因果に導かれし者たち

もう一人の大将

「それにしても、道中で人っ子一人見なかったな……。一週間前に定期訪問の連絡を入れたっきり、情報を入れてないからその間に何か事件でも起きたのか?」

「言われてみたらそうだな。家にでも巣ごもりしている様子もないし、不思議だな」


 警戒区域から抜けて数百メートル。わたしもその発言に同意した。上空から埃っぽい大地を眺めていて、生体として動いているのは先ほど戦闘していたミリアス教団とそのターゲット二人だけ。あと、彼らから八十メートル道の先にある大きな鉄橋にアメ色の髪をした誰かが一人いるくらいしか確認できなかった。


「ん?鉄橋の先に誰かいる」

「問題ない。オレッち家ぞ――――アハハ、随分なご挨拶なもんで」


 彼らの脇をかすねたのは熱線のような火の軌道。そこに籠っていた感情は「誰が家族だ!」と先ほど、わたしに中継を頼んだ者の周波数に似ている。多分ご本人なんだろう。


 慌てることもなく鉄橋に着き、その中央で仁王立ちする一人の美男子?その疑惑は声を聴いてすぐにかき消された。


「よう!久しぶり、兄上と姉上の御膳以来か」

「そうね。来た事情は別件だけどね。君たちが面白いことをしているのが分かったから、暇潰しにチョッカイかけていただけだけど」

「そうか、後半戦の手段を指示したのはお前だったのか」

「そうよ。少しは楽しめたんじゃない」

「言ってることは、悪役そのものの言葉だが、悪くなかったよ」

「そ、そりゃよかった」


 彼女の声を聞きわたしを利用した存在だとはっきりした。それは良いのだが、何だろう……少し空気感がヒリついているような。その感覚に同意するように、


「……おい、二人ともやること忘れてないよな。マオチは何しに来たのか知らないが、俺は訪問という仕事があってな―――」

「悪いが、コイツは自分の獲物だ。手出しすんじゃねえぞ」

「素直でよろしい」


 雇われの剣士は王様の立場を一蹴し、風の人を一度黙らせて、三秒後に口を開く時には「ああもう、勝手にしろ!戦闘狂ども!!終わったらちゃんと仕事してもらおうからな!」と投げやりに許可。


「すぐににやられないでね。それは最もつまらないことだから」

「精進する、よ!!」


 マオチと呼ばれていた女性は小さな胸の前で両刃剣を持ち、両手で柄を掴んだ後、ガシャンっと武器を割り、双剣にしてやれることを披露しながら相手に近づく。


 《日夏琳、冬月凛》二対の刃を一つにすることで両刃剣としても使える仕掛け武器の一種。素材は火の結晶体、顔料は結晶呪術の顔料で作られた結晶族専用の魂武具。タルカルに落ちた隕晶の力をもとに生産された武器は、醜裸を焼き尽くし、葬るべき浄化を与える。世界の理として、生命の中にも魂ごと灰にしなければならない存在だってこの世にいるのだ。


 マゲユイ男もその行動に同調するように、左手の短剣を空中で薙ぎ、稲浮流の統合の構えを取って、適度に間合いを詰めてゆく。


「三絃を纏い、三位一体を為す、刃と成れ!

「一刀三激――」

「「ミカーレット!!!!」」


 《ミカーレット》一撃で三の倍数の衝撃を纏う、玉なしの剣士マゼルの生み出した御業。マゼルは創世前よりも前の時代に存在した者で、血族のマッシェルと系譜者ネルドシュエルに御業や戦闘技術を仕込んだ師範である。その御業の数々は生命の神秘に挑み続けて作成されたものが多く、御業としてはシンプルなものであれど、解り、混じり合う者には望むままの祝福を与え、世界の理さえ捻じ曲げさせる。生命とは本来そうあるべき存在なのだから。


 かち合ったその刃は、鐘を連打したかのような衝撃が周囲に伝わり、音響系の最高峰である存在すら耳を塞ぎ「だからイヤだったんだよ。キンキンバンバンうるさいから」と、元からうるさい風の人ですら文句が出るくらい、本当にうるさい。


「アハハハハ!愉しい~」

「そりゃ何よりだ!」


 今度は足でのかち合いが為される。


 《足剣術》筋肉の六割は下半身に集中しており、そこから繰り出される技は腕では足りない威力やスタン値を上げる。その分、隙が多く、熟達した使い手なら相手の足軸を容易に掬い、掬い返す。その崩し合いの先に残るのは何なのか、そんなもん崩してみなけれ解らない。どの時代においても、しもの遊びとは常に法則を搔き乱し、新たな規則を作るものだ。なお、特殊技能と御業を組み合わせることで戦技と呼ばれる双方の要素を活かした行動の八割は足技が占めている。


 二人の戦いを見てると本当に遊んでいるようにしか見えない。御業の理解している者同士というのはこういうものなのだろうか。現実世界でいうマニアやオタクと言われる領域のものだと思うが、確かに分かり合っている者同士の交流は傍から見ればこの戦闘同様のものに見えているのであろう。人間、愉しい時というのはイタいもんなんだなと改めて再確認した。


「よいと。手数が多いからって当たるわけじゃないんだぞ」

「当てる気ないもん。ただの準備運動」

「言ってくれる!」


 とはいえ、いくら理解者同士でも動きは違うらしく、誠実に弾きを入れるマゲユイ男と手数とスピード、大回りでの戦闘で攻めるアメ色のお嬢様では立ち回りが大きく違う。お互いの遊び方に付き合いながらも、技と業を叩き込み戦いを各々が愉しんでいるような理想的な状態。仮に同性同士でも羨ましい光景だ。


「ルイングルムソルト!!」

「危っない⁉」


 その攻撃を受けて、大きく後ろにのけ反り後退する。


 《ルイングルムソルト》軽い飛翔に見せかけて大胆なバク転をし、片足に装着した刃で相手を抉り飛ばす戦技。もとはルイングルムという結晶火術の御業を利用した抜刀術を基本に、地面に擦りつけ意図的に火花を出し爆発的な火力を持って回転力に活かす。ソルトは回転を意味しているが、御業としてはほとんど意味はない。


 そんな戦闘が繰り広げられている中、風の人は何か違和感を感じたようで、周囲を確認し始めて「……どこだ。結構デカい」と、何かを警戒する。


 デカいからミリアス教団の者ではないと思うが、わたしも広い範囲で分析を入れて眺めていると、鉄橋を跨ぐ川上の方から粘っこい盛り上がりを探知し、その大きな魚影は三人がいるところに向かって来ていた。

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