新米貴族の身の振り方〜戦争で成り上がった新米貴族は平和な世を生き抜くため将来有望そうな女の子と結婚したい。婚活始めたら、行き遅れ系令嬢たちが必死すぎて怖いんだけど〜
ひつじ
新米貴族、婚活を志す
「ったくよぉ、こんなことなら、もっと真面目に努力しときゃ良かったぜ」
夕風吹き荒ぶ丘の上。戦争孤児の俺を引き取ってくれた中年の男は、ずらりと陣を組む軍勢を見下ろして溜息を零した。
「この歳になって前線、しかもこりゃあ負け戦だ……おいガキ」
「何ですか?」
「明日、生きてたら、勉強でも剣でも魔法でも何でも良い。努力して偉くなれ、俺みてえなおっさんにならないようにな」
翌日。俺の親代わりのそいつは戦場で華々しく散った。
妻子もない男は、生きていた痕跡すらなく消え去ったが、言葉だけは俺の中で生き続けた。
「努力しないと」
その日から俺は、まるで男が人生をやり直そうと乗り移ったかのように努力し始めた。
剣、魔法は傭兵、騎士から学び、駆り出された戦で磨いていった。他にも、従軍する聖職者から学問、商人から兵站の管理、兵士の妻からは炊事など、戦に使えそうなことは全て学んだ。
幼い頃から戰場に赴き続け、無我夢中で戦ううちに、前線の一部で名が売れた。
誰よりも多く戦場に出て、誰よりも少ない怪我で帰還する者。
そんな評判から、子供の身でありながら部隊長に出世。さらに多くの戰場に赴くことになり、戦いに明け暮れること10年……。
「メカブ、貴君を男爵に叙する」
終戦を迎えた王国の論功行賞で俺は、内心頭を抱えていた。
い、いらねえー。貴族社会ドロドロしてるしなりたくねえー。
「そして我が王家に伝わる宝剣を贈ろう」
ははあー、と下賜された剣を受け取って思う。
売れないじゃん、これ。百パー足つくじゃん。
「では下がれ」
え、嘘でしょ? それだけ? それだけなの?
数秒待ってみるも、まだ何かある? って顔を王にされたので、渋々引き下がる。
式典が終わり、解散後。俺は褒美を決めた顔なじみの文官に詰め寄った。
「爵位なんていらないって言ったよね! 当分食えるだけの財が欲しいって言ったよね!」
「そうは言ってもだな、メカブ。君の功績を考えれば、何の爵位も与えないなんて難しいのだよ」
「じゃあお金は!? 金、金、金、金!!」
「宝剣があるじゃないか」
「売れるかぁ、あんなもん!! 飾りにしかならんわ!!」
「領地もついてるぞ。そこそこ広いし、いいじゃないか」
「前線の軍事基地とその周辺なんていらないんだよ! 今は領民はおろか、人っ子1人すらいないよ! 復興費回収するのに、何十年の税金が必要だと思ってんのさ!?」
「そこはまあ頑張るしかないんじゃないか? 商業を興すとか、畑を開拓するとか、工業でもいいし」
「んな知識あるかあ!! こちとら、戦馬鹿だぞ! 戦好きの意味じゃない戦馬鹿だぞ!」
「そんな君に、ほれ」
差し出してきた書類を俺は乱雑に受け取る。
「何これ? 入学願書?」
「ああ王国は来る平和な世を栄えさせるべく、学校を設立することとした。貴族から平民まで最高水準の教育を受けられる学校だ。君もここで学んで、領地経営に活かすがいいよ」
勉強……。
子供の頃から努力してきた記憶が蘇る。不眠不休で血反吐を吐いて努力してきた、そんな記憶だ。
手が震え始め、声に出さずにはいられなくなる。
「もうやだぁ!! 努力したくないっ!!」
顔なじみの文官は、呆れたように肩をすくめた。
「ではどうするんだ? 後ろ盾もなく平和な世で生きるすべを知らぬ貴族など、淘汰されるだけだぞ。努力を嫌うというのならば、矜持と誇りを捨て女に飼ってもらうくらいしか生きていけないぞ?」
「それだっ!」
ペンをよこせ! と俺は入学願書に筆を走らせて、それを突き出す。
「急にどうしたんだ?」
「貴族から平民まで集まる学校なんだろ? 俺はそこで将来有望そうな伴侶を得る! んで、飼ってもらう!!」
「マジかよ……」
長らく続いた大戦は、戦線に復帰したフルプレートの老将軍が勝利し続け、100年の平和条約が締結。今日、完全なる終戦を迎えた。
しかし、フルプレートの老将軍、その中身の少年は、新たな戦い(婚活)に身を投じることとなったのだった。
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