第22話


 とある界隈で、シャビドは人知れず有名になっていた。

 きっかけは週刊誌より質が悪いと噂のタオタ報道が行った傭兵への生配信だった。


『メスガキを分からせしたい』

『親のコネとかだよね。こんなガキンチョがシルバーランクとか詐欺以外ありえない』

『ローグドローンの討伐以外一切の依頼達成がないんでしょ? 護衛依頼もやらずにシルバーランクに上がるわけないじゃん。詐欺確定』

『いや、プーレグ宙域はローグドローンに隣のジンレオコロニーをぶち壊されて、ローグ討伐が全てにおいて優先されていたから、組合への貢献度的にはローグ討伐が最も有効』

『だからといって、それだけやってる傭兵をシルバーに上げるのはどうなのよ。このメスガキどう見ても問題児よ』

『まぁ、タオタ報道も大概だけどね。我こそはマスゴミである、を地で行く会社だし』

『シャビドちゃんに見下されながら「死ね」って言われたい』

『裸にひん剥いてわからせたい』


 完全に無視を決め込んでいるシャビドに対しタオタ報道頑張れ、という激励のコメントが流れる中、ついにシャビドは傭兵組合に入って行ってしまう。そしてタオタ報道の記者とカメラマンは傭兵組合のガードマンに行く手を阻まれた。


『腐ってもシルバーなのか。傭兵組合が割とガチ対応してる件』

『アイアンとかブロンズだと逆に組合から報道機関の前に放り出されるからな。なんとかしろって言われながら』

『メスガキの表に出てる分だけ経歴みたけど、傭兵登録前の情報が一切ない』

『はぁ? 完全義体フルメタルなのに情報ないとかありえないだろ。検索へたくそか』

『身のこなしと目線と眼球からして、電脳化と骨格の義体化は確定』

『あの小馬鹿にしたような「はぁ?」みたいな表情が出来るのは生皮膚と生筋肉もしくは人工筋肉しかない。機械的な不気味さが全く無いから、相当なハイスペック仕様だぞ』

『傭兵やるまえからその義体を揃えれるだけの資産があるにも関わらず、情報が一切ないとはこれ如何に』

『貴族から廃嫡された御息女とか』

『貴族なら廃嫡されてても帝国の貴族名簿に顔が載るだろ。このメスガキの容姿に似ている奴はいないぞ』


 タオタ報道の記者がシャビドの素性についてあることない事を傭兵ギルドの前でまくし立てている。


『メスガキの船を特定したぞ。フリゲート艦だ。良い船だぞ。みんな大好きH鋼だ』

『今大量に停泊してるブラブレ共の艦船と一緒に移動してるっぽい。ジャンプゲートの使用料が安くなるコバンザメ戦法だな』

『ハナビシ重工のH鋼? 我も好き』

『これを傭兵登録時から持ってるんだろ? ニュービーが持てる船じゃない。高すぎる』

『ちょうどいま港湾にいるわ。メスガキのお船訪問するぞ』

『シルバー様のお船訪問配信してくれ。外装からどういう仕様か見たいわ』

『おk。じゃ、こっちのアドレスから配信する』


 タオタ報道の口汚い罵り声に飽き飽きしていた視聴者が別の配信サイトに移っていく。そしてシャビドの乗っているフリゲートが徐々に見えてきた。


『見た目は完全にH鋼だな……おいまてや。あれレーザービームタレットや』

『標準装備は4門の小型パルスレーザーなはず。どうにもて中型レーザービームタレットです本当にありがry』

『艦船シミュレーターで装備構成を組んでみたんだが、どう計算しても電力不足になる。タレット一機ぶん回すだけで推力もシールドも20%程度しか動かせない。そもそも起動しないまである』

『ケツみせて。H鋼様のおケツ様を見せてくれ』

『おほー。大きいノズルやー。……んmmmmm』

『wwwwwwww』

『クソ魔改造(゚∀゚)キタコレ!!』

『まさかの可変排気ノズル。艦載機じゃねーんだから……この船のコンセプトが分からん』

『これまたフリゲートサイズじゃねーな。駆逐艦用? にしては特殊な形状だな』

『流石我らのH鋼様。無理難題に答えてらっしゃる。やっぱ船はハナビシ重工だよ』

『船体耐久度がた落ちだろ。横G掛けたらへし折れるんじゃね?』

『この大きさで可変排気ノズル搭載推進機なんてクソマイナーどころか存在すら怪しい』

『試作機? プロトタイプ? メスガキシルバー様はどこかの企業の極秘テストパイロットで、実戦でのデータ採取が目的とか』

『↑が一番ありえそう』

『まって。まってまって。これ本当に動く船? 張りぼてじゃない? 現地民! 船の大きさは本当にフリゲートサイズ? それを動かすための炉のサイズがどう頑張っても船より大きくなるんだけど!!』

『フリゲートサイズだなぁ。不思議だなぁ(達観)』

『海軍仕様の炉にしたって、ここまで小さくしたら発電量も小さいしなー』

『やば。整備したい。分解したい。めっちゃ気になる』

『シャビドちゃんぺろぺろしてあげるから、お船もぺろぺろさせて!』

『誰か突しろ! 凸しろ!』


 シャビドのお船訪問配信はネット界隈でひっそりと人気になるのだった。

 そのころのシャビドはシャビードローン達のシャビドジャンプについて「ほへー、すごいなぁ」という感想を抱いていた。


『こんな変態魔改造フリゲートを見てしまったら、わからせたくなってきた』

『完全義体に魔改造船。超金持ちの道楽か、それこそどっかの企業のテストパイロットか』

『あんな性格に難がありそうなメスガキをテストパイロットにするか?』

『せやせや。テスト機ってことはこの船は企業の極秘情報満載なんやろ? そんなのをあんなメスガキに任せる企業なんかおらへん』

『あ~、イライラしてきたぜ。どこぞの金持ちの道楽かなんかだろ? わからせてやりてえよなぁ』

『そんな君に朗報だ。懸賞金システムを使ってメスガキを賞金首にしてやろうぜ』

『額が増えれば注目されるだろうから、秘密にしたい企業からしたら困るだろうし、そうなればメスガキは上からの命令に従って引っ込むしかない』

『金持ちの道楽だったとしても、いろんなやつに狙われだすだろうからいい気味だ』

『宙族に攫われてわからせられてる姿を映像化してくれねぇかな。めちゃしこするわ』

『ある程度の額になれば、そういう可能性も微レ存?』

『あの変態魔改造フリゲートに叶う宙族がいるか疑問だが』

『いうて、メスガキの戦闘記録はローグドローンとプラウラドローンしかないし、対人戦闘は初心者の可能性もあるぞ』

『ワンチャンわからせの可能性ありか!?』

『おい。懸賞金かけられねぇんだけど』

『言っとくけど、懸賞金は1izk《インズック》からだからな。』

『たっか。ゲームソフト2本買えるぞ』

『高額取引がizk《インズック》単位なことはしってたけど、最低が10,000mmizkミリインズックはたけぇなぁ』

『コロニー内勤共に教えてやろう。一番安いブラスタータレット弾が100発で300izkだ。傭兵はこれを最低でも5,000発は積んでいく。良いか? 300izkだぞ』

『300izkってことは、mmizk単位で3,000,000mmizkか。俺の年収じゃねーか……』

『はえー。傭兵って儲かるんだなー』

『一回戦闘に出るだけで、俺の預貯金全部消えるんだが』

『↑そこそこ持ってんな。おら、メスガキに懸賞金かけろ』

『早速メスガキに懸賞金かかったぞ。2izkだけ』

『お前らもっとがんばれよww』

『生活補償強制労働者のわい、低みの見物』

『↑がんがれ』

『↑配信みてないで仕事探せ』

『↑ゴミ拾いお疲れ様でーす』

『↑いつもトイレ掃除あざますあざます』

『強制労働者にやさしいせかい』

『なんかあったら真っ先に斬り捨てられるからな。通常時くらい優しくしてやろうぜ』

『メスガキの懸賞金100izkになったぞ! おい、この配信者の中に金持ちがいるぞ!』

『こんなお遊びに100,000mmizkも出すアホがおるww』

『アホはお前じゃ。100,000mmizkじゃなくて1,000,000mmizkだ。百万だ』

『メスガキ懸賞金更新。1Mizk超えた。誰や。超金持ちがおる!』

『1Mってことは、1,000,000izk!? mmizk換算で……100億!?』

『一番安いフリゲート艦が300,000izkくらいだから、下手したら駆逐艦買えるくらいだな』

『メスガキに懸賞金かけるくらいなら、俺にくれ!』

『クレクレ厨が出始めたぞ! おうちに帰れ!』

『欲しければくれてやろう。お前がメスガキを倒せ!』

『SNSで拡散して傭兵共に知らせてやろうぜ。あいつらこういうバカ騒ぎ過ぎだから乗ってくるかも』

『お。いいねー。俺もつぶやこー』

『一番やすいフリゲートで30億mmizkか。やっぱ俺らと住む世界が違うんやな』


 そのころのシャビドはというと、ペコペコ何かを受診して光る端末に首をかしげていた。


「なんか、やたら通知来るんだけど。鬱陶しいな。これどうやって消すの?」

『端末に音声認識機能があると思いますよ。話しかけたら消せると思います』

「ありがとう。おい。端末。ピコピコ鬱陶しいから通知しないように設定してくれ」


 そして端末から「はい。通知による点灯が行われないよう設定を変更しました」という音声アナウンスが流れた。

 シャビドは静かになった端末に満足し、お代わりで貰ったカフェオレを静かに飲むのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る