蓋開けぬ偏見は命取り

入れ違いの客人

「思った以上に動かしやすいですね。聞いていた義足は坂道で助走も付けずにペダルを漕ぐみたいって言ってたのに」


 白い義足を曲げ伸ばしして使い心地を確かめる欠け身だったマオは、情報との差異に驚きながらも出来栄えに感嘆する。


「同じようなことをさっき言われた。いくら設計図や知識があっても、工夫ができる発想がなければ廉価版だからな。最もその一を作った奴が優秀だった。それだけの話だけども」と己の技術力を自画自賛しつつも、慢心しない賞賛の声を漏らすクシャ。


「そうなんですね……今更何ですけど、醜裸にぶつけても大丈夫なんですか?構造的には魂武具と変わりないとは聞いてるんですが……?」


「ああね。理論上は大丈夫だが、魂武具とか相手の顔料次第では破壊される場合があるね。あくまで無地のパーツにその人の顔料をエネルギー源にして強度や部位に馴染ませたり、代謝能力を付与しているから、気持ち次第では惨劇どおりになる」


「その言い方だと、まだデメリットがあるような言い方ですね?」


「代謝機能付きの魂武具だ。使うエネルギーもバカにならない。とはいえ、マオクンが気にすることじゃない。常人であれば、十二倍ほどのエネルギーコストが付いてくるが、元から魂武具使いだ。コストは三倍程度に抑えられているはずだ。一般人に販売できない理由はそこにある」


「要するに、精神力、物の扱い方次第でコストやメンテナンスいらずってことですね」


「そういうこと」と使用者の理解度が高くて助かるといったようなギリニマリ顔の微笑みを浮かべて内心ご満悦。


「ところでいくら――――」


「別にいいわよ。むしろ、試験データ欲しさに無理やり装着させたようなものだから」とお茶の準備をしていたハルさんが報酬の有無を答えて、もらう権利者本人も手を振って、いらんいらんとその意見に同意する。


「それでも、何か……貸しを返しておきたい」と胸中としては気分が悪いと言おうとしたが、抑えた内容を発する。


「なら、マオちゃんの最近の話とか会っていない機関の身の上とか聞かせてよ」と机に淹れたてのお茶を置き、釘を刺す。


「わかりました。それではそうします」

「熱いから気お付けて……いらない心配だったわね」


 マオはケロッとした顔をして「お気遣いどうも」と乾いた笑いをして、用意された器を置く。その目の前には、机の下に隠れていたミオちゃんがいて、本当に熱いのかと訝し込み、軽く触れて「アチッ」と驚いて、「大丈夫⁉」と場を冷ましたが、「平気」と落ち着いた口調で言ったから皆安堵した。

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