第40話 さよならは告げずに

 朝日が登り始めた時刻に、アスティ達は静かにミレイユの家を後にした。


「いいのか? 彼女に何も言わずに出て行って」

「一応、置き手紙は残したし……。それに俺は嘘が下手だから、きっと顔に出ちゃうと思うんだ」

「そうか」

「それにレイン言ってたじゃないか。縁があればまた会えるって」


 アスティの笑顔にレインは小さく微笑み頷いた。


「二人とも、もう出発するのかい?」


 馬を借りるためにやってきた馬貸家で、マイルズに声をかけられて、2人は足を止めた。


「マイルズ! おはよう、早いんだね」

「ああ、昨日は夜勤だったからね。これから帰るところさ」


 少々やつれた顔を見せながら、マイルズは笑って言った。


「守衛の仕事は大変だな」

「まあね。でもこの街が俺の故郷だからね、護るのは当たり前だよ」

「君はすごいよ」

「え?」


 アスティの言葉に、マイルズは驚く。


「そうやってずっと抱えて守っていくんだろ? 彼女を。……ミレイユを傷つけないように」

「どういう意味だい?」


 マイルズは不思議そうな顔をして聞き返した。


「俺は、この町で起こったことを聞いて考えたんだ。マイルズが教会を爆破したのは証拠をすべて消し去るためなんじゃないかと思って」

「……まさか」


 マイルズは少し眉を下げて、困ったような顔で笑う。


「そうなの? 俺ならそうするから、そうなのかと思って」


 アスティは思惑が外れた事に少々驚いた様子で頭をかいた。マイルズは、どこか遠い目をして言った。


「これは頼まれたから……。命をかけてこの街を守ってくれた彼女の両親の願いだから……。俺は死ぬまで護るつもりだ。彼女の幸せのために」


 アスティはマイルズの言葉を聞いて、頷く。


「うん、俺も。ミレイユと君の幸せを願うよ」

「ありがとう」


 2人はマイルズに別れを告げて、花の街を後にした。



「あれ?」


 目を覚ましたミレイユが自室から、一階のリビングに降りたところで家に人の気配がない事に気がついた。

 ミレイユは机に置かれたメモに気がつくと、小さく微笑んだ。


 そのメモには「ミレイユ、またね!」という言葉と一緒に少女が沢山の花に囲まれているイラストが描かれていた。



 街を出る馬車の中で、レインが訝し気な表情で口を開いた。


「あれはどういう意味なんだ?」

「あれ?」

「教会だよ。なぜ、マイルズが教会を破壊する必要がある? 俺ならそうするってどういう意味なんだ? さっぱりわからんぞ」

「あー、あれは……、ミレイユから全ての真実を遠ざけようと思ったら、全てを消してしまうのが手っ取りばやい気がして。だから、俺たち諸共、消し去ってしまおうとしたのかなーって思ったんだけど」


 レインは奇妙なものを見るような目でアスティを見た。


「そんな破滅的な考え方するやつがいるか」

「え? 普通そう考えない?」

「オレはないな。最近の若い奴らはみんなそんな考え方なのか?」

「最近のって……。レインてなんか、ちょっとおじいちゃんみたいだよね」

「は?」

「まだ、知り合って数日しかたってないけど、なんかそんな感じがする。うまく説明できないけど……」

「そこは頑張って説明しろ。今すぐに!」

「まぁまぁ、まだまだ先は長いんだし、ゆっくり知り合って行こうよ」


 レインの納得いかないと言わんばかりの表情を見て、アスティは声を出して笑った。目尻に浮かんだ涙を拭いなら、アスティは窓の外に目をやった。

 この先に何が起こるのか、期待と不安が入り混ざった複雑な鼓動の音が耳の奥で鳴り響いているのを感じながら……。

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冥府の剣を持つ旅人は異世界召喚されたJK双子と出会いそうで出会わない 壱春 @01_haru

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