エリザート、絶望する
『エリザート様、放課後にお時間頂けませんか? 中庭でお話があります』
ずれた前髪を何度も整えているのは、メカブ君にそう呼び出されたからだった。
やばいやばいやばい! ついに告白されてしまう!
午後の授業は全く頭に入らず、ずっと早い鼓動を刻む心臓を押さえつけるのに必死だった。身体中から漏れ出そうになるくらい一杯の幸せでピリピリして、立ち上がり走り出したくなるのを我慢するのにも必死だった。
早く授業が終わって欲しくて仕方なかったけれど、同時に、その時が来るのが無性に怖くて、時間が過ぎるたびにドキドキは強くなった。
そんな時間を過ごしてついに、放課後を迎えてしまった。
ど、どどど、どーしよう!? どーしよう!? オッケーの言葉はどーしよう!?
前髪は直した。制服も整えた。心の準備は出来ていない。
う、うぅー、き、緊張するぅ。
目とか絶対見れないよ。告白されるのがわかってて恥ずかしいもん。い、いや、その前提が良くない。まだ告白と決まったわけではない。
で、でも、私を呼び出すってことはそれはもう、そうだよね。まさか、昨日ダンスを踊っていた場所だし、私に踊らせようとしている訳ないもんね。
そんなことは万に一つもあり得ない。けれど、プロポーズの流れの中で、踊ることくらいはあり得るかも。
例えば、
「エリザート様、ぐすん。夜会のパートナーに貴方を選べなくなってしまいました」
「はは。気にすることはない。昨日の一件、私も知っている。君は男として正しいことをしたんだ。誇るがいい」
「ありがとうございます、ですが……私は貴方と共に踊りたかった」
「それはどうしてだ?」
「貴方を愛しているからです。なのでここで本来あるべき夜会を共にしていきませんか?」
「まったく、やれやれだな」
「ありがとうございます!」
と踊り、愛を深め、夜には……そして寝起きのプロポーズ。
イイ……。かなりイイ。
もうキュンキュンして仕方ない。心臓もバックバクで叫びたくて仕方ない。
で、でも、こうなるには、テンパったりしないように気をつけなきゃ。あー痛い、胸が痛い、好きすぎて、嬉しすぎて爆ぜてしまいそう!
冷静にいなきゃっ、と落ち着けるけど、中庭に向かう足は、ぎこちない早歩きになってしまう。
ドキドキに苦しんで、精一杯深呼吸をして、中庭に踏み込む。
するとそこにはメカブ君。
と、若い女が2人……。
「エリザート様。早速で申し訳ないのですが、実はお願いがありまして、踊っていただけないでしょうか?」
「君と……だよな?」
「いえ、セリーヌ嬢と」
「は、ははは初めましてエリザート様! よろしければ私めと踊りを!?」
「……あ、うん。いいよ」
私は内心絶望し、投げやりにそう答えた。
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