奈落の底へ
「醜裸だと⁉」
「はあ、そうだ。俺はもうこの世の生物じゃない」
「なるほどね。だから、やれるイメージが湧かなかった訳だ」と、やせ我慢を示すように威勢のいい声を出し牽制する。
「二人とも惜しかったな。だが、これは現実だ。散ってくれ」
あらためて最後の一太刀が入る、と思われたその瞬間――――バンッ!!と先の線路鉄橋が爆発する音が轟き、またもや中断。
「ああ、本当にお前ら運が良いな」と捨て台詞を吐いて謎の男は、貨物車から崖に降りて、下で待機していた飛行船に乗って遠くに旅立ってしまった。
「くッ重い……」
「え?失礼……でもないか。もう少し耐えれる蹴り飛ばされても」
「ムリ」
「仕方ない一か八か、あ!」
バランスの取りづらい片足で跳躍し、コンテナの縁に捕まろうとしたが失敗して、手が外れる。マゲユイも体力の限界で、短剣から手が外れて、叩きつけられる映像が見えたが――――。
「間に合った、ハハア……」と誘拐されていた王様が二人の外れた手を繋ぎ止め、向かい風もものともせずに、コンテナの上に引き上げてくれて、事なきを得た。
「助かった……」
「ハア、ハア、ハア」
「ご苦労なこって、さあ、とりあえず安全なところに移動しよう」
「あんたに触れるのはイヤだけど、借りは作りたくないから容認しよう」
「それ、借りっていうわけ?」と死にかけの友人を心配しながらながら、彼女の余裕のある姿を見て、心を落ち着かせる風の人。
風の人は肩を掴み、転移しようとするが、三秒ほど経っても移動しないことに訝しげに思ったのか、お嬢様は「どうしたの?」と問いただす。
「……非常に言い難いんだが、移動できねえ」
「なんでだ……まさか」
「ああね、そのまさか、逃げるために何度も使ったから使用限界が来ったみたい」
「はあ⁉じゃあどうするのよ!」
「……天に祈るしかないな。この下は川が流れている。運良く着地してサバイバルができたら、あるいは……」
風の人はわたしを見て、わたしにやれと、言われているような気がして、猿真似にも二人の肩を掴もうとしたが、以前のキュヲラリアの物品同様にすり抜けて事にならない。
「あるいは……なによ?」
「悪い、いまその策がダメになった」
「何の話?うわ⁉」
ギイイイイイィーーと金属が擦れて曲がる音を立てながら、傾斜していく貨物列車。黒板をひっかく音にも似ている響きに悪寒を走らせつつも、その後の展開にも肝を冷やす。
「このままだと、さっき言ったことにチャレンジしないといけなるぞ」
「じゃあ、そうしてくれ」
「じゃあ、そうしてくれじゃないのよ!!」
「オレッチがダメになって救出できなくなるよりかはマシだ!悪いが先に離脱する」
「無責任なぁ!」
お嬢様は頭を抱えて騒ぐ中「受け入れよう。生きていたら絶対に来いよ」とマゲユイは決まった発言をかます。
「それはギリ耐えられるけど、このあとにやって来るあの内臓がフワッと上がってくる感覚は耐えられる自信がない!」
風の人はニコッとして「耐えてくれ、いろんな意味で。それじゃあ、健闘を祈る」と敬礼をして姿を消す。
最後尾にも傾斜がやって来て、直下クラスのジェットコースターのごとく落ち込んでゆき、「ウプ」と青ざめた顔をしながら、マゲユイに抱きつく。
「まったく……」
「「ふざけんじゃねええええええええええええええええええぇぇえ!!!!!」」
二人は絶叫しながら奈落の底に落ちてゆき、川の水しぶきの音と貨物列車が崩壊する音を響かせ、わたしは生きていることを願い、その落ちた先へと転移して追った。
その光景をまだ知らぬ存在に眺められながらその者も崖下に降り、次の展開に繋ぐ一手を携え、奈落の底へと沈んでいった。
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