。突然ビカーッと発光して、一・五秒ほど光源が収まるころには、日常服からタイトな上着に中はまさに軍人の服装の仕様に早変わり。現象的には恐らく、わたしの衣装が設定されるのと同じであろうが、変に発明に触れると製作者に感付かれて面倒なことになりそうだから、まだ控える。


「スッポンポンに成らなくて良かったね」


 クスクスと無邪気そうに少女こと澪ちゃんはそうチョッカイを入れる。


「まったくだ」

「親戚のおじさんのイチモツ見たって、酒のツマミにもならないからね」

「じゃあ、僕のなら面白いの?」

「観賞用と実用では用途が違うでしょ!!」

「悪かったな。見てもつまらないもので」


 軽い夫婦のイチャツキを鑑賞しながら、無邪気に食事場の椅子の上で足をバタつかせながらジュースを飲んでいる澪ちゃんで目も心も浄化し、次の展開を観察する。


「何にしても、行く支度はできたんだろ。だったら、目をつむれ」

「了解」


 そういって、ハルさんはマゲユイ男の両肩を持ち、装備に着替えさせたバルブ装置同様に何か空間を曲げるようなエネルギーを対象に流し、薄い膜を張るような衝撃が直に伝わってきて、何かわたしがこの場にいるとマズいと思い、不快にならない距離まで浮上し、ガラス窓をすり抜けて上空からその様子を観測する。


「見つけた」


 その言葉を合図に、この建物本当に大丈夫なの⁉と思うほどの衝撃波が放たれて、ある程度距離を取っているはずのわたしでさえ、またさらなる上空へと打ち上げる。威力は軽トラックに跳ねられた時のような衝撃で風景が水蒸気で霞んでいたから、かなり吹き飛ばされたはずだ。


 すぐに戻ってどうなったか確かめようと急降下――しようと思ったが、そういえばミザが『しおりを挟み込むように行きたいとこ――』だか何か言っていたことを思い出し、その場所をイメージして目を閉じたら、空間の温度が変わるのを感じて、目を開けると現場にたどり着いていた。


 そこには両肩に手を掛けられたはずの対象はいなくなっていて、その行動はかなり疲弊するのか、ハルさんはへたり込んでいて、それを旦那さんが甲斐甲斐しくも介助して近くの椅子まで移動させ、座らせる。


「やっぱり、二回以上はキヅイ」と喉をからし、椅子からひっくり返るんじゃないかと思うくらいベタリ背もたれに……足が浮いている?


「ご苦労様。その椅子を開発した甲斐があったよ。この前のように頭をぶつける心配がないだろ。ハル」

「そうね。ジャイロかカイロか知らないけど、助かってる」

「でも、スリルは無くなっちゃったけどね」

「そうなんだよなぁ。そこがいるバランスゲーの醍醐味難だけど」

「怪我しなければ何でもいい」


 家族を一人戦地にぶっ飛ばしたとは思えない家庭の風景。それだけ、スグという男は信頼されていることは分かるし、道中の実力を見てもそう簡単にやられるタマでもないことは観測して間もないわたしでも理解できる。でも、わたしの乙女心としては少しでも送った相手のことを心配して欲しいところだ

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