追う者は、追われる者

「待ちやがれ!!!!」


 街の隘路をくぐり、建物の上を上がり、合間を飛び越えて追い続けるお嬢様(仮)は謎の男のあとを一定に保ちつつ、追い込めないかと自慢の速度を活かして、回り込みを考えていた。無言で走る誘拐犯は疲れも知らない様子で、何かの時間稼ぎしているのか、彼女の追い込み漁に付き合っているようだ。


 そういえば、この土地についての情報を得ていなかったと思い。《サンズ・バリアブル・リーフ》についての分析をかけた。


 《サンズ・バリアブル・リーフ》一世代前までは海からの水が流入し、水が蒸発すして出来上がる塩化湖と呼ばれていた土地であったが、先の戦乱により流入していた汽水域が塞がれ、草も生えない塩化した土地は、岩塩発掘で有名な町となった。その発掘途中で醜裸溜まりした土地が発見されたため、人による採取は取りやめられ、半自立機械による採掘がおこなわれ、町はそれで生計を立てていた。けれど、いまやそれで喜んでくれる土地の者は誰もないない。


 なるほど、だから貨物列車があったのかと納得しつつも、そうなると何を待っているのか推察ができた。男が待っているのは、きっと協力者が運転する列車だ。それに乗ってしまえば、人の足では追いつくことは困難になる。


 あくまで予想だが、それを知らないお嬢様からすれば、ただ巻こうとする獲物にしか見えないはずだ。それにくわえて、あのマゲユイ男との約束もあるんだ、逃すという選択肢はない。逃がせば、約束を果たしてもらえないから必死になるのも当然。乙女心としても物凄くイヤなところ。


 それはたとえ、攫われているのが知っている変態でも、ゴミ箱をぶち撒けられようとも、その想いは変わらない。


「ふっ、そろそろか」


 謎の男は道のど真ん中にあえて止まり、彼女の姿が見え始めたのを確認して、脚で八の字を描いてその足を地面に踏みつけて大きく跳躍し、その着地地点に貨物列車がちょうどやって来て、そのコンテナの上に乗車。


「逃がしてたまるか!!」


 足に火を纏ったお嬢様は、さらに速度を上げて貨物列車の速度に追いつき、飛翔してを最後尾に短剣を伸ばすが届かない。このまま取り残されると思れたが、ミカーレットで武器を打ち合って、その三絃の衝撃の勢いで自分の身体を弾き飛ばし、背中を撃ちながら何とか乗車した。


「イタッー何とか乗れた……休みたいのはやまやまだけど、あの男を放っておくと何をするか解らないから、急がないと」


 あめ色の髪を風で乱しながら汗を乾かし、貨物の先を目指す。五両目辺りまで行って、そこにあの謎の男と風の人の首根っこを掴み、何かを会話している外套男がもう一人。話している内容は風が強すぎて、碌に聞こえない。


 辿り着いた彼女はその外套男の姿を見て「え?嘘……騙した?いや、コイツは違う。でも匂いは間違いなく……」と切れの悪い反応。


 彼女は何に動揺しているかは知らないが、あの左腕を失っている存在に見覚えがあるようだ。


「おお、まさか追いつかれるとは、これは驚いた」


 謎の男がアゴ髭を撫でながら、追ってきた対象に称賛という名の威圧を走行の風と共に押しかける。


「何の目的か知らないけど、そのバカを返してもらう」

「健気だね。惚れた男のためにここまでするんだから」


「…………」お嬢様は複雑な顔をして黙り込みつつも、喋っている相手を睨む。


「まあいい、少なくともお嬢さんは余計なところまで付いてきた。まさに深追いをし過ぎたというもの。こちらとしては、邪魔者以外の何者でもない。だから、この場から退場してもらおう」


 赤黒く染まった刀身を抜き、右腕を胸につけ刃を突き刺すような見覚えのある構え。その構えを見て火のお嬢様は「あなたも稲浮流……」と戸惑いが隠し切れないまま武器を構え、列車がトンネルに入ると同時にお互い戦闘態勢に入る。


「恨みっこはナシだぜ。お嬢ちゃん。いや、デオドラント・マオテラス」


 彼女の実名なのだろう。そのことにさらに動揺して、構えに揺らぎを見せながらも、その双眸には戦士としての眼光は消えいない。

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