新米貴族、シャーロットの夢を聞く
「私はね、演劇のスターになるために学園にきたの」
「演劇のすたあ?」
「ダサい発音しないでくれるかしら? スターよ、スター」
俺の発音を咎めてシャーロットは続ける。
「王都で見た演劇。ヘル・モズク将軍の英雄譚を見た私は衝撃を受けたの。舞台の上で、凛々しく美しく格好良く振る舞う姿は、まるで本物の老鎧将軍がそこにいるようで、私は感激したわ。舞台上の小さな範囲の殺陣に肌がビリビリと震え、演説にはまるで私が兵士であるかのように熱狂させられた」
「演説とかって、したっけなあ……」
「貴方も王都の劇を見たの?」
「え、あ、っとうん、ちょっとね」
「なら、わかるでしょ。あの舞台上の人々の煌めき、中でもヒロインの眩いくらいの輝き。皆が陶酔して、恋焦がれて胸を掻きむしるようなヒロインに憧れないでいられないわよ」
「そう、なのか?」
とナツに目を向ける。
「あはは。どうだろう、私もまあ憧れるっちゃあ憧れるけど、そこまでかなあ?」
「だってよ」
「うるさいわね。人が何に憧れようと勝手でしょ」
「あはは。でも意外。今や貴族にも演劇人気が高まってるし、お家柄、教える立場になるから勉強してるんだと思ってたー」
「ピャウはそうだし、私も家からはそう言われてるわ。でも、私はどうしてもヒロインになりたいの」
「そんで、ダンスでも輝きたいってこと?」
「うん。きっとダンスで輝ければ、私にしょうもない評価を下した先生を見返してやれると思う。華がなくて地味なんかじゃないって」
なるほどなあ、とは思う。でもだったら、尚更の話だ。
「じゃあ俺と組まない方が良いんじゃない? ダンス上手い人とかのほうがきっと成功すると思うけど?」
「ううん。私、メカブに期待してるの」
「期待? どうして?」
尋ねると、シャーロットは頬を染め、ぶきっちょに言った。
「ピャウから庇ってくれたあのとき、メカブは本当に格好良くて、物語に出てくる王子様みたいに輝いて見えた。きっとダンスも上手くなれば人を惹きつけてくれると思ったのよ」
うーん、何から何まで誤解なんだけどなあ。
「私には人を惹きつけることは今は難しい。でもメカブなら、きっと出来る。メカブとなら私は輝ける。だからお願い、私の夢を叶える手伝いをして欲しい」
シャーロットに真剣な目を向けられる。彼女の本気の気持ちは伝わってきたけれど、俺としては乗り気になれない。
まあでも、想いを乗っけられるこの感覚。どうにも抗い辛い。
『明日、生きてたら、勉強でも剣でも魔法でも何でも良い。努力して偉くなれ、俺みてえなおっさんにならないようにな』
そんな言葉が蘇る。俺は生来、想いを託されることに弱いのだ。
でも、やるとなったら、きっとダンスも努力せねばならないだろう。努力したくないから、嫁探しをしているわけで、ここで努力するならば、本末転倒、と言える。
だったら答えは、ノーだ。
『わかった、シャーロットは謝らなくて良い。俺だけ謝りに行く。元は俺が撒いた種だ、巻き込むわけにはいかないよな、普通』
なんて、言いたかったけれど、やはり想いを託されることには弱い。
怪我を負って臨終間際の老将軍の冷たい手が、俺の頬に触れた感覚まで思い出す。
『この国の、未来を、託した……』
……はあ。
溜息をつき、自嘲の笑みを浮かべて口を開く。
「わかった、シャーロット。やろうか」
「本当!?」
「うん。まあ元はと言えば、俺が大口叩いたからだし、責任取るのが道理だし」
「それは本当にそうね。でも、ありがとう。やっぱメカブは格好いい男の子ね!」
ニコッと眩しい笑みを浮かべたシャーロットに照れくさくなる。そんな気持ちが伝わったのか、シャーロットまで頬を染めた。
「じゃ、じゃあ明日からよろしくお願いするわ!」
「うん、了解。じゃ、ナツ。風呂入ったら寝るから、灯りは消しといていいよ」
「んー、わかったぁー」
「あ、ちょっと待ってくれるかしら?」
シャーロットは部屋に帰ろうとするナツに待ったをかけ、そっぽを向いて言った。
「この男と同部屋が嫌になったら、私に言いなさい。代わってあげるから」
「うん? わかったぁー、じゃそんときは言うねー」
「え、ええ! では!」
そう言って、シャーロットは居間から出ていった。
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