風の人とクソみたいな言い分
「もういい!モブさんこの前のように摘まみだしてください!」
「それされたらもう、うちは生きていけない!!」
どうやら、追い出された常連客というのはエンビちゃんご本人だったようだ。
「アハハ、この前はシンプルにうざかったから追い出したけど、改めて思い返した時に大人げないなと思ったから今後は一線を超えまではやる気ないよ」
「モブさん!流石~できる大人は違いますね」
「まったく――――」
マゲユイ男が何か文句を言おうとした延長を切るかのように突然、バラン!ガラン!ボスッ!みたいな店内空間を割るようなベルの音と何かが勢いよく転がり込んでくるような音がして、その物体がわたしの足元のそばに転がってきて壁に激突し、軽く衣装を揺らした。
その物体は人の形をしていて、背中を着地点にして後頭部が床に着いた状態で一瞬こちらを見たあと何事もなかったかのように「ふう~イタ、タタタ~スグはいるか?」と、小慣れた感じでマゲユイ男を呼ぶ。
わたしは一度の目線で、ああ、この存在は属性的同業者だ、と察した。
「おいおい、お前にはまともに店に入るっていう頭がないのか」
「アハハ、壊した物はちゃんと弁償してもらうよ」
「済まないな、風の人。いまうちの生命線をかけた交渉をしているんだよ。用事があるなら終わったあとにだ」
「そうかそうか。なら、その分も報酬として俺様が交渉してやろ」と風の人は何の問題ないと言わんばかりに体勢を立て直し腕を組む。
わたしは空かさず、傲慢状態と書いて油断している状態の彼に分析をいれた。
《風間ヒビキ》
と、すっきりした情報が出てきたのは良いが、同属性の立場として何か大切な何かを隠しているようなシンプルさだ。いってみれば、ただの強いだけの風使い。肩書きで取り繕っているが、どう強うのかが一切伝わってこない不気味さが感じられる。
「え!いいの!」
「ああ、良いよ。そのくらい大事な話だから」
「はあ~話だけでも聞いてやる」
「そう来なくちゃ」
スグは、本当はイヤなんだがと示すような溜め息をつきながらも、来てしまったものは仕方ないと建前上の聞く姿勢を取る。店主もその内容が楽しみなのか随分ニコニコとしている。
「飲み物は何にします?」
「いつもので!」
「ジャルマネコで良かったかな」
「おう、それで頼む」
《ジャルマネコ》ジャルマネコ科に属するネコに似た生き物。熟した果実を好み。それによって選抜された種は最高級の飲み物の材料となる。まさに掃き溜めのツルの逸品といえるだろう。
この世界でも高級なものと認識されているらしい。わたしは飲んだことがないが、兄貴が結構フルーティーな味だと称してた。確か一杯でお札が簡単に消える金額だったはずだ。知ったときは、クソタッカ!!と驚かせられたものだ。
「それで話ってやつは?」
席に着く途中にもちょくちょくわたしの方を見て、やっぱ見えてるんだと思いながら気にしなくていいからみたいに手を振ると、お言葉に甘えるという風な気障な感情がふわっと伝わってきて、これも明晰能力の力なのかなと思った。そんな事よりもダイナミック入店をしてくるような言い分を聞いてみたところだ。
「実はよう……いま命を狙われているんだよ」
「それで」
「おうおう、面白くなってきた!」
何?驚く要素ゼロなの?とわたしが動揺する中、よどみなく話が続く。
「おれっちは別に何も悪いことはしていない。あれは不可抗力なのに目の敵にされていまってよ。大変なんだよ」
「端折り過ぎだ。もう少し具体的な話をしてくれ」
「ほう、興味持ったか?」
「うるせえ、とっと詳細を語れ」
「ああもう、せっかちだな。とはいえ、言わないとダメかぁ」
発言を濁す風の人。情報屋は「いっちゃいなよ。吐いちまった方が色々楽だぜ。もっとも、元からヒビキっちの信頼はもう既に地の底に落ちているんだから、養育費くらい貸してくれ~でも問題ないよ」と冗談なんだろうが、そこをラインにされるとこから察するに女遊びが激しそうだ。
「なに?そこまで、信頼されてないのエンビちゃん!」
「少なくともうちはそうだよ」
「そんなぁ~」
「良かったな。そういうことなら貸してやる」
「違う違う、もしそうだとしたら国庫から下ろしている」
「じゃなかったら、何だ?」
「マジでそう思ってたのかよ……」
一度、ヒビキはゴホンと咳ばらいをした後、詳細を語り出す。
「これは三日前の話、おれっちは隣国の暗殺者に追われていたんだ。ひとりだったから逃げるのは簡単だったのだが、周囲の安全も考えてある程度の騒ぎを起こす手段を探していた。そこで、可愛い手ごろのお嬢さんがいて、その子の胸をこの手でモミモミと――」
「よし分かった。コイツを弾劾裁判にかけよう」
「そうですね。女の敵です」
「待て待て、二人の気持ちはよく分かる。そんな気持ちに成る事は俺も分かっていたよ。そうじゃなきゃやってない」
「それで、お客さんお望む通りになった訳?」と注文の品である一杯のジャルマネココーヒーを前に出す店主。
セクハラ容疑が掛かった王様は吞気に三秒ほど香りを愉しみ口に含んだ。
「相変わらず、芳醇な香りだ」
「それで回答は?」
「大成功だ。予想通り彼女は黄色いつんざくような悲鳴を上げて騒いだよ。それで暗殺者も目立ってはいけないということですぐに下がった。ここまでは良かった。その茶番に付き合ってくれた感謝を伝えようと無意識レベルで口にした結果、運悪く相手が音響系の能力者でよ。しかも、その能力者が所属していたのが、
「何でそう思う?いくらでも襲う機会はあるはずだろ。お前の立場上、ジッともできないはずだ。寄りによって、何で……今日なんだ?」
わたしも何か、『今日』という単語にイヤな感じがした。
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