依頼者は喫茶店にいる

「はじめまして、あたしの名前はシェイといいます。お見知りおきを」

「……どうも」

「もう、ごめんねこの人そういう人だから」

「うるさい蝦助野郎」

「二人は仲が良いみたいですね」

「どこが」

「もう照れちゃって~」

「うるさい」


 シェイと名乗った彼女は、以前変な三人組に絡まれていた蒼黒髪のお姉さんで、鎌をかけるように『はじめまして』といって、その鎌がスグは見えていた様子であったが、思い出せず歯切れの悪そうな返事をした。空気感を悪いと察したエンビちゃんはわざとマゲユイの神経を逆なでするような発言をして、場の緊張を解き二人をカウンター席に座らせた。


 カウンター席に置いてある黒い飲み物には湯気はなく、あまりおいしくないであろう内容物をシェイは呑み干し「また淹れてくれる?」と店主であるモブさんに依頼。


「かしこまりました」と飲み物を淹れ直す。


「俺にも頼む」と同じものを注文し、同時に淹れられたカップがお出される。


 先に一口つけたのは意外にもスグで、カップを置いた後「話だけは訊いてやる」とどこか不機嫌そうに答えてから「その前にお前、どこの出身だ」と詰問する。


「……あなたについての情報は、あなたが蝦助野郎と可愛がっている子から一部始終聞いているわ。その上でいうけど、あたしは琉地領の出身の上流国民よ」と傍から見ても分かりやすい鎌かけをして、相手の反応を待つ。


「はあ、分かった分かった。そう露骨に鎌をかけるな。気に入らないが、吐いたツバだ呑み込むつもりも逃げるともりもない」


「そう、それが訊けて安心した」と睨みは変えず、鎌だけを外し会話を始める。


「それで話は何だ?」

「話が早いのは助かるけど、少しお喋りしない?」

「……あまり長話に付き合わせるなよ」

「善処する」

「やっぱ、流地領の人間だな」


 シェイは飲み物に口を付けた後「あなたには家族がいる?」とサラッと質問。


「いるにはいるが、直接血は繋がっていない。血の繋がった家族はヴォイドアウト事件以降消息不明になっている」

「そう、イヤなことを訊いてね」

「そうでもない。思い出せたら辛いかもしれないが」

「そういえば、記憶喪失だったね」

「ああ、元知り合いに関わっていく中で思い出せている部分が多々ある」


「そうなんだ……もし、その喪失した裏に誰かを殺した記憶があったらどうする?」と、どこか深い闇を湛えた瞳をして彼を見つめる。


 その雰囲気にスグは数回瞬きして考え「自分がやった覚えのない記憶でも、まずは謝罪をするだろうな。いくら十年ですべての細胞が変わると言っても、その地続きに自分は存在しているんだから」と覚悟のある言葉。


 彼女はその発言に「それは良い心がけね」と少し表情を和らげる。


「それで、そのことと今日ここに呼ばれた理由と何の関わりがある」と話を本題に移そうとしたが、彼女は目を細め眼光を照りつけて「もう少し話しましょ。それにその態度が懐かしくて」と、どの立場の女性かは分からないが、乙女というには大人びていて、少女というには物悲しい表情する。


「分かった。もう少し付き合ってやる」


 カウンターの向こうでは店主がコップを綺麗にし、彼女の隣で座っている合法ロリは「人を気遣う心があったんだね」とおちょくっていつも通り。


「あはは、意外とあなた喋るのね」

「殴って良い奴に限るがな」

「あたしはどう?」

「会って一時間も経たないヤツは殴れねえよ。とはいえ、防げない攻撃をされたら心変わりするかもだが……」

「どうしたの?」

「……やるなよ」


 今度の鎌かけはイタズラな少女の戯れ。スグの飾らない人柄に惹かれているのか、さらに表情が柔らかくなっているように感じる。


「それで、話って奴は?」と本題を振り直すと、「……やっぱりそういうところは嫌いだな」とその表情は曇り、見え透いて肩を落とした。


 続けて「分かった、そろそろ本題をしましょう」と仕事人に生真面目な表情と姿勢を取り、「水晶街無差別殺傷事件を知ってる?」と物騒な話題が出てきた。



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