第6話


 ガス用採掘器を備えた採掘ドローンが巨大なガス惑星に突っ込んでいく。


「……あー。爆散した」

『思った以上に大気の状態が不安定ですね』

『至る所で超巨大なサイクロンが発生します。予測できません』

『潜ったら圧力で圧壊しますね。高度に注意です』

「困ったなぁ。これはドローンじゃ厳しそうだぞ」


 トライ&エラーをかれこれ100回近く繰り返しているが、ガス惑星に突入するドローンは過酷な環境に耐え切れず爆散している。

 

「小型のドローンじゃなくて、マジカル炉を備えた採掘艦が必要かもしれないな」

『立候補しまーす』

『ぼくもぼくも』

『わたしもわたしも』

『おれもおれも』

「あみだくじで決めよう。じゃんけんだと永遠に続きそうだ」


 こうして決まったシャビードローンの炉を使い、大きな採掘艦を作ることにした。


「荒れ狂う大気圏内に耐えられる事が大前提で作るから、頑丈な装甲と……まてまて。電力はどうする? 太陽光パネルを広げる訳にはいかないからな」

『ドローンと一緒でバッテリーではダメですか?』

『自家発電出来ないと、戻ってこれなくなりませんか?』

『発電機の開発が先?』

『その発電機を回す為の動力を先に作るべきでは?』

『それぞれ自前の炉を持っているんだから、発電に回せばいいんじゃない? 一つは発電と動力の役割にして、もう一人立候補した子がガス採掘と生産製造に回れば?』

「……ん? ちょっと待って。今発言したきみ。私がマジカル炉って言っているあれは溶鉱炉だから発電する用の炉じゃないよね? もしかして発電も出来るの?」

『溶かす機能を止めれば、発電したはずー?』

「なんで疑問形なのよ……」


 未だに自分の事も分かってい無さそうなシャビードローン達に少し呆れつつ、自分達のことも調べなさい、と命令しておく。

 

「とりあえず、ガス採掘は後回しにしましょう。課題が多すぎる」

『じゃあ、まずは拿捕した採掘母艦を分析して化学工場の設計を始めましょう』

『金属の気体化も出来るようになったので、色々試してみようね』

『先行してワープ装置の模造もしてるけど、まだどこにワープするか分からない不都合品ばかり出来るから、やっぱり化学工場が優先かなー』

「そうだな。どこに飛んでいくか分からないワープ装置では困るから、しっかり部品が作れるように、基礎研究から進めていこう」


 こうしてシャビードローン達にバラバラにされた採掘艦は、少しずつ母艦の内部に取り込まれていった。そしてベースとなる設備を複製&巨大化していき、失敗を繰り返しながら徐々に性能を高めていく。

 途中何度か体(船)の中で爆発が起き、おえっ、と吐きそうな気分になることがあった。あらためて、自分の体がこの船なんだなと感じる。


『設備が船からはみ出しちゃいます』

「もう一回り船を大きくしよう」

『いっそのこと、もっと大きくして、内部にゆとりを作りませんか?』

『配管が大変ですー。複雑すぎて、さっき出口と入口間違えてくっつけたら爆発しました』

「さっきの爆発は君の仕業か。まあいいけれど……そうだね。どうせまだまだ拡張していくんだし、私の船は旗艦にもなるから、好きなだけ大きくしていこう。大は小を兼ねるっていうし」

『よーし。許可も出たから、どんどん大きくするぞー』


 ピュンピュンと採掘ドローンが飛び交い、小惑星帯を食いつぶす勢いで鉱石を掘りだしていく。掘り出された鉱石が船内に運び込まれ、マジカル炉に投入して溶かされる。その溶けた液体金属は熱せられた配管を通って様々な製造工場に持ち込まれ、そこで部材に生まれ変わっていく。

 船体を大きくする事を優先したため、躯体構造、外殻構造の製造ラインが最大効率で稼働を始めた。他の製造ラインは少し休止をしつつ、少量を生産してトライ&エラーを繰り返した。

 

『あるじさまー。仲間が加わりたいそうです』

「おー。呼んでた子達が到着したのか。どんどん増えるなー」

『探索ドローンも作って自立運転で四方八方に飛ばしてますから、そのうち全宇宙から集まりだしますよ』

『私達も自分たちがどこにいるのか、あまり把握してませんから、全員集合するのにどれだけの時間が必要か分かりませんけれどねー』

「でも、不思議なことに距離と方角くらいは分かってるんだよね?」

『そうです。我々の意識は複数あるように見えて一つなので、個々それぞれの居場所は大体分かります』

『ただ、その居場所がこの宇宙のどこなのか分かりません。なんとなく、一つの個体を基準にしてこのあたりー、みたいな感じです』

『今は主様を起点にして距離と方角が分かるので、そっちに探索ドローンを打ち出してます』

「意識が一つなら、一斉にみんな集まれーって呼べないの?」

『んー。なんだろう』

『個々の裁量に任せる? みたいな?』

『俯瞰して全体は見えるけど、細かい情報のやり取りは無理、みたいな?』

『探索ドローンや中継ドローンを介した情報伝達リンクが確立されれば、おそらく主様の言われるみんな集まれー、も可能かと思います』

『意識の集合体? っていうのかな? そこはみんなの感情や位置情報がぽやぽや浮かんでるだけで、そこに対して指示したりはできないっぽい』

『今までやったことがないだけで、実際は出来るのかも?』

『考えたこともなかった』

『さっきの炉の話もそうだけれど、僕達は自分達のことも研究したほうがいいかもね』

「そうしてくれ。もしその意識の集合体とやらからすべてのシャビードローンに一斉指示が出せるようになるなら、戦いに非常に有利になるぞ」


 距離の概念が薄れて、どんなに離れていても複数のシャビードローン達をリアルタイムで動かせるようになるのだから、とんでもないことになる。シャビードローンのいる宙域に限定されるが、全宇宙に索敵ドローンを展開しているようなものだ。

 

『じゃあ、新しく着任したシャビードローン達には自分達のことを研究するように伝えるね』

「よろしく。マジカル炉については早急にしてくれ。採掘艦が作れないと、ガスが採取出来ないし、そうすると半導体関係が難しい」


 りょうかいー、と気楽な声を上げてシャビードローン達が作業を始めた。

 私はぴゅんぴゅん元気に飛び回るドローン達を眺めながら、自分の体が徐々に大きくなるのを感じた。


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