二兎追う者たちは、脇目も振らず

 《見切り突き刃金がね落とし》稲浮流の基礎的基礎の見切り特殊技能。相手の突き攻撃を臨機応変に手や足で制止し、御業の中断が可能。多くの者はその行動に驚き、思考停止や力み過ぎて硬直する。一見してみれば隙だらけだが、余計な動作を加えようとしたころには、死のイメージが伝い、肉を切られる前に相手の骨を断つ、後手必中の一手を与えることができる。


《特殊技能》通称、特技と言われる技は、御業と違い上位者からの祝福がなく、誰にでも再現できる技能に用いられる。だからと言って、誰でもできるわけではない。自身の技量が足りず失敗してしまえば、明日その技能が使える身体であるかは保証できないからだ。ただその分、世界の法則が使用者の味方になってくれるだろう。


 実際、横に振れば良いとわたしは刹那に考えたが、そのイメージをした瞬間に首に短剣が埋まっている感覚が伝い、対象じゃないのにヒヤッとした。それを感じ取った彼女はすぐさまその思考を止めて、踏ん張る。が、刃先がズレるような感覚があって、慌てながらも相手を見て、左側に回し蹴りが来ると察知して左腕でガードの姿勢を取った。しかし、それはただの助走だったらしく、持ってかれる勢いと倒れる方向の逆向きの力を同時に入れて、守りを固めてない右頬にその攻撃がクリーンヒット。


「「「「「ミリア様!!」」」」」


 大将はやられたことに仲間は動揺する中、セクハラ王はのけ反り捲れたスカートの中を確認し「おうぅ」と感嘆の声を残し、音響の者ほどそれを聞き逃さなかった。


 その情報が焦りもあって、皆に筒抜けになっていたようで、一瞬、共通認識として「どんな、パンツだったんだろう」と思考が過った。けど、すぐに怒りに変わって、一丸となりその犯人を追う。


 一方、その犯人は五秒ほど黙って並走している友人に「あんな美人でも、クマパン履くんだな」と衝撃的な発言。


 ミリアは集団を追い越し、前に出たタイミングでそうされたから、皆の視線がそちらに集まり、二秒ほど経って「流石にないでしょ」「騙そうって思ってもそうはいかない」「ミリア様は純白な白なはずです」「クマパンですか」「ノーコメント」などと、男女の玉石混淆の意見が入り乱れた。


 それらの発言を聞き今後の威厳に関わると考えてミリア団長は「そんなわけないだろ。捕虜になることも想定してガータ―ベルトにしている。貴様の邪の想いで履いてるものではない!」と実際見たことがないから明言は避けるが、彼女の性格上嘘は付いてないと思う。


 そのことに賛同して「そうです!ミリア様は後先考えて履いてるんです!」「我々を欺くなど笑止千万!」「少しでも、クマパンを考えたわたくしをお許しください」と騒ぎだす始末。


 だが、次に口を開いた真面目男の発言により場はまたひっくり返る。


「かしこいな。実際に見たわけじゃないが、相手の動揺を誘う下着を着用するのはプロの仕事だ。クマパンならなおさら。その動揺の一秒でもあれば、素直に負けていたかもしれねえ」と、クソ真面目な感想を放った。


 その発言により、先ほどまでガーターベルト説が優勢だったが、シュレーディンガーパンツ効果により、クマパンツの方がキャラの整合性に合うと判断されて優勢に、それを投影しようと視線はふたたび、団長の尻に注目が集まる。


 背後の熱い視線に本人は恥ずかしくなったのもそうだが、自分の「信頼を利用された」ことに内心、戸惑ってしまう面と、認めることでこれも戦術だと教えられるという便宜、かといって威厳がなくなってしまうと、あれこれ考えてしまった結果。


「そうよ。あたしがはいてるのはクマパンツ。さっき言われた通り」と、頭がパッパラパー状態で言ってしまい。クマパンが皆の共通認識になってしまった。


「そうでしたか」

「ですよね」

「あの~」

「流石ですね」

「問題は解決したのです追いましょう」

「あの~」

「そうです!パンツはどっちか分からなくとも敵は同じです!」

「あの~!!」

「「「「何!!!!」」」」

「その対象が、もういません!!」

「「「「え⁉」」」」


 皆が前を見たときにはその報告通り誰もおらず、二人の姿はどこにもなかった。


 足並み揃えて、皆が止まり周囲を確認。音響のメンバーは直ちに周囲にサーチを入れるが、違和感があるところが引っかからない。


「どこに行った⁉」

「――――報告――します」


 ノイズが入っているが、その声は狙撃手担当の音響の声。


「あのクソ野郎。我々のペイント弾をもとにお手製のペイント物を作っていた模様。弾丸が返ってき物が弾がだと思ってましたが、石ころでした」

「何?つまり――」

「我々には探知できない細工を施し、潜伏していると考えられます。周波数を変えたところでノイズスカートの影響により、他の違和感が分からなくなっています」

「そうか。ご苦労。ここからは、あたしたちの仕事だ」


 音響との連絡を切り、すぐに新たな命令を出す。


「敵はまだ近くに居るはずだ。草の根を分けても探し出せ!!」

「「「「了解!」」」」


 そういって、軍は分かれて対象を捜索。


 一方、二人はすぐ後方のごみ箱の中にいて、その場からミリアス教団の気配が消える時を待ち、出てきていた。


「草の根は分けられても、クサいところまでは手を出さないようだな」

「うるさい。クサいことを言うな」

「ハハ、逃げ切れたから良しとするよ」

「能天気だな」

「目的地はこっちだ。警戒区域ホットゾーン抜けるまでは従ってもらうよ」

「了解。見つかったら、即決で差し出すからな」


 そんネタをかます余裕を持って、二人はその警戒区域から脱出し、本来の目的地へと向かうのであった。

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