燻る火種

「ふん!」

「――ッ!」


 先手を打ったのは謎の男。切りつけてくるように見せかけて、まさかの鞘下の拳による、みねうち。二つの武器で防いだが、鈍い肉の衝撃が意外にも強かったらしく、足裏をすり減らして後退。体幹が落ちている間にも追加攻撃をして、彼女の守りを誘発させる。相手の身体を斬撃する隙はいくらでもあるのに、武器破壊を目的としているのか、手元の刃を狙て凌ぎ刀を振り下ろし、時には拳で殴りつける。


「はあ、はあ、はあ、なるほど、拳もあなたにとってはケンということね。ダジャレにしても笑えない」

「笑う必要はない。笑顔は虚勢を隠すの派生でしかないんだからな!」


 そう言いながら稲浮流使いの男は狂気の笑みを見開き、さらなる攻撃を武器に当てていく。


 彼女が持っている武器は魂武具だから、分析通りなら使用者本人がやられない限り壊れないはずだ。けれど、執拗にそこを狙うという事はちゃんとした理由があるに違いない。戦いの合間にその赤い刀身を持つ武器に分析をかけてみたことにより、それも魂武具であることは判明したが、それ以外の情報が読み込めない。原因は分からないものの、この男はこの世界の理から外れた存在であることは濃厚らしい。


「ガレット!!」

「おいおい、稲浮流にもガレット組み込まれているくらい識っているだろ。惚れた男はそんなことも教えなかったのか」

「ええ、知ってる」

「ふん、知っているだけか」


 男は足剣術のひとつであるガレットを凌ぎ刀を持つ右手一本だけで受け止め、三絃纏いミカーレットの威力を単純に受け流し、鍔迫り合いに持ち込み、彼女の脚が力のピークに達したところで一時的に後退し、慣性と余力がついた虚を突くように白夜の神秘を付与した拳を相手の溝うちに入れてカチ上げ、後方の貨物コンテナの上へと吹っ飛ばす。


 その攻撃を受けた彼女はコンテナで何度か跳ねて、腹を押さえながら何とか立ち上がり、カタカタと腕を硬直させながらも構えを取る。上がってきた敵は「そう来なくちゃな」と右肩に刀身を乗せて、汗もかかない余裕な表情。


「私よりも遥かに弱い……というか、コイツ本当に生き物なの?」

「どうかな!!」


 容赦のない攻撃が相変わらず武器の方に与えられ、何度も何度も弄ばれように体幹を崩されて、体の筋としては立つのも困難になり始めていた。


 このままじゃやられる、内の声が聞こえるほどに焦りと弱音の振動が響き、こうなったらと無理やりにでも攻撃を当ててやる考えたようで、二対の刃を統合と分裂を繰り返し、怒涛の連続攻撃。刀一本なため攻撃が防ぎきれず確かなダメージが入っているかのように思えた。しかし、狙い通りだったのか、最後の一手をぶち込もうとしたときにやっと相手の真意が分かり、彼女は絶望した。


「あれ?冬月が……ない⁉」


 それに気付いた瞬間、視界が突然ガックンと前方に下がり、それよりも高い位置にあるはずの男の顔が目線の底でニヒルなうすら笑いを浮かべて、嘲笑していた。それもそのはず、冬月は男に《簒奪》されて、その己の武器で体重をかけていた利き足を膝から下を切り飛ばされていていたからだ。


 その患部の痛みが来る前に、男は彼女の顔面を殴りつけ最後尾のコンテナまでぶっ飛ばされ、その脚から漏れだしている血液を撒き散らしながら横たわり、衝撃を分散させてすぐに、自分の火の術を使ってその断面を止血。言葉にするのも拒ませるくらい痛々しい声を唸らせて、何とか意識を繋ぎ止め、近づく脅威に双眸を向ける。


 《武器の簒奪》武道は相手の制圧に重きを置いている戦闘術であり、殺戮のを目的とはしていない。中でも相手の武器を奪うことは無力化させる定番の手段といえる。それを行うにはまず、相手の装着部位に同調か鈍化させ、取られたことに気付かせず、奪うことが基本だ。特に魂武具は同調により、使用者を判断しているため合わせられたら、たとえ赤の他人でも武器を簒奪され利用される場合もある。


 つまり、ずっと魂武具に攻撃を当てていた理由は、手元に衝撃を与え続け鈍化させと同時に武器との同調を図り、乱れた度合いを見計らい簒奪して、脚をぶった切ったというわけだ。


 合わせの得意な稲浮流にからすれば、きっと造作もない事なのだろう。彼女はまんまとその術中に引っ掛かたというわけだ。


「惜しいな。素直に降りてくれたら、自慢の脚を失わずに済んだのに」

「――そうかしら、まだやれることはあるのよ」

「そうか、次はその腕を吹っ飛ばして欲しいのか?」

「――――ッ」

「残念ながら、ここで終わりだ」


 男は冴えるほどに暗闇の中で輝く緋色の刀身を真っ直ぐに両手で構えて、大きく振りかぶる。背景は白み、死ぬ覚悟を持ちながら目を強く瞑る。


 けど、いくら経っても死の一手は行われない。


 薄っすら目を開けて男の様子を見ると、構えたままよそ見をしていた。その顔には冴え冴えとしたような笑みが張り付いていて不気味さがあるが、目線の先を見てわたしも似たような表情になった。


「ハハッハ、英雄ヒーローの登場だ。ハハハ――」


 その発言でやっとその方向を見た彼女。その瞳は冴え冴えとしていて、強い風が吹く中でも消えない輝きを見せてその者の名前を呼んだ。


「スグ!!!!」


 並行して走る二両が並行して通過する線路に入り追いついたマゲユイ男。相手を確認した後、着地するところを推測してコンテナの上を駆けて飛翔。謎の男はウェルカムと言わんばかりに、間合いを取り着地地点に移動後退して、稲浮流同士の弾き合いをして、戦いの舞台のコンテナの上へと煽りすられながらも着地。


「ギリギリセーフってところかな」

「もう遅い!」

「それだけ元気があれば上等だ」


 安堵する彼女の表情を見て、安堵するもう一人の稲浮流の男。


「最高なタイミングじゃねえか。沁みるよ」

「お前が、テラスをこんな目に遭わせたのか?」

「愚問だ」

「稲浮流の風上にも措けないクズだな。お前」


 先手と言わんばかりに構えを取る。

 

「全く持ってそうだな……まあいい、二ラウンド目と行こうじゃないか」

「あたぼうよ!!」

「気を付けて、コイツ物凄く弱いから!」

「相手が稲浮流じゃなければ、ただの煽り文句だったのにな、それ」

「来い!力量を確かめてやるよ」


 相手の男も構えを取り、戦闘態勢に入る。


 それを確認しながら英雄は何か策があるのか、風の雑音に紛れて「自分が隙を作るからそこにありったけの術をぶち当てろ」と指示を送り。


「わかった」と彼女も了承し、休憩を取りつつその隙を見定める目線を持つ。


 こうして、睨み合った稲浮流の二人。新たな戦闘が切って落とされた。

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