下世話な話は潤滑油?
「それで最近どうなわけ?たとえば、気になっている男がいるとか」
「……女性の人って結婚するとみんなそんな風に訊いてくるけど、何かの病気でしょうかね」
「安心しろ、あと数年もしたら、うちの旦那が~とか愚痴を言い出すから」
「アルベ?」とハルは鋭い視線を相方に刺した。
「ほらな」と刺された本人は想定通りと言わんばかりに、与えられた飲み物を煽る。
「仕方ないでしょ。最近の流行とか聞いても文化圏が違い過ぎて、共感に困るものとか出てくるし。万国共通で対話できる事と言えば下世話な話しかかないんだから」
「アハハ……お気遣いどうも」と、やたら乾いた笑いをする話題の中心人物。
まだ他の領についての情報はテキストや簡易的な内容しか知らないが、今までの領に対しての偏見を考えて、同じ国でも文化がかなり違うようだ。もしかしたら、わたしの中では正常でも一つ垣根を越えたら、実はド変態発言、相手をキレさせる発言をしているのかもしれない。
結局は郷に入ればいいが、わたしの相方曰く、人を喜ばせようと賑やかに振る舞ったが、逆に場違いで、それを濁そうと酒を飲みすぎて大失態を起こすことだってあると、心構えは素敵でもやる事がその場では空回りすることがあるという苦い記憶を綴られた。
たとえは極端だが、同じ時を過ごしたはずの同級生でもその様だ。地域が違うとなれば、初見で問題発言をしてしまうことはある程度は仕方ないことだとは思う。けれど、その失態のおかげで話して良いラインが定まって、後々で周囲の人間が助かっているのも事実であろう。わたしもそれで場の空気を掴めたことが何度もある。
個人の失態であっても、圧場所では救いとなるところもあるのだ。
「それで、質問には答えてくれる?」
「……それが条件で引き止めてもらったから話すんですが、そうだね……先日の任務で私と互角……多分遊び半分での戦いだったんでしょうね……昔と変わらない男の人に出会って、興奮したのは記憶に新しいですね」と観測したことがある話。
「おお、それは、それは」とハルはニタニタ顔になって、脚を付けた技術者が「まさかそいつに斬られたのか⁉」と早とちりなことを吐き、「今いいとこだよ」と妻に止められる。
「……部分的にそうかもしれない。でも、その本人じゃない。むしろ、私の命を救ってくれた人。もし、あの時いなかったら今ごろミンチにされていたかもしれない」
「その言い方だと、その人と同じ武術使いとかその人の兄弟的な印象を受けるんだけど……」と核心的なところハルは突いた。
「……バレますか?日常には支障ないですが、解像度の方の視力が悪い代わりに動体視力が良いから、動きで人を判断してしまうんですよね。あと匂いで相手を判別しているから似てると即時判断に困るし……」
「戦士にとっては都合の良い目だな」と評価するアルベ。
「そうかもしれませんが、人の顔が認知できないんですよね。だから相手の名前を覚えても、誰が誰だか判断するまでに時間がかかるし……それらで判断できても、呼ぶときはいつでもギャンブルですし……それに――――」
「待て待て、ストップ、ストップ。別にそういう暗い話は求めてない!!」とハルは止めて「そうだ!その男がもしこんなことをしてくれたら良いな思うことを考えましょう、ね!」と無理やり話題を変えた。
「…………」
マオは内心「ですよね」と思っているが、深層では暗い話でも聞いてくれて、励ますことも共感してくれるわけではなく、ただ微笑んでくれて、「だから、今日は君はこの世界に生きているんだね」みたいな讃美が欲しかったようだ。
けれど、それを察しろというのは無理な話。わたしの明晰力と相方の深堀能力でやっと取り出せた内容だ。常人が認識することは難しいだろう。
「そうですね」と続けて「『おかえり』って言える人が良いですね。それで『今日も生きてて偉い』って冗談でも誉めてくれて、不器用だけどやろうと頑張ってくれるそんな感じが、理想的ですね」と一部本音を混ぜて、頬を赤らめながら言う。
「うん、うん、そういうのそういうの。忘れかけた何かを思い出すわ」
「僕も久しぶりにそんな顔がみられた気がする」
「まあ、ありえませんけどね……」と所詮は理想と切り捨て、ふたたびハルは気分を害した表情に。
その光景を見てミオちゃんはボソっと「皆な素直になればいいのに」と不満を口にする。
そんな最中に、「ただいま」ともう聞き馴染みのある声が聞こえて、一同は声のする方向に向き、各々の反応をした。
「おかえり」
「生きて帰ってきたか」
「スーおかえり!」
「――――――!」
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