狩る前に狩るれば晩御飯

 大熊は強靭爪をむき出しにして、片腕のマゲユイに飛び掛かり叩き潰そうとするが、そこは彼の十八番。期待通り弾き飛ばし、獣は後転する。


 意表を突いたことで行動が単純化。ふたたび同様に飛び掛かってきて、ミカーレットの準備するが守りの構えではない。


「行けるよね」

「そのつもりだ」


 お嬢様は壁を登り、片脚で飛躍して大熊の頭上に舞う。同じく八の字を描いて、ミカーレットの準備。


「三絃を交し!」

「三撃をまろえ!」

「双重ミカレット!!」


 刃が同時に頭部に激突。三連続の重音が鈍く響き、肉の潰れ裂ける音を鳴らし、確かな衝撃と損傷を食らわせる。


《双重ミカーレット》ミカーレットを別方向から同時にぶち込む御業。失敗してもズレた一撃同士が入るが、合わせた方がそうするよりも三倍の火力になる。それは貧弱な存在でも共鳴すれば、大いなる存在であっても攻撃は通る。過去にも、連携が取れ過ぎていた軍隊が橋を渡り、鉄橋が崩れて犠牲になったとか。誠、過ぎれば身を滅ぼすものだ。


「早いく、狩った方が方がラクだからね」と難なくお嬢様は着地。


「油断するな。まだ息の根を止めていない」

「なら、いま止めるのみ」

「待った!」

「え⁉」


 気絶して、虫の息だと思い飛び掛かった途端、姿勢の低い位置から払い退けの動きをしてきて、簡易的に弾くがマゲユイほどうまく弾けず、片脚だけではその衝撃に耐えきれずに吹っ飛び、壁に叩きつけられる。


 この状況を好機と見た大熊は、お嬢様の方に向かい駆け出すが、ガレットで吹っ飛んできたマゲユイにより進行を弾かれて横転。その隙に四足、正確には三足歩行か、その姿勢で助走をつけ、全身の力を使って跳躍。足に琳の刃を取り付け、炎を纏い回転を付けて、立ち上がる大熊のうなじを削ぎ入れた。


「硬った!!」

「やっぱ一発じゃ無理だったか。ならこれでどうだ!」


 壁を蹴り落ちた勢いを活かして短い刀身の沙華を追撃でうなじに打ち込む。両方とも刃がちゃんと入ったものの、強靭な身体を支える脊椎がかなり丈夫で、そう数回攻撃を立てたところで断ち切ることはできない。


 大熊は痛みで暴れ出し、数秒のロデオを嗜んだ後、その勢いに耐えきれず二人は吹っ飛ばされて、地にひれ伏す。


「簡単にはいかないか……」

「次でどうにかしないと、最悪共倒れだ。それじゃ戦った意味がなねえ」

「だったら、賭ける?無謀でも」

「何をする気だ」

「いま出せる二人の最高火力と言えば」

「やることは分かった。それでどうする?」

「こっち来て」


 お嬢様は手ごろな石ころに術式を張って、岩の隙間にそりを打ち込み。


「まさか……」

「そのまさか!」


 ドンーーンと、その石ころに蹴りを入れて爆発。その直前に仕掛けた本人は男にしがみつき、その爆風で飛翔して、そのまま本番へ。洞窟が崩れはしないかとヒヤヒヤしながら状況を見守る。


「「これでお終いだ!!」」

「三絃!」

「統一!」

「「三衝!」」

「「双重ガレット!!」」


 心地の良い金属音が抜けて、その御業は短剣たちに衝撃が伝い、大熊は断末魔も上げることなく、処刑台で首が跳ねられるがごとく、胴体から離され、その断面からはおびただしい血が流れる。胴体が緩衝材の役割をして、着地の衝撃を和らげる。


《双重ガレット》ガレットを同時に使うことで相乗効果を持つ威力を出せる御業。確かに御業を見出したのはマゼルだが、決して一人で導き出せたものではない。多くは悩みを克服した先に見出すが、強力で調節が利く御業ほど相手が存在し、共に歩むものだ。それがたとえ、解り合えない異性だったとしても。


「やったか?」

「これでやってなかったら、怖いよ」


 ポタポタと滴る血を見て、「それもそうだな」と納得して武器をしまい、胴体の上から降りる。


「さて、血抜きをする必要をないみたいだし、どうやって調理しようか」


 ピキッと何かにヒビが入る音がして、いち早く気付いたマゲユイは「どうやら、少し暴れすぎたようだ」と警鐘を鳴らした。


「とりあえず、外近くまで逃げよ」

「そのつもりだ」


 すぐに負ぶり洞窟の入口へと走って、入り口の手前まで行き、崩落の音を確認して十分後くらいに中に戻り、今日の食材を確認する。


 思った以上に崩落はしておらず、というかその影響で黒い文様の入った資源を見つけて、「これがあれば、しばらくは火には困りそうにないね」と燃やす専門家が口にして、マゲユイは「今度は炭鉱夫か」と役割を買う。


「……どっちも重労働か。頑張って来てね」

「ああ、気を付ける。いきなり火をつけるんじゃないぞ。また爆発したらたまったもんじゃない」

「さあ、どうでしょ?」


 そんな会話を交わし、マゲユイは石炭堀に、お嬢様は首の取れたクマを解体をやり始めるのであった。

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