第2話 花の都・リアフォルン

 峠を越え、森を抜けた先にようやく街の門が見えてきた。街へと続く道沿いには、色とりどりの草木が植えられ、とても美しい景観をしていた。


 街の入り口に作られた頑丈な門の前には門番が駐在しており、街への出入りを管理していた。若い門番がマルタの荷馬車に気付き声をかける。


「おかえり、マルタさん。旅の成果はどうでした?」

「やあ、マイルズ。今回も大収穫だったよ! すごい土産話もあるから暇なときに店に寄っとくれよ」

「それは楽しみですね。是非寄らせてもらいます。……それで、そちらの青年は?」


 門番は荷台に座っているアスティについて訪ねた。


「彼は、アスティ。旅人でな、港街からここまでの護衛を頼んだんだ」

「そうですか。まぁ、マルタさんの知り合いなら大丈夫でしょう。どうぞ、ゆっくりこの街を楽しんで!」


 門番の青年はアスティを笑顔で歓迎した。


「……ん? あれは何をやっとるんだ?」


 マルタが何かを見つけて指を指す。門のすぐ横に建てられた柱に数人の男たちが集まって、何やら作業をしているのが見えた。


「ああ、実は、門の守護印が上手く機能してなかったみたいで……。今、修繕作業の真っ最中なんですよ」

「守護印が? まぁ、この門もだいぶ古くなってきて、あちこちガタがきとるみたいだしのぉ」

「そうなんですよ。このご時世だし、国からもなかなか修繕費用が下りなくて困ってたんです……。そしたら、偶然通りかかった魔導士さんがタダで直してくれるって言うから、みんな大喜びで。いや~、ホント助かりましたよ」


 再度、柱の方に目をやると、大柄な男たちの中心に小柄な人影がみえた。

 アスティは魔術師というものを見たことがなかったので、とても興味を惹かれ、何とか顔を見ようと、身を乗り出した瞬間、馬車は動き出し街の中へと入って行った。


「にぎやかな街だろう? 普段はのどかな街なんだが、もうすぐ伝統の祭りが開催されるから、その準備で忙しいんだ」


 危うく荷台から落ちそうになったが、なんとかバランスを立て直し、マルタに向き直る。


「祭りか、楽しそうですね」

「ああ、楽しいよ! 今度の祭りは花祭りっていうんだ。この街を見てわかるだろうが、この街の名産は花なんだよ」

「花?」

「そうだよ、祭では花の品評会なんかもやるんだ。この街には沢山の花屋があってな、その中でも有名なのが……お、噂をすればなんとやらだ。おーい、ミレイユちゃん!」


 マルタが道を歩いている女性に声をかけた。


「あら、マルタさん。仕入れから戻ったんですね、お疲れ様~」


 ミレイユと呼ばれた女性は、マルタに気がつくとにこやかな笑顔を浮かべて、小走りに駆け寄ってきた。マルタは女性の前で馬車を停止させる。


「今回も上物をたくさん仕入れてきたから、後でまた店に顔をだしておくれ」

「わぁ、それは楽しみですね。ぜひ伺います」

「ああ、待ってるよ! それじゃあ、兄ちゃん。ワシはこれから販売の手続きや荷卸しで市場の方に行くから、この辺でいいかい?」

「はい、もちろんです。ここまで連れてきてくれてありがとうございました。本当に助かりました」

「いやいや、ワシの方こそ助かったよ、兄ちゃんはまだこの街に滞在するだろ?」

「そうですね、せっかくだし、色々見て回ろうかな……」

「それなら、私が街を案内しますよ!」

「え?」


 マルタとのやりとりを見ていたミレイユが声をかけてきた。


「3日後には花祭りもありますし、よかったらそれまで街でゆっくり旅の疲れを癒して行ってください」

「でも……」

「いいじゃないか、少年! せっかくこの街一番の美人さんが案内してくれるって言うんだから、遠慮なんかせず、案内してもらいなって!」

「まあ、マルタさんってば、相変わらずお上手ですね!」

「ミレイユちゃん、この兄ちゃんはワシの命の恩人なんだ。だから丁重に扱ってやってくれ」

「まぁ、そうなんですか? わかりました、しっかりおもてなしさせていただきますね!」

「そんな大袈裟な……」

「大袈裟なんもんか! ワシは兄ちゃんにはすごく感謝しとるんだ。そうだ、後でワシの店に寄ってくれるかい? 助けてもらった礼をしたいんでな」

「えっと……」

「私が後で案内しますね」

「それじゃあ、ミレイユちゃん、後は頼んだよ」

「わかりました。さぁ、行きましょう、アスティ」

「え、あ、うん…!」


 アスティは慌てて馬車から飛び降りた。マルタは「少年。また後でな」と言って、馬車を走らせた。


「では、改めて……。ようこそ、花の都・リアフォルンへ!」


ミレイユはアスティの前に立ち微笑む。そしてとびきりの明るい声で彼を歓迎した。

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