帰る場所
「おお、ご苦労様」
「わたしが言うのもなんだけど、馴れ馴れしい」
「ハハ、でも中継地点として助かった。それだけは伝えさせてくれよ。それじゃ」
風の人とわたしはお互い乾いた笑いを交わし、来た本人は洞窟にいる二人を起こしに入る。わたしは一晩中、起きていた訳ではなく、機能画面をいじっていると時間ジャンプという項目があり、試しにやってみると風の人に捕まって、上記の状況になった。ここまでの事をされると、風と区分するにはなんだか、雑な感じがする。
「奥に
「うるせぇ」
お嬢様を突いて起こしている中、先に起きたのはマゲユイの男。寝起きの水分不足も相俟って、かなり不機嫌そうだ。
「約束通り、助けに来たんだ。感謝のひとつもないのか?」
「元は言えば、お前が食い逃げ……飲み逃げをしたことが原因だろ」
「原因ばかりを追求していたら、玉まで戻るぞ」
「朝っぱらから、下ネタ言わないで。引き潰すわよ」
「怖っわ」
さらに不機嫌そうな顔をして起きてきたお嬢様。頬を擦りアゴの筋肉痛を抑えながらも、助けに来た親戚を睨む。
その動作を見て「……昨晩はお愉しみで」と冗談をかまし、てっきり二人とも切れると思いきや、
「やれるんだったら、そうしたかった」
「流石にそんな体力ない」
と、まんざらでもない反応。
「うう、その口でよく言うよ。まあ、俺も言えた口じゃないが」と苦笑いをしつつも、話を続ける。
「何はともあれ、助けに来てありがとうな。その報酬として、寝室に帰しておくよ」
「そういって、一緒のとこに送らないでね――掃除してないし」と最後は小声。
「悪りぃ。ネタに付き合ってあげたいのはやまやまだが、俺は店の前に先に置いていってくれ。払うもの払ったか確認したい」と風の人を睥睨する。
「ちゃんと払うから、あれはこうするための方便だから」
「ちゃん払っておきなさいよ。事情は分からないけど、対価は基本的には払うものだからね。いくら国のトップでもね」
「……そこまで言われたら逃げられないな。ハハッハッハ」
風の人は一・五秒ほど目の据わってない輝きがあったが、すぐにいつもチャラけた風の人に戻り笑い出す。
ひとしきり笑ったあと「それじゃあ、帰るとするか」と風の人の眼前に並ぶ二人、肩を掴み。わたしは風圧に備え、岩場に隠れる。が、フッと粒子が軽く舞うだけで消えて、最初に受けた転移よりも洗練されたものだと素人目にも判るほどだった。
凄い人はあれだけ影響を減らして転移できるんだなと感嘆しながら、わたしもそろそろ帰らないとなと思い目を閉じる。
確か帰る場所を投影して、転移と同じ要領で飛べば良いんだよね。わたしは住むマンションを思い起こし、自分の部屋を思い浮かべる。できれば、ベットに着地したいと願いそこに飛ばす。一瞬、フワッと身体が空中に浮くのを感じた。
転移できたかなと目を開けようとしたが、開かない。え、そんなことあると焦り、瞼をこじ開けるがみたいに力み何とか開けようとした。けど、開かなかったから諦めて全身の力を抜いた瞬間、ジリジリジリジリと訊き馴染みのあるアラーム音が聞こえて、さっきまでの状態が嘘だったように反射感覚で目が開く。
その視界の向こうには見慣れた天井があり、カーテンの隙間からわたしの目へと差し込む朝日の眼差しが照っていた。
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