世界構造と節理

「世界構造か全体図か知らないけど、結構重要そうな感じがするので訊いておきます。それって何ですか」


 ミザはジュジュに視線を送り、わたしが介入しない回線で会話をしているのか、表情で意思疎通をしている。結論が出たのか、ジュジュさんが鼻で笑って、ミザはやっと口を開いた。


「科学的には何言っているのか理解で出来ないと思うが、あくまで架空のものとして想像して欲しい」

「周りくどいこと言ってるけど、それってスピリチュアル的なこと?」

「そんなものだ」

「……話として聞くだけだからね」


 こんな人間の想像を超えるところに来ているというのに、そういったスピリチュアルを信じないというのはどうかと思ったが、まだ現世に肉体を遺している存在。簡単には受け入れられない。それで何度かそれ系統で騙された記憶があるからだ。


「最初にジャガイモを想像して欲しい。あるいはセフィロトの樹を」

「ジャガイモ……セフィロト……」

「ブッじゃがいも――間違いじゃないけど」


 ジャガイモと最初に言われて芋を思い浮かべて困惑したが、そのあとに畑になっている紫の花が咲いているジャガイモの葉っぱを思い浮かべて、次の発言に備える。


「今俺たちが存在しているのは地下のジャガイモ部分で、過去(起こった事象が保存されている土の中)に埋まっている状態の場所に位置している。いわゆるアカシックレコードな中に根を張って空間を作っている状態だ。そのエリアのことを『ネ』という呼び名を基本ベースに様々な名称で呼ばれている。そこでミクロネイアって奴は『ミクロ』小さい。『ネ』ネにいる、『イヤ』存在や者を意味してることから分かるように『小さきネの者』、そこの管理者や維持をする者として俺たちは存在している」


「それってつまり、ネの世界の管理者をする者がミクロネイアってことですか」

「正直ネイアだけでも通じるが、本質的にはミクロは個人を意味して、ネイアはネの者全体の一涙の存在として見做されることがほとんどだ」

「一涙の存在……」

「コハル、気になるなら一度分析アナライズをかけて見たら」


 そう促進されたから《一涙》という単語に分析をかけてみる。


 《涙》有形無形にかかわらず一括または塊の数え方として利用される単位。言ってしまえば全ての存在を数える便利な単位だが、そういう括りじゃないと反発されやすい一面もあるから利用するときは、状況に合わせて単位を変えればよい。涙の増やし方は分けられば増える。


「なるほど、単位として考えられない存在も『涙』でまとめられるのか」


「もっともな話、唯一意思ワンネスからすれば全ては『一つ存在』。拡大の想いとすべてを吸い込む思いの狭間でうちらは生きている。それを表現するには『戻らない水』のように思えて、うちは『涙』と表記するようになったワケ」と、ご本人から説明を受けて、一旦は納得。


「概念は理解できました。それで、土のことは分かったど茎や葉っぱの部分は、多分シードとかマザーの由来がそこにあるんでしょ」と、わたしの洞察を述べる。


 そういうとミザは「まあ、そうなんだが……」と渋りを見せる。


「そのくらい問題はないんじゃない。それともコハルがそれを聞いて発狂するような弱い存在だと思っているわけ?」とニシシ、煽るような言い方をミザにかける。


「相変わらず、深淵の民は陰湿な性格をしている」と食傷気味に唸り言ったあと、ミザは仔細を語り始めた。


「ネイアの他にも、『エイア』、『シイア』とか呼ばれる存在がいて、外界の未知の情報を集めている連中だ。特に活発なのは『エイア』でネイアよりも上位の存在だ。並びに、高位者と呼ばれることが多い。『シイア』もその区分に入る一涙ではあるが本質が違う。『エイア』は世界から得た顔料を過去のデータと組み合わせて、次世代に反映する顔料を見出し、一部こちらにも蓄積バックアップされる。そして『シイア』はそれらの情報や独自の顔料を蓄積し、星になる準備をする」


「それが、マザーとシードが生まれる原因?」

「原因ちゃ、原因だがあくまで要素レベルの話だ。それをわかつ大きな要因は、呑み込み続けるか、放出するかの違いだ」

「それって、ブラックホールとホワイトホールの違いみたいですね」


「厳密には違うが極端な話そういうことだ。ブラックホールが『マザー』、ホワイトホールが『シード』と分けられることが多い。その由来はビッグバーンで世界を創造する母なる存在でマザー。自らの創造力で世界を拡張を続ける主なる存在をということでシード呼ばれている」


「だから、『マザー』は『母』と呼ばれ『シード』は『種=シュ=主』というわけか。納得できました……てっことは――」

「それ以上、口にするのはやめておきなさい。マザーそういう発言、大好物だから」


 答えをジュジュに遮れて発言を中断。わたしはその答えを心中で理解し、その瞬間わたしがどんな立場に置かれているか自覚して、思念体でありながら胸がキュッとなった。


「俺が説明を渋った理由がわかるだろ。それを助けてくれたのはここの前任者だ。ネイアの空間を管理する立場となれば、マザーには干渉されないっていう理由で。もっとも、俺はそのマザーのことを識り過ぎた罪だ。その結果、この松の板の上で悠久の時を過ごしているってなわけだ。降りたら、すぐにでも……想像通りになる」


「……それは怖い話ですね。てっきり、ただお行儀が悪いだけかと思ってました」


「別に共感も理解もしなくていい。するだけ俺の立場が惨めになるだけだ。けど、こうして自分の意思でお友達をてめえは連れてきた。。名前で命じたわけではない」


 わたしはその発言でもう一つ思いの意味を識った。頑なに名前を呼ぶのをイヤがったのは眷属ミクロネイアだが、使役先触れとして扱いたくないという、マザーに命を握られている経験から生まれた、彼なりのお節介だったということが分かったからだ。


 昔に親友が「名前は相手を一秒でも支配することができる魔法だ」と言ってたことを思い出し、わたしは目の前にいるミザの罪を赦した。


「わだかまりが解消されたようで何より」とジュジュはメニューを閉じて話をまとめてくれた。


「長々と話したが、うちらがやる事は世界を豊かにしていくこと。それは生命すべてに課せられた使命であり、ネイアもエイア、シードもマザーもそこに措いては一緒の考え、節理としては一緒の存在。そうとなれば、ミクロネイアとして異世界の情報を集めて編纂しないと、ね」と、次に成すべきことを啓示する。


「ええ、このミザとの約束もあるし、行きましょ」と、わたしも気合を入れる。


 でもジュジュはミザという名前に苦服なようで「仮にでもいいから、名称付けない?やっぱ、猫にネコと名前つけているような気分になるし」と後頭部を掻く。


「……それじゃあ、キュヲで良くない?キュヲラリアのキュヲで。ジュジュさんのところも似たような名前の付け方でしょ?」

「まあね。命名したのはうちじゃなくて、最初に眷属契約したミクロネイアだけど」

「……それで、キュヲと名乗ったわけか。意外としょうもねな」

「何の話?」

「知らなくていい話」

「そう」


 その後、ジュジュはミザ、改めてキュヲになったここの管理者は二重眷属契約を施し、最初に契約しているミザことフェニーに更新情報を送信し、許可を貰った上で、わたしの異世界探索のメンバーに編入させた。

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