新米貴族、懺悔室のバイト2


「一応、結婚したくてしたくて仕方ない理由を聞いても?」


 99%エリザートだけれど、本人でない可能性はある。真摯に対応しよう。


「はい。私、結婚できるかどうかの瀬戸際も越えて、もう結婚できないかな、って思ってたんです。でもそこに、結婚出来そうな運命の人が現れたんです」


「そうですか」


「彼は私みたいな女の子って、女の子といえる歳でもないんですけど、私にも凄く優しくて、男性に嫌がられる私を彼だけは認めてくれて、惹かれてるとまで言ってくれたんです。だからもうその人と結婚するしかないな、と」


 うん、ほぼ確定でエリザート。何だろう、シャーロットのときも思ったけど、人から聞くと、俺が極悪人のような気がしてきた。まあ悪いことには変わりないんだけど、こっちもやむを得ない事情があるので、引き下がることは出来ない。


 ので。


「それは貴方の勘違い、ということはありませんか?」


「勘違い、ですか? でも確かに彼は言ってましたよ」


「そう言ったのは事実かもしれません。ですが、相手は貴方の魅力に惹かれただけで、それは恋愛的な好意ではなく、憧れのようなものかもしれません」


「たしかに……そうかもしれません」


「で、あれば、結婚が難しいのは彼も同じ。ならば視野を広げて、もっと簡単に結婚できる相手を見つけるのも手です。婚期に焦り、その人しかいない、と視野狭窄になっているのが、結婚したくて仕方ない理由なのではないですか? もしそうならば、視野を広げることで、貴方の心にはゆとりが生まれますよ」


「いや、それは違います。私が結婚したくてしたくて仕方ないのは、彼のことが好きだからです。生まれて初めてなんです、こんなに胸がドキドキして、そわそわして、声を聞く度、顔を見るたび、飛び上がりたくなるくらい嬉しい気持ち」


 そう言ってエリザートは続ける。


「私を好いてくれるのが彼しかいないから、彼と結婚したいんじゃない。私が好きだから彼しかいなんです」


 なのに……と一転暗くなる。


「彼、この前、少し目立っちゃって、色んな人に話しかけられてるところを見たんです。中には、若い女の子もいて、このままだと彼の魅力に気づいた人に取られちゃうんじゃないかって」


「酷い男ですね。貴方にこれほど思われているというのに、そんな男やめておきましょう」


「彼の悪口はやめてもらおうか?」


 壁越しに強い圧が来て、見えていないのに思わず頭を下げた。


「す、すみません」


「わかればいいんです。それで私、さっき否定しておいて何ですけれど、焦ってしまって、早く結婚したいと思ってるんです。もうヒモでも何でも良いから結婚して欲しいくらいに。そこで相談に来たのはですね、どうすればいいかを尋ねに来たんですよ」


 無理。そう答えようかと思ったが、流石に胃が痛かった。明るく元気づけようと思ったけど、流石に真摯に答える。


「わかりました、お答えします。惹かれている、という言葉が言葉通りだった場合、もしかすると、彼には何か求婚できない事情があるのかもしれません。一度、彼が婚約相手に何を求めているかを、こっそり探ってみてはいかがですか?」


「なるほど! そうですね! たしかに彼の好みの女性というのは知っておく必要があります! 今後、その方面で動いてみますね!」


「ええ」


「今日はありがとうございました!」


 そう言って、エリザートは帰っていった。


 急にどっと疲労がきて、くたりと倒れ込みそうになるが、それを許さぬように新たな来客がくる。


 気合を入れ直し、俺は次の相談者を対応する。


「悩める子羊よ、今日は如何なさいましたか?」


「あの、恥ずかしいんですけど」


「安心してください、ここは完全防音。このしきりによって私ですら、顔も見えず、声もわからず、特定することは出来ません」


「でも、そのぉ、やっぱ、恥ずかしいです」


「大丈夫です、皆様の悩みは、神様が人に与えられた尊きもの。どんな悩みであっても恥ずかしいことなんてありません」


「そうですか、安心しました」


 ほっとした安堵の声で、相談者は続けた。


「お股を触ってたらぬるぬるして気持ちよくなって止まらなくなっちゃったんです、これって病気じゃないですよね?」


 恥ずかしい悩みすぎた。


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