新米貴族と同居人
失敗したなあ。
まさかエリザートが武芸に生きる家の令嬢だったとは。
これからの時代、武力が外に向けられなくなるため、王家からしたら、いつ暴発し矛先が向けられるか不安だ。そのため軍縮はきっと進められ、騎士には暇を出される。エリザートの家は騎士の親玉みたいなもんなので、色々と面倒事に巻き込まれるだろう。
俺がいくら婚活弱者といえど、誰彼構わず行くのは良くないな。
今日のエリザートのような失敗を繰り返さないためには、事前情報を手に入れるのは必須。なのに貴族事情に疎く、伝手も交友関係もなく情報を得る手段がない。
はあ、しんど。
と溜息をついてるうちに、自宅にたどり着く。
ここは、大きな通りを挟んで向かいは平民区の場所。つまりは貴族区の最端である。
貴族区の中央であればあるほど、家格が高かったり、家の力が強く、豪華絢爛な邸宅が多い。逆に、平民区に近づけば近づくほど、こじんまりとした邸宅が増え、家格も力もなかったりする。
とはいえ、俺も堂々たる貴族。トイレ、キッチン、リビング、バスルーム、個室が四部屋、綺麗で広い二階建ての一軒家に住んでいる。1人で住むには広すぎて持て余す優雅な物件だ。1人で住むには、の話だが。
「今日からよろしくね〜、メカブ。同部屋で席も隣のナツだよ〜」
自分の部屋に入ると、ベッドの上であぐらをかいた女がいた。
青髪のショートカットに、小憎たらしさを覚える可愛すぎる顔。爽やかな夏蜜柑の香りがしそうな雰囲気。タンクトップを張り上げるグレープフルーツサイズの胸に、すっぽりとしまい込めそうな谷間、ショートパンツから伸びるむっちりかつしなやかな瑞々しい脚。
見た目だけ良いこの女は、自分含めシェアハウスしてる5人のうち1人、スワン男爵家の八女という弱小貴族、ナツ・スワンだ。
はあ……。一人暮らしが良かったなあ。
顔なじみの文官との会話を思い出す。
***
「お前、学園にこの領から通うつもりか?」
「ん? まあ無理ではないし、金ならないしで、そうするつもりだけど?」
「ここから学園は遠い。不自然だからやめろ」
「いやそう言われましても金ないし。作業員5人雇って金ないし」
「はあ? お前、たったの5人でこの軍事基地の改築工事をこなしたのか!?」
「おう。デリルパード架橋作戦の同僚だから、そこそこ早いわ」
「……そうか。まあそれはさておき、学園に通うなら街で家を借りろ」
「だからぁ、金がねえって」
「はあ、わかった。お前の住まいは私が用意する」
「え、本当!? 贅沢言わないから、良い家に住ませてね!」
「まあ良い家には住ませてやるよ。私が出せる限界のな」
***
なんて会話があって、ちゃんと良い家には住まわせてもらったけれど、まさかのシェアハウス。しかも、部屋は四部屋で五人住みなので、一部屋を二人で使うことになるとは思わなかった。
せめて、家格が高い貴族か将来有望なご令嬢が住んでいたら、とも思ったが、文官に送られた前情報を見る限り、該当者ゼロ。俺含め、雑魚しか住んでいない。
が、まあ、腐っても相手は貴族。こいつとか見た目はいいし、どっかの嫁に行ったときに旦那さんと繋がりができるかもしれない。仲良くしておけば極僅かな得がある。
「メカブ、早速だけど、お腹へった。なんか作って」
「何で俺がやるんだよ……」
と、ほぼ初対面にも関わらず俺は不満を顔に出した。相手を雑魚認定していて気遣うつもりがないだけでなく、ナツには気安い雰囲気があって勝手に口が軽くなるのだ。
「いいじゃん別に。私、料理苦手だし」
「外食行けば?」
「わたしゃあ、入学一年無料に釣られた小貴族の八女だよ。んな金あるわけないない。それにもうお風呂入って、この格好だよ〜」
言われてみると、タンクトップにホットパンツの艶めかしい姿。このまま出ていかれたら、同じ家に住む俺の品格まで疑われかねない。
「わかったよ、材料は? 俺は学校の帰りに買ってきた分があるけど、そっちは何か出せる?」
「私ナツ、釣りガール。朝一でカレイ釣ってきた」
同部屋が釣りガール。最悪だ、魚臭くなりそう。とは思ったものの、部屋には女の子の甘い香りしかないので不思議なものだ。
「わかった、じゃあキッチンに行こう」
「おいさー」
と部屋から出て階段を降りる。リビングのカウンター奥にあるキッチンはそこそこ広く、料理をする環境は整っていた。
「私以外の人とデートに行くなんて……酷いっ!」
そう調理用のナイフを向けてきたナツに溜息をつく。
「普通に渡してくれ」
「はい、しゃーしぇー」
ケラケラ笑うナツからナイフを借りる。そんで木のバケツに入ってるカレイを取り出す。
「ピチピチしてるねえ、私みたい」
「生きてるのを殺すのに気が引けてたけど、急にやりたくなったわ」
「おーい?」
「嘘、冗談」
と言って、俺はカレイをシめる。そして下処理をしてから、捌き始める。
「ほへえ、上手だねえ」
「そりゃまあ、飢えないためには何でも捌く必要があったからな」
「おぉ、なら何釣ってきてもいいね!」
「自分でやってね」
「ええ〜」
「ええ〜、じゃない。というより、邪魔だからキッチンから出ていきなさい」
そう俺はナツを追い出して、料理に集中した。
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