新米貴族、さよなら、ナツ。綺麗なお星さまになってね。


 ナツが灰になった。


 さよなら、ナツ。綺麗なお星さまになってね。


「ごめんなさい! わ、わたし何かダメなことを!?」


 ナツからしてみれば、自分が物凄く性欲が強いことを知って羞恥に悶え,

 ショックに嘆いているなか、性欲が強い人なんて! と罵倒されれば、だよな……と涙がほろりだ。


 また自分が汚いエロ女なのに清い人とキラキラした目を向けられたら、惨めに思えて仕方のないこと。一緒にやっていけると思えるはずがない。


 とはいえ、ここで手を引かれては困る。


「ナツ」


「……何?」


「女の子がエロくてもいいんだよ。一部の男には物凄くモテるし」


「何の話かなあ!?」


 明らかに誤魔化し照れ隠し。だけど、わかってるよ風の顔を作ってあげる。


「うぅ……」


 顔に手を当てて泣いちゃったので、からかうのは止めにして本題に入る。


「ま、冗談として、ナツの悩みなんてどうでもいいくらいのことを今しようとしてるんだ」


「相当だよ、私の悩みがどうでもいいことなんて相当だよ!?」


「今、セリア嬢と武器の転売についての話をしようとしてる」


「転売?」


「うん、説明してあげて」


「え、あ、はい」


 セリアちゃんがナツに説明する。話の最中でナツの顔が真面目なものに変わり、話が終わると、はあ、と間抜けな声を出した。


「要するに、貴族から武器をタダ同然で引き取って、のちに賊対応に追われる貴族に買い戻させようってこと?」


「まあそうですね」


「う〜ん、それはどうなんだろうか?」


 難色を示したナツにセリアちゃんは尋ねた。


「何か問題でも?」


「まあセリアちゃん家は、豪商と縁組みしてお金はある。いつ起こるかわかんない賊の出現まで武器を維持できる体力はあるんだろうけど……」


「だろうけど?」


 ナツは、言っていいのかなあ、と躊躇ったのち、口を開いた。


「ちょっとメカブと二人にしてくれるかな?」


 セリアちゃんは、少し呆けていたが、頷いて部屋を去る。


 二人になると、ナツは溜息をついた。


「メカブ、たしかに莫大な資金を得るかもしれないけど、これはダメだよ」


「まあ一応聞いておくけど、どうして?」


「色々あるけど、ひとつひとつ、答えていくね」


 まず、とナツは言った。


「セリアちゃん自体が舐められてる」


「というのは?」


「セリアちゃんの家、バエロニ伯家は、戦費に喘いで豪商と縁組してる。んでセリアちゃんはその娘。ただでさえ、女子供と侮られるのに平民との混血と余計侮られて商談にならない」


 そうなんだ。貴族に平民と侮られるのは俺が一番わかるので、たしかに、と頷いた。


「そっ、セリアちゃんがコミュニケーションが苦手なのも、ずっと馬鹿にされてきてまともな会話が出来なかったからだし、伯爵家の娘なのにこんな貴族街の端に追いやられるくらいだし難しい……ただまあでも、そこは何とかはなるかも。だから私を引き入れたいってことだよね」


 自信家だな。自慰を知らず、本能に赴くまま快楽に流されて長時間耽った性欲の化身のくせに自信家だな。膝枕を子作りと断じて叫んだくせに自信家だな。


 という内心は隠して、続きを促す。


「うん、そう。それで?」


「私が何とか出来たとしても、私はやりたくない。あまりにも反感を買う商売すぎる。モラルなんてなければないほど商人は儲かるようにはなってるなんて話はあるけど、私達はあくまで貴族。それも弱小の貴族だよ。恨みを買うと貴族界隈はまあ怖い怖い。ドロッドロの手で引きずり落とそうとしてくるのと戦う体力はないよ」


「ドロッドロの手って何?」


「なんのことかなあ!? さ、さささ、さっきのエロいの件もそうだけど、もしかしてメカブ起きてた!?」


「え、いや、普通に何のこと?」


 普通に気になって聞いただけなのに、ナツに誤解されてしまった。いやまあ起きてたのはそうだけど。


「と、とにかく、そういうわけだからやりたくない! んで、最後の理由! 武器をバエロニ家が集めること自体が良くない!」


「どうして?」


「メカブはバエロニ家領がどこにあるか知ってる?」


「いや、全く」


「終戦した敵国と隣接してる。何ならセリアちゃんが過度な男嫌いになったのも、自領が略奪にあったからだし、戦場にもなってたの。そんな場所にだよ? 戦が終わってるのに武器集めてたら良くないでしょ」


「うん、それはそう」


「というわけで、この商売はダメ。お金を稼ぐだけなら、きっと間違いないと思う。だけど、私はやらない」


 なるほどなあ、たしかにやらないべきだと思う。


 まあでも、


「武器の転売自体はやらない?」


 俺はナツに改めて提案した。

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