欠け身の因縁

新たな前触れ

「何度見ても見事に切られているな。追加切りも必要じゃないくらいに」

「ああ、あいつはかなりの手だれだ。同じことができるかな」

「……あのさ、注目すべきところはそこじゃないと思うんだけど」


 ハルはジト目でスグに義手を付けているクシャを見ている。


 彼女は恐らく、やられたことへの文句とかどう攻略するかなどの会話を望んでいたのだろうが、二人とも天才と言えば聞こえはいいものの一般人とは違う善良な異常者なので、そのような会話はする気は無い。むしろ、攻撃してきた相手を称賛することで真似ができないかと摸索をするレベルだ。


「ただいま~」

「「「おかえり」」」


 外から帰ってきたミオ。剣士が普通に存在している世界で少女一人を外に出して良いのかと心配になるが、この家の者は皆気にしていない様子。どうしてかは今後調べることにして、展開を追っていく。


「今日は何をしてきたんだ?」とスグが訊く。


 そうして、「うん!薄暗い男に誘拐されかけたけど、勝手に川に落ちた!」とにこやかに答えた。


「そうか」とスグは言って、あとの二人は各々の作業をし続ける。


 そこ突っ込まないの!と意識を共有しているジュジュさんの声が聞こえたが、わたしからすれば、このくらいの事この世界では普通そうだからそこまで驚かなかった。


「はい、これでよしなはずだ。動かせるか?」


 筋繊維がむき出しにしたような人工的デザインをした義手の指先を動かして、動作確認をする。傍から見れば、違和感なく動いているように見えるが、武器を扱う剣士としては「動くには動くが、思った以上に強い信号が必要みたいだな。馴染めばそうでもなくなるとは思うが」と感覚的な感想を示す。


「運良く着けるような人生を歩んでないからその感覚は分からないが、他の技師と比べたら最高クラスのはずだ。以前、ビナートで出会った評判の技師に義節を見せる機会があって『科学の限界とまだ先の領域があることを同時にこの目で見るとは』と、お墨付きをもらったほどだ」と自慢げに話し。


「そいつ可哀想だな。努力を一瞬で灰にされた気分だろうに」

「そう思うだろ。でも、あいつ泣き笑いして『科学が否定したものを肯定してくれる品を持ってきてくれてありがとう』と感謝して来てさ。シビれたね」

「……飛んだドМ野郎だな」

「ハハハ、そうかもな」


「あ、そういえば、朝方にモブさんから連絡があったよ。『紹介したい人がいる』って、『できれば、二時までには来てくれると助かる』とかなんとか」とハルさんが話の切れに入ってきて、そのことを伝える。


「モブさんがそんな連絡入れるってことは……厄介事ではあることは間違いないが、いかないと後からが面倒だから、行ってくるよ」

「一応、戦闘用のカスタマイズではあるが、実証運用はされたことがないから過信しないように」

「わかった」


 簡単に了承して服を着替えたあと、澪ちゃんに「生きて返って来てね」と玄関にまできて言われ、スグは「ああ」と返事をして外出。


 そこから十分後、入れ違いで一人の女性が尋ねてきた。


「お久しぶりです。ハルさん、クシャさん」

「久しぶり、元気にしてた?テラちゃん」

「よく来たね。マオくん」

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