新米貴族、夜会のパートナー探し
一週間後の夜会。そこでパートナーと踊り、距離を縮めて結婚まで持っていく。
素晴らしい計画ではあるが、俺には大きな障害が立ちはだかっている。
「平民と同じクラス、空気が不味いな。加えて、成り上がりの貴族、空気が余計不味い」
「今日もいるわ、あの成り上がり。私達平民の苦しみを知ってるのに、貴族になって私達のことを見下してる目をしてるわ」
「成り上がり貴族とか、シンプルきっしょ」
教室に入ってくる生徒に、根も葉もないことを言われている。
依然俺の評価は低く、俺がパートナーになってください、と頼んでも、は? 話しかけないでくれる? と、断られることは想像に難くない。
「うい〜。今日の授業もだるそうだねー、魔法に剣術。私苦手だよお〜」
教室に入ってきて隣の席についたナツが、周囲を気にする素振りなく話しかけてくれた。
気安く話しかけてくる美少女に惚れてしまいそう。後ろ盾になる令嬢と結婚しないと死ぬ立場でなかったら、俺が青髪の女の子がタイプだったら、そもそもこいつがナツでなければ、惚れていたかもしれない。
というわけで、俺は惚れることなくナツに尋ねる。
「なあ、俺でも落とせそうなくらいチョロい、具体的には一週間程度で落とせそうな将来有望なご令嬢ってどこかにいない?」
「おーい、私の振った話題完全無視かあ?」
「完全無視だ」
「清々しいねー。そだなあ、チョロそうって言えば、お見合い25連敗中の……」
「その人はいい」
「そう? でも一週間で落とせるって言えば、なかなかいないと思うけどね。って一週間? もしかして、夜会のパートナー探し?」
「鋭いな」
「なるほどねえ〜、だったらうってつけの人材がいるよ」
「誰? 教えて」
「芸術科のAクラスにいるセリーヌさん」
芸術……科学、文学につぐ第三候補の科。
「ちなみに、何がお得意で?」
「容姿も性格も聞かずにそれか。本当に現金だなー」
とか言いながらも、ナツは丁寧に教えてくれる。
「セリーヌさんは演劇を得意にしてるの。王都の劇団でヒロインを演じてたくらいの天才少女」
演劇……悪くない。平和な世で娯楽産業が栄えるというのは自然の理。もう既に名前が売れているのも良くて、宣伝にかけるお金が少なくて済む。劇場を中心とした観光都市化、うん、悪くない。
「家柄は?」
「中流くらいだから、まあメカブの後ろ盾くらいにはなるんじゃない? 娘を劇団に入れたりして、平民からの人気も高いし、平民への差別思想もないから、狙いどこだと思うけどね」
「……良い! ちなみにダンスはお上手で?」
「そりゃあもう、勿論。きっとダンスを踊ったら注目の的、上手く踊れれば、メカブのことも、見直されるかもね」
貴族の嗜みであるダンスで目立てば、貴族からは、ほーうやるではないか、と見直される。セリーヌ嬢という劇場のスターについていければ、あのセリーヌ様と素晴らしい踊りを繰り広げている方は誰? と評価は上がる。
これだ。仮にセリーヌ嬢と上手く行かなくても、周囲の評価を上げれば、今後の婚活に役立つ。
「流石、ナツだ!」
「えっへへ、でしょ? 特に何かしたわけではないけど」
「そんなことない! 今日は大きいパンを一杯焼いてやるからな!」
「わーい! じゃ、ないんだよ、別に量を求めてるわけじゃないからね。私を勝手に食いしん坊キャラにするな〜? って聞いてるぅ?」
ナツの声は聞き流し、俺はセリーヌ嬢を誘うためのアプローチをシミュレートし始めるのだった。
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