醜意を喰らう者、オニムバス
「初手薙ぎは払いか。腐っても生命だから、学習くらいするか」
薙ぎ払いも弾き、交互に来る触手攻撃に対応し、隙があれば刃をしっかり入れていく。確かな傷を入るようだけど、相手の再生治癒能力が早いみたいで、数十秒ほどで切り込みは色味が明るい新生細胞のカサブタになっている。
「何て早さだ。いつも戦っている醜裸よりも遥かに再生力が強い。さて、どうしたことか……。」
何度も切りつけたその刀の様子を見ながら、先のことも考えている様子のマゲユイ男。分析情報によると《粘液やられ》と表示されている。
《粘液やられ》ヌルヌルしたし液体に触れ続けると多くのデバフがかかる。足元が滑りやすくなり転倒して、技の失敗を招いたり、回避時に予想外の挙動を起こし兼ねない。武器に付着すれば、刃の溝が埋まり斬撃性能が下がり、打撃においても衝撃が反らされる恐れがあり、相手の力量次第では力負けをすることがある。その状態を改善するには、粘液を拭きとったったり、その影響の少ない場所を確保することが必要だ。あるいは、その悪条件を利用をするのも策もあるかもしれない。
軟体生物とってその影響は優位に働いている様子で、攻撃のたびに傷付きが入っていたのに今や触手の肌を撫でるばかり。マゲユイ男からすれば、かなりきつい状況。
三分ほどそんな膠着状態を続けていて、触手に変化が出はじめていた。ずっと水上から出していた触手が乾き始めていて、弾きまくった効果により水分が散らされたこちで乾燥を促したとみられる。それに新生細胞から染み出していた粘液も切れぬことに比例して減っているようだ。
「そろそろだな」
オニムバスも早く戦いに決着を付けたいのか、休むこともなく、振り続けそうなっていることに気付かず、マゲユイ男が八の字に回して「三絃で穿つ刃と成れ」と詠唱した後、「ミカーレット!!」と真っ直ぐに叩き落とす一撃に合わせて凌ぎ、その衝撃で《粘液やられ》を解除し、脚にミカーレットをだと思われる御業を付与して、地面を蹴り触手の上より跳躍。落下の間に触手の筋繊維に沿うように斜めに刃を入れ、極太の触手の一本をぶった切る。切ったものをオニムバスに蹴り飛ばし、神経が密集しているとみられる殻の眉間へとぶち当てて、殻にヒビを入れる。本人は鉄橋に着地して、次の攻撃に備える。
「よし、次は何してくるかな」
触手を切られたことに怒り狂った様子で、叩きつけと薙ぎ払いにくわえて、大砲口から泥玉のような吐出物を出し、山なりに飛んできたものを避けて着弾。その威力は衝撃に強いとされる鉄橋にヒビを入れるほど。
その威力を確認して「全部弾かないとこの鉄橋が持たねえ。この川に落ちたら文字通りコイツの餌食だな」と長期戦は無理だとことを発した。
言い換えたを変えてみれば、鉄橋=生命線。身体は大丈夫でも、場所がダメになればやられてしまう、依然としてオオダコにとっては有利な状況。ただ、オニムバスにはそういった鉄橋を壊す考えがないようで、対象を潰すために山なりの大砲を撃ち続ける。それを跳びながら空中で正確に弾き、ヒビを入れた眉間へとその吐出物を跳ね返す。
どうやら吐出物は非ニュートン流体という、澱粉に水を加えたものと同じで、衝撃を受けると硬化するものようで、撃ち返す威力と激突する力により硬い殻であってもよりヒビが入る。
「これならいける」
残された一本の触手の攻撃と吐出物の猛攻を凌ぎ切り、遂に触手が切れる状態となって、第一段階と同じように凌ぎ跳躍し、その一本も削ぎ落して、同様にぶつける。メインの攻撃手段がなくなったことに、業を煮やしたのか、軟体動物が出してはならないような獣声のような怒号を出し、水底に固定しておいていた触手をバタつかせ、下から液体の質量を持ち上げるがごとく、鉄橋にブチ当てながら触手を打ち上げて、鉄橋を破壊。
「マジかよ!」
鉄橋の残骸とともに打ち上げられたマゲユイ男は、わたしの観測高度よりも上昇し落下。このままでは想定通りの餌食だ。と、思われたが、このタコかなり頭が悪いようで打ち上げられた対象に向けて砲弾を撃ち、「お互い調子に乗ったようだな!!」と、脚にメイン武器を装着し「三絃の尻尾を持って、収束せよ!三絃統一!ガレット!!!!」と、一撃のはずなのに三回、ぶっ叩いたような映像が伝い、流星のごとくオオダコに衝突した。硬い殻は完全に砕けて、柔らかい眉間が露出する。
そして、落下する位置エネルギーを運動エネルギーに変えて、「技を借りすぞ」と短剣と共に言い放ち、弱点である眉間にぶっ刺したあと、すぐに手元に戻して、最後その傷口に長牙を差し込み、「ガレットソルト!!」と刀を脚で抜き去るようにバク転。オニムバスは暴れまくり、切り裂かれた部位からは相手をぶっ飛ばすほどの体液が噴出し、その威力を利用して鉄橋の道の先へと着地。脚に装着した凌ぎ刀を手で回収し、ミカーレットで血払いをして、ゆっくり武器を鞘に収める。
「ふう、何とかなった……」
オニムバスは、縛んだ風船がごとく萎んでゆき、河の藻屑となった。
《ガレット》脚にミカーレットを纏うことで発動できる戦技。業の行いには外れているが、利用のやり方としては原初に近いため、戦技でありながら腕よりも威力が出やすい。
《醜意を喰らう者、オニムバス》通常のオニムバスは一メートルほどの渦巻状の殻を持ち。サンズバリアブルリーフでは生態系保全のために壺焼きにして食べることが多い。だが、醜裸に呑まれた影響で手に負えないほどに成長し、周囲の生物を蹂躙。自然界ではありえない大きさへと成長した。理論上、巨大化には際限がないと判明しているものの、大概は身体を支えるだけの栄養が足りず、死に絶える。はずだったのだが、この町の閑散さを見れば何があったかは想像に難くない。
「さて、あのバカはどこ行ったか。気配だけなら……かなり離されているな」
わたしも分析を入れてみると、遠くで建物を乗り移りする人影が見えて、追うにも無理そうだなと、諦めを感じたが、それを否定するようにプシューと誰も乗っていない列車が止まり彼を誘う。
「これなら、追いつけそうだ」
笑顔で呼応し、出発の装置を起動させて列車を走らせる。
こちらも一段落下から、今度はてらすだか、マオチだか知らないが、彼女を追うことに決めて、転移する。果たしてその先には何が待ち受けているのか。そんな期待を持ちながら、この場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます