観測者(ミクロ・ネ・イア)について
「それで、これで何ができるの?」
「一言でまとめるには難しいが、大きく分けて三つの要素がある。一つ目は『情報の保存』二つ目は『デュアライズ』三つ目は『顔料のデータ化』だ」
「ちょっとミザ。ちゃんと情報とデータの違い理解して言ってる?デュアライズもそうだけど、カッコイイからって理由で発してない?」
「発言が気に入らないなら、自分で解釈を変えろ。さっき明晰力の話をしたときのように発言の様子も、相手の印象設定を変えるだけで、口調も変更できる。どんな風に聞こえているかは知らないが、文句があるなら自分の解釈に問いただしてくれ」
「わかった。とりあえず、その三つ機能について教えて」
「さっそく、変えてきたな。まあいい続けよう。いや、飲みながら話をしよう」
ミザはまだ残っているティーカップの液体を飲み干し、再びティーポットを手品のように出現させ、先にわたしのカップに注いで、自分の分も淹れる。
「……あと一杯分しかないからすぐに飲むなよ」
「さっきは全然あるって、言ったじゃない」と意地悪に小突いた。
そうすると、厳めしい顔をして「本当に、マザーじゃないんだよな」と、その威圧感に剣呑な気分にさせられるから「冗談、冗談、何に起こっているのか分からないけど」と、おどけてみたら「そういうことはやめてくれ、虫さんが走る」と向こうもおどけていることが分かる意志が伝わってきて「そこは、虫唾が走るでしょ」とツッコんだ。「間違いない」と表情を和らげ話を続ける。
「『情報の保存』は入手した生モノのようなもので、何の注釈もない観測したものが保存される。保存量は思念体、または使用する肉体に依存する」
「ちょっと待って、つまり今のわたしの状態は思念体か、人間の肉体で来ているってわけ⁉」
「今更気付いたのかよ。そもそもこのアカシックレコードに接続している時点で、思念体であることは間違いないぞ。ここは四次元以上の者にしか来れないからな」
「つまり、わたしは死んで――」
「死んでない!!」
「……⁉」
「悪い、古傷が痛んだ」
この空間に超えてはならないコードがあるように、未来を見据える者ミザにもそのコードがあるのであろう。結晶体を眼に入れたときもそうだが、彼が拒絶する何かがきっとわたしの思念体に住みすいているのだろう。けど、潜在的にそのことを訊かないといけないって思って、踏み込んだ。
「ちくいち癇癪を起こされるのイヤだから、そのマザーについて先に教えて」
「謀ったな。あいつ……」
口調からして管理コードには引っ掛からなかったらしく、未来を見据える者はマザーについて語り始める。
「マザーは星の核に成れなかった思念体にして、
「それってここに来る者と同業者じゃ」
「まあな。基本的にはマザー種は星に成れなかった数だけ存在し、そんな不完全な部分を補うため、癒すため、あるいは自分の分け御霊から作った先触れを用いて、他の思念体に寄生をさせ、星の核に成れる直前に宿主を乗っ取り、星に成り代わるという狡猾なマザーもいる。その中でも特に、てめえに憑いていたのは、俺のマザーでもあった化け物で、細かい事情はその存在の強化に繋がるから控えるが、てめえがのやった事として己の真名を思い出したおかげで…………」
少し渋りを見せながらも三秒ほど間をおいてから、
「あまり気分は良くないとは思うが、その存在をてめえの体と真名で封印をすることができているが、不安要素としてヤツの真名をしてしまったり、関連情報に触れることでマザーの影響力が高まってしまうリスクがあるから、気を付けてくれ」
「対処法とかあるの?」わたしの素朴な疑問にミザは「あったら、俺で対処していたはずだ。つまり……」と、またまごついた。
それを見かねて「つまり?」と、わざと相槌を打って発言を誘発させる。
ミザも誘導されていることは分かっていたが、観念したように「あまりにもヤツを識り過ぎたから、どうすることもできなかった」と顔に影を落とす。
「となると、あなたがそこまで想われちゃうと出ちゃうかもね」と、思ったことをすぐに出してしまい、シマッタ!と地雷を踏みぬいたと思ったが「まったく持って、そうだな」と、そんな自分にうんざりしたような情けない顔をして、遠くを眺める。
「俺が言えた義理はじゃないが、これからいろんなマザーの先触れに遭遇うと思うが、全部がヤツと同じわけではない。
「わかった。それで、あとの『デュアライズ』と『顔料のデータ化』について教えて欲しいんだけど……」
充分に内容が訊けたから、わたしは中断させていた観測機能の話を要求した。
「そうだったな。『情報の保存』については覚えているか?」
「あれでしょ、録画の記録媒体みたいな話でしょ」
「それだけ分かっていたら、話は早い」
それで、お互い一口液体を煽る。
「『デュアライズ』はその入手した情報を考察や様々な注釈、俗説をブレンドして顔料を作り出す機能だ。続けて作られた顔料をアカシックレコードに保存できる形にするのを『顔料のデータ化』と呼び、レコードに保存することで他の
「つまり『録画』『編集』『投稿』ってことでしょ。なんだか配信者みたいたい」
「なんか、雑に解釈された感じがするが、まあいい。そこまで分かれば充分だ。あと先ほど装着した操作オブジェクトを観測オブジェクトにかざすと、媒体の機能が開くから、観測に役立たててくれ。想像したことは大抵できるから」
「そのポットも『投稿』機能を利用して出しているんですか?」
「まあ、そんなところだ」
液体をあと一口分だけ残し、実際に指輪と宝石を溶かしいれた右目をかざすと、空間情報が乱雑に表示されて、結構ごちゃごちゃしているが、これもわたしが都合よく解釈や整理すれば、かなりの最適化ができそうだ。
「言い忘れていたが、分け御霊先によって使える機能や同じ明晰力を持っていても処理や得られる情報が異なることがあるから、自分だけが正しいなどとは過信しないようにな」
「わかった。他にも訊きたいことがあるけど、あとは自力で識っていくことにする」
「それもいいが、検索機能を使ってこのキュヲラリアネットワークから情報を入手することもオススメだ。俺から聞いた情報も既に媒体に保存されているはずだから、参考までに利用してくれ」
「わかった」と、わたしは了承し、最後のカップの中身を飲み干した。
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