誰も彼も一物を抱えている
一物のある者
場所は変わり、その指定された銭湯に二人はいた。先に依頼者が雇った情報やこと海月エンビは湯船に浸かっていて、そのあとに依頼を受けたスグも合流。
この銭湯には男女の仕切りがないようで、俗にいう混浴風呂のよう。この世界ではありふれているのか恥じらいがないのかは、シェイの反応のこともあるからまだ分からないが、現段階では違和感なく男女が湯船に入り、依頼者が幼馴染と呼ぶ情報提供者を待つ。
「あと、どれくらいで来るんだ?お前の兄妹が立会人に付き添いで来るとか言っていたが」
「来るには来るみたいだけど、その本人は少し遅れて来るみたいだよ。スグくんがイケずな性格をしているから、実質アポなしで頼んだようなものだから。でも、情報提供者は予定通り来るみたい」
「そいつ随分暇をしてんだな。それやられて、来てくれるとは」
「良くいえば、律儀っていうんだよそういうのは――あ、来たみたい」
スライドドアが開く音が聞こえ、湯気の霧から現れた筋肉ダルマが似合う大男。当たり前のことだが、衣類を一切着ておらず肌は褐色で絵に描いたようなボディービルダー体形。先日の通せんぼ男と比べて姿勢もカッチリしており、男の大事なところも隠さず腕を組み堂々とした仁王立ちで佇む。
「お前さんが話で聞く腕の立つ男か?」と大男が開口一番に訊いてくる。
「貸し切りと訊いていたんだが、それ以外に誰がいる?」
「フン、相手の確認をするのは常識。間違っていたら一大事だ。それにその一言でどんな男かよーく理解した。よく周りから勘違いされるだろ」
「気にしたことはない」
「そうだろうな。自分軸がしっかりしたナルシスト臭がプンプン漂う。価値観が理解できないタイプだ」
「だから何だ?」
大男は腕を解き胸を張り「なぜ、ここを取引場所にしているか分かるか?小男」と煽りを煽りで返す。
「知るわけないだろ。お前の常識なんか」
「だったら教えてやろう。銭湯は決して身体を清めるだけが用途ではない。一糸まとわず、己の身体を他人に晒し、生き方をも晒す一種の心の修行の場。強き人間になるためには人前に出しても恥ずかしくない肉体と心を持つべきだ。そんなこともできない弱者は玉切ってか弱い女性にでもなっているよ良い。それが男に産まれたサガだ」
その発言を聞いて、スグは大きなため息をつき「くっだらねえ。通りで依頼者が会いたくないとか言い出すわけだ」と湯船から出て大男の脇を素通りして、「おい、逃げるのか?」と大男が言うと、ある程度間合いを取ったスグが「構えやがれ。そのふざけた常識を矯正してやる」と戦闘態勢を取った。
「その身体でか」
「虚勢を張っているお前よりかはマシだ」
「……随分と煽ってくれるな」
「事実だろ」
「事実であろうが、形は大切だ。それができてねえと心も動かん」と、まだ名も知らない大男は移動して間合いを取り。
「言ってやがれ、心あって人の身体は動くんだよ」
「そうか、やっぱり口じゃあ埒が明かんねえ。ここからは実力行使と行かせてもらおおう!」
「お望み通り、相手になってやる」
構えを取り移動して、二人の一物に挟まれて見ているエンビちゃんはこの光景を見て「お、おお……おう」と動揺と唖然が絡んだ声を出し戸惑い硬直状態。
「さあ、来い!」
大男はここで気合の入った構えを取り、銭湯での戦闘の火蓋が切って落とされた。
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