新米貴族、悩む。
ギースに難題を突きつけられた翌朝。俺はフライパンでベーコンを焼きながら、ため息をついていた。
セリアちゃんを納得させて連れてくること。
騙し、欺き、といった邪道な方法ならば容易いだろうが、ギースに詰められれば簡単にボロが出る。
で、あれば、正々堂々セリアちゃんと和解。そのあと納得させて連れて行くしかない。
だがセリアちゃんは俺に紳士であると騙されて不信状態。謝罪しようにも顔を合わせることも嫌に違いなく、その機会はない。そもそも謝罪しても取り合ってくれるとは思えないし、上手く行っても問題の本質は別にある。
とはいえ、俺が悪いので、まずは謝るところから始めるべき、だが……。
「はあ。どうやって部屋から出てきてもらおう」
何て嘆きながら、じゅわじゅわと玉の汗をかいたベーコンをフライパンからあげる。仕上がりはカリカリかつ硬くならない焼き具合と完璧。煙をかいでるだけでお腹が鳴りそうだ。
———ぐぅ〜
と腹がなる音が聞こえて見ると、髪が濡れたシャーロットがいた。どうやら今日も朝風呂をしていたみたいだ。
「メカブ、美味しそうね」
「だろ? 美味しそうじゃなくて美味しいぞ」
「一体、どんな味がするのかしら?」
「マフィンの上に半熟の卵を乗っけて食べるから、とろける卵とカリカリのベーコンに、塩、コショウ、ソースがあわさった味、香りは焼きたてのマフィンの芳醇な香りがするよ」
「想像したら食べてみたくなってきたわ」
「そうなんだ、簡単に作れるからお勧めだよ」
「私、料理は得意じゃないの」
「じゃあお店を探そう」
「味見させて」
「無理」
「いっそ食べさせて」
「無理」
「いっそ結婚して」
「無理」
「ケチ!!」
「そう言われましても、こっちは食費も切り詰めなければならない状況だしなあ……あと結婚は普通に無理」
そう言うと、シャーロットに白い目を向けられらので視線を背ける。
すると、時計が目に入り、登校準備を始めて良い頃合いだと思った。
「登校……あ」
「どうしたのかしら、メカブ?」
「セリアちゃんって学校はどうしてるの? 部屋から出てるの見たことないけど?」
「求婚を断ってすぐ他の女の話をしないでくれるかしら? でもそうね、彼女は普通に学校に行っているわよ」
「まあそれはそうだよな。でもだったら、どうして俺は今まで会えなかったんだろう?」
なんて疑問が口をついでる。引っ越して数週間、いくら彼女が部屋から出てこないと言っても、流石に出会わなさすぎる。興味が一切なくて気にも留めたことがなかったけれど、一体全体どういうことだろうか。
「セリアさんは基本的に部屋からでないからね」
「部屋から出ないって言っても、最低限会いそうなもんだけどなあ」
「仕方ないわよ。だって……ここからはマフィンね」
すっと皿を差し出すと、してやったりの顔でシャーロットは話し始めた。
「セリアさん、学校にいる時間が長いのよ。彼女、科学専攻してて頭もいいから研究室に篭りっぱなしみたいで」
「ほへえ。教室で授業は受けないんだ」
「受ける人もいれば、受けない人もいる。皆が新入生には変わりないけど、歳はバラバラ。皆が同じカリキュラムを受けるわけではないからね」
「つまり教室で授業を受けるレベルの俺とナツとシャーロットは馬鹿三人組ってこと?」
「私を混ぜないで欲しいけれど、そういうわけじゃないわよ。あくまで志願制だから実績を出したり、試験を受けたりとか、飛び級の手続きを何もしなければ自動的に一年生クラスよ」
「ナツが混ざるのはいいんだ」
「初等教育で保健を学んできて欲しいからいいの」
あの一件からシャーロットのナツに対する目が変わった気がする。まあそれはともかく。
「まあでも、引きこもりって割にはセリアちゃんは意識高いんだ。研究室に篭ってはいるけど、それは学業のためだし。あの性格じゃあ学校に行きたがらないと思うけどなあ」
「ええ。意外よね。ところでお代わりはないかしら?」
「ところでセリアちゃんの意識の高さの原因は?」
「知らないわ」
「じゃあない」
ニコッと笑ったシャーロットにニコッと笑顔を返す。
背中を蹴られそうな気配を感じたので、俺は後退りしながら居間を出て学校へ行く準備を始めた。
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