厚意も過ぎれば、怖いもの

 さて、飛ばされたマゲユイ男は何処に……。


 同じハル族の者が肉体有りでも使えるんだ、思念体であるわたしが使えないはずはない。先ほどの『御業』の類だとは思うが、これこそ分析を入れるべきことだと思い、さっきの御業の残滓を取り込んで中身を分析する。


 《座標転移》空間最高クラスの御業。物理次元度が低ければ低いほどに消費する

エネルギーは高くなり、それが生命体となればさらに乗算して消費率が上がってゆく。転移するには、まず場所を覚えていること、または移動中の対象者をスナッチャーできるレベルの能力者であるならそこを座標に転移させることが可能だ。後者の場合、能力者の器用さにもよるが、基本として三分の一のエネルギーを送り先の者が負担してくれるので送る側倒しては助かる。だが、下手くそだと送った対象がどっかで埋まったり、変なところに転送されたりするので生半端なヤツには任せぬことだ。 


 内容を整理してみるに、わたしたち同様に転移する方法と、ハル族の彼女がやった送り先への能力との協力で成せる転移方法があるようだ。つまり風の人でもできるなら、わたしにも似たようなことが可能という事にもなるだろう。


 試しにあの風の人のことを思い出し、意識を伝播してみるとピコン!と「これで来れるだろ」と多分本人の信号であるものが返ってきて、有難いんだけどずっと見られいたような冷やっこい刺激が走ってきて、反応に困った。


 それでその距離は少なくとも直線距離で五〇キロくらい離れていて、常時移動していることが感覚的に判断できる。これを辿れば、簡単に飛べるはずだ。


 そうとなれば、行くのみ。と、その前に二人の情報を――と思ったが、三例ほど人を分析を入れて分かったが、明晰能力が高すぎて相手が生命体となると無駄に情報がありすぎてまとめることができない。それに――――。


「相手を間違えたな。僕以外にもテキスト殻は付与できるんだ。澪くんの一枚目の殻を見通す明晰力を見込んで、少しだけ情報を提供したのみだ。我々にも為すべきことがある。僕が観測できない分、そちらのことは頼んだよ。優秀なミクロネイア」と認知発言をかまされたから、素直に向かうしかない。


 あと、自慢したかったのか。あのバルブ状の物についての解説の風呂敷を広げて一方にその情報が提供されてきていた。


 《衣装総入れ替え装置クン》使用することにより一枚一枚着替えなくとも、一瞬で服を着替えることができる優れもの。通常は機械の燃料として一キロもするエネルギータンクが必要になるが、自ら生命エネルギーを流す能力があれば簡単に使用することが可能となる。保存場所は装置が展開する上次元空間になるため、壊れるとそこに干渉できる者以外、取り出しは不可能になるから要注意。まあ、僕にはそれができるから変なものはそこに隠さない方が良いよね。と、自分は優れた上位者だと主張したいのか、最後の一文は透けてマウントを取っていることが窺える。


 発明品は凄い物なんだろが、ネーミングセンスは壊滅的なところを見るに、どれだけ天才と謳われてもポンコツな部分はあるんだなと、しみじみさせられる。


 まったく、行くとこ覗くとこ碌な存在がいない。ご厚意は有り難いのだが……。


 そう思いながらも、変にいじられなかっただけ良いと事をポジティブに捉え、目を閉じ、次の目的地へと意識を飛ばした。

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