エリザート視点
ブラックキャット公爵家。
創立以来、この国の武門の棟梁を務める家柄。初代王の三番目の息子を祖とし、王家に継承者がいない場合、次期王を排出する三公のうちの一つ。
そんな名門中の名門に生まれたのが私、エリザート。一男、三女の次女である。
幼くして家風に揉まれた私は、武芸を第一と日々修練を重ね、騎士道精神を養ってきた。その結果、齢12には、宮廷魔法使いと遜色ない魔法、近衛騎士にも劣らぬ剣術を身に着けていた。
数々の武芸大会に参加、優勝をするうちに、流石はブラックキャットの娘、と世間では持て囃されるようになり、20を越えると貴族の子女でありながら戦場で指揮を振るった。
そうして得た名声……全部意味ない。だって、男の人めっちゃ嫌がるんだもん。
父と母は貴族にしては珍しい恋愛結婚で仲睦まじく、私はいつも羨み憧れていた。兄妹、親との温かい会話など、愛する2人の家庭は実に心地がよく、私も同じような家庭を持つんだ、と幼いながらに心に決めていた。
それに貴族であれば、側室を設けても普通だが、それがない。もし、他の女と愛する旦那がイチャコラしてたら、嫉妬にくるって私は病むことは理解していたので余計に憧れた。
だがそれは夢物語。17を過ぎ、お見合い失敗回数が二桁を超えたときに、現実を見るようになった。
せめて結婚、愛する旦那と愛しい子供だけでも、と選り好みせずにお見合いを始めたが、その後15敗。
ふん、女のくせに調子に乗りよって。
綺麗事ばっかで煩い。
いやあ〜名家といえど、流石にキツいっしょ。
それが世評。やはり家督を男子が継承する貴族において、自分より強い女性、しかも養われた騎士道精神はネックとなったのだ。
性格を変え、武芸を辞めようかとも思った。
だが少女と呼べる年齢はとうに過ぎ、可愛らしい女の子を演じるような歳でもない。自分もとっくに形成され、今更、己を騙して大人しい令嬢に収まることもできない。
ああ……もう私は一生独身で生きていくのだ、と受け入れかけたときだった。
「エリザート様! 今の貴方を見て、心底惹かれました! よろしければお茶でも!」
男に嘲笑われる私に、手を伸ばしてくれる男の子が現れた。
惨めな思いをして、ナイフを刺されたように傷んだ心を癒やしてくれた。
心臓が高鳴り、胸がきゅうとした。恥ずかしくてぶっきらぼうに誘いに応じた。
その後はもう何もかも手がつかなかった。
彼は私なんかをどういうつもりでお茶に誘ったのか。
まさか私を好いてくれたのか。
いやそんなはずがない、と何度も言い聞かせた。
彼は正義感に駆られたか、公爵家に恩を売ろうとしたかだ。
そうとしか考えられなかった、そうと思い込んだ。惹かれたのはこっちの方で、期待を裏切られるのが怖かった。
そしてお茶会、手合わせ。
私の性格を、私の強さを、私を受け入れてくれた。
……緩みきった頬に手をあてる。
もうニヤけてニヤけて仕方ない。
ついに現れた私の運命の人!!
お腹がキュンキュンして、腰がたたなくなるほど恋に落ちた。
もうずっと彼以外のことは考えられない。
好き、愛してる。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き大好き!
数十分経ってようやく立ち上がった私は、スキップを踏んで帰路につく。
早く結婚したいな! でも、想いを口に出すのは恥ずかしすぎる!
今度、告白してくれたら二つ返事でうなずこう。ああ、早く告白してくれないかなあ〜。
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