ナツ・スワン、新米貴族の武器転売案


 武器転売の話の翌日、放課後。


 メカブとセリアちゃん、そして私の三人は、高級そうなレストランでテーブルを囲んでいた。


「流石、メカブさんですね。こんなに素敵なレストランを知っているなんて」


「はは。別に探してるわけではないですよ。ただ私が気の向くままに足を運べばたどり着いてしまうのです」


「凄い、本当に紳士だ」


 んなわけなかろう、と白い目を向けたが、メカブは気にせず白い歯を見せつけている。むかつく。


 とはいえ、こんな高そうなレストランを知っていたことには感心する。しかも案内されたのは二階席で私達以外に客がいない。給仕も二階から手を挙げて呼ばなければ来ないし、よくもまあ、こんな話し合いに持って来いの場を知っていたなあ、と思うと、ふとメリナの顔がよぎる。


 昨日、授業をメカブはサボったが、そのことについて教師が責めている様子はなかった。


 なるほど。昨日連れられてきたのか。それをよくもまあ、ただ私が気の向くままに足を運べばたどり着いてしまうのです、と嘯いたものだ。


 また白い目を向けるけど、白い歯しか返ってこない。はったおしてえ〜。


「ところでメカブさん、ここに招待してくれたのはどういう意図ですか?」


「昨日の話の続きをしようと思いまして」


 昨日、私に新たな提案をしようとしたメカブは、夜も遅くなりそうだし改めて話をしよう、ということになって、今日ここで話をしようと招かれたわけだ。


 正直、別に聞く必要もない。答えはNO一択。私は今回の橋を渡るつもりはない。


 じゃあ何故、この場にいるか?


 その答えは好奇心だ。


 メカブ・ケイブという男は、舞踏会で私にその資質をまざまざと見せつけた。


 今回もまた、何か私の心を躍らせる何かを見せてくれるのではないか、と見に来たのである。


 もし今度も卓越した能力を見ることが出来れば、私の野望も現実味を帯びてくる。


 そう。今回もこの前と同じように……この前と同じように?


 頭の上に乗った手のひら。不安をかき消す笑顔。期待しててくれ、という言葉と、期待に応えてくれたこと……。


「どうかしたのですか、ナツさん? 顔が赤いですよ?」


「え、いや、あはは。何でも」


 ……テーブルがあって良かった。太ももを擦り合わせたのを見られるところだった。


「はあ、それなら良かったです。それで、メカブさん?」


「ええ、続きを話しますね。武器の転売、それ自体は悪くないですが、売り先には問題があります」


「売り先ですか?」


「ナツ」


 メカブに促されたのは癪ではあるが、昨日メカブに言ったことを優しく伝える。


「それは、そうかもしれませんね」


 どうでもいいでしょ、そんなこと。なんて言いそうだったけれど、意外にもセリアちゃんは素直に頷いた。


「ってわけで、私は反対。でも、メカブは武器の転売自体を否定してないんでしょ?」


「まあね」


「そうは言ってもさあ、メカブ。一体どこに転売するの? 正直、貴族相手は当然、平民に武器を渡したら反乱の責任を追求されそうではあるし……」


「別にどこに売ってもいいよ、俺らには関係ないし」


「関係ない? どういうこと?」


「それを今から話すために、人を呼んでる」


「人?」


「うん、ちょうど来たみたいだ」


 メカブの視線の先を辿ると、入り口に大柄な優男が一人。メカブが手をふると、彼はこちらに向けて近づいてきた。


「やあ」


 メカブはそう言って片手をあげる。


 近づいてきた男の年の頃は、二十そこそこと若く見えるけれど、実年齢はもっと行ってそうではある。太い腕に屈強な体躯、そして節々に見られる傷跡。戦いに身をおいていたものだと一目でわかる、それに服装は学園の……あれ?


 私はこの男を見たことがある。しかも学園内で。


「やあ、って何だよ。小綺麗なフリして気持ちわりいなあ」


 私は目を丸くする。


 この男は、ギース。先の戦争において、セア国に雇われていた外国人傭兵部隊の長。今はその実力が見込まれ騎士科で教鞭をとる、臨時教員だ。


 そんな人が何故メカブと?


 親しげでフランクな感じもあって、余計に疑問が深まる。


「そうですか? 私は前からこのような感じだったと思うのですが?」


「くっ、くはっはは! 長老が? 笑いすぎて涙が出たわ!」


「二、二度と、そのような名でこの私を呼ぶなと今日来るまでに……って、はあ。もう遅えか」


 私とセリアちゃんを見て、メカブは溜息をついた。


「あの、ギース先生、メカブとはどういう関係で?」


 そう尋ねると、ギース先生は嬉しそうに語った。


「こいつとは戦場を共にした仲なんだよ!」


「戦場を?」


「ああ。こいつがこーんなちっせえガキだった頃にな」


 ギース先生がかつてのメカブの頭を抑えるように背丈を手で表す。大体、10の頃だろう。そんな頃から危険に身を置いていたというのか。


「で、んな、ガキについた渾名が長老だ。だから俺はこいつを長老って呼んでる」


「えーと、どうして長老?」


「うん? 誰よりも長生きな奴は長老になるだろ? あとガキが長老って呼ばれてたらおもしれえじゃねえか、がはは!」


 でも長老ではなくない? ギース先生のほうが生きてるし、と言おうと思ったが、違う、と気づく。


 誰よりも長生きとされるだけ、現場に、いや、死地に出ていたのだろう。歴戦の猛者たるギース先生を凌ぐほどに。


「なるほど、ギース先生とメカブは面識が会ったんですね」


「ああ。だから今日、学園で長老と会って驚いたよ。数年前に、ころっと消えたから流石に長老も天寿かと思っていたが、ピンピンしてんだからよ」


「論功行賞にいただろう」


「知らねえ。俺は寝てたからな」


「うん、ギースはそういう奴だよ。本当、よく教師に収まってんねえ」


「それを言うなら、お前もだ。お前ほどの力があれば、学生なんぞやらずに自由に暴れ回りゃあいいのによ」


「自由を訴えれば訴えるほど、自由を認めない自由が大きく強くなるんだよ。抱えられる不自由は抱えたほうが自由になれる」


「まーた、神父みてえなこと言いやがるな。神父になる資格でも取ればどうだ?」


「もう持ってる」


「まじかよ……」


 二人の話を聞いているうちに、メカブについて、また疑問が深まる。どれもこれも掴みどころのない話で、メカブという存在が一切わからない。


 ただ、どうしてメカブが先生を呼んだのかはわかった。


「メカブ、武器の売り先ってまさか?」


「ああ、この人だよ。まあ売り先ってのも正しくはないけどね」


****

こちらの作品が更新再開してます。よろしければ是非。

https://kakuyomu.jp/works/16817139557695218409

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新米貴族の身の振り方〜戦争で成り上がった新米貴族は平和な世を生き抜くため将来有望そうな女の子と結婚したい。婚活始めたら、行き遅れ系令嬢たちが必死すぎて怖いんだけど〜 ひつじ @kitatu

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