第38話 見えない星
「レイン!」
勢いよく部屋に飛び込んできたアスティに、レインは怪訝そうな顔をした。
「なんだ、いきなりどうした?」
「あ、もう話は終わった?」
「ああ、大体は」
レインはマイルズとエシルに視線を向ける。
「じゃあ、僕はまだ仕事が残ってるからそろそろ行くよ」
マイルズはレイン達に軽く会釈をすると、静かに部屋を出て行った。
「あ! そこのペンと紙を借りていいかな」
アスティは机の上に置いてあった紙とペンを手に取ると、慣れた手つきで絵を描き始めた。
「この紋章のこと、何か知らないか?」
「これは……」
レインは紙に書かれた紋章を見て、眉をひそめた。
「知ってるのか!?」
「待て、何を興奮しているんだ。少し落ち着け、一体何があった?」
「あ、ご、ごめん。ちょっと色々あって……。えっと、さっきこの紋章を付けてる女の人を見たんだ。それで、レインならこの紋章について何か知ってるんじゃないかと思って……」
「……
レインは小さな声で呟いた。
「たしかに心当たりはあるが……」
「ほ、本当? それは一体……」
「待て待て、そう、結論を急ぐな。先程あった出来事をもう少し詳しく話してくれ」
興奮気味のアスティは深呼吸をしてから、先程あった出来事をレインに伝えた。
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「……なるほど、状況は理解した。その女が探していた宝石が本当に卵殻石だとすると、その紋章は神都直属の騎士団、"
「それは、神都に行けば会えるのか?」
「いや、その女が何者かは分からないが、神都が滅んだ今、騎士団だけが単独で活動しているとは考えづらい」
「……そうか、でもやっと見つけた手がかりなんだ。俺は彼女の後を追うよ。それに、あの卵殻石を持ってる三人の事も心配だ」
「そうだな。石を持って行かせたのは俺にも責任がある。幸い行き先は分かっている。準備を整えたら直ぐに向かおう」
レインの言葉にアスティは大きく頷いた。
「どうやら話はまとまったようじゃな」
部屋の隅にいたエシルが口を開いた。
「なんだ、まだいたのか」
「ずっとおったわい!!」
「ごめん、話に夢中で全然気づかなかった」
「追い討ちをかけるでない!」
エシルは憤慨しながら、話を続けた。
「それで、レイン。さっきのマイルズの話に戻るが、ワシにまで真相を聞かせて、お前はどうしたかったんじゃ?」
「ああ、この街で起こった事の全て、とまではいかなかったが、事の次第はさきの通りだ」
「ん? ああ、まぁのぉ……」
「この事を領主に伝えるかどうかはエシルの判断に任せる」
「んなっ!?」
エシルは口を開けて驚いた。
「俺たちは先を急がなくてはいけなくなったのでな。街の復興までは付き合えそうにない。だから、後のことは次に会った時にでも聞かせてくれ」
「お、お前はまたそうやって! ま、待たんか!」
レインはエシルの静止を無視して部屋を出て行った。
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「なんだか、後始末をエシルさんに押しつけたみたいで申し訳ないな」
「気にするな。アイツはなんだかんだで面倒見がいいからな。俺達なんかよりも上手くまとめてくれるだろう」
「エシルさんとはどういう関係なの?」
「……それはどういう意味だ」
アスティの質問にレインは怪訝な顔で振り返る。
「あ、いや、なんか歳はすごく離れてるのに、仲がいいっていうか……」
「まぁ、そうだな。アイツは幼馴染みたいなものだ」
「幼馴染って……え?」
「ああ見えて意外と若いんだ」
「え? え?」
アスティの混乱をよそに、レインはニヤリと笑った。
「あ、いたいた! 二人とも!」
声のした方へ目をやると、ミレイユが手を振りながらこちらに駆けてくるのが見えた。
「ミレイユ! さっきはごめん。一人で置いてちゃって」
「ううん、大丈夫! 急ぎの用事だったんでしょ? もう用事は済んだ?」
「うん……。でも、ちょっと気がかりな事があって、先を急がなきゃ行けないんだ」
「え、そうなの!?」
「旅の支度が出来次第、ここを立つつもりだ」
「それは寂しくなるわね……」
ミレイユは寂しそうに目を伏せたが、すぐに顔を上げて笑顔を作った。
「でも今日はもう遅いから、出発は明日でしょ?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、今日はウチに泊まって行ったらいいわ!」
「でも、迷惑じゃ……」
「全然、むしろお礼をさせて欲しいのは私のほうよ。 今夜は腕に寄りをかけてもてなすからぜひ泊まって行って」
「では、お言葉に甘えるとしよう」
「うん、ありがとう。ミレイユ」
ミレイユの後を追いながら、アスティは陽の落ち始めた空を見上げた。そこには小さな星がひとつだけ瞬いていた。
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