第32話

 シャビードローンが地球を実効支配し、太陽系を支配下に置いてから2年が経過しようとしていた。

 シャビードローン達と地球人による地球防衛は不備なく行われており、宇宙人類や機械生命体が太陽系で悪さをしたことは無い。すべて未然に防がれている。

 

『主様。また一部の機械生命体から地球人の提供依頼と譲歩案がきています』

「そうか。なら、地球で『ラブアンドピース』って叫びながらテロ活動してるやつらを捕まえて渡しておこう」

『こちらからは何を要求しておきますか? またケモミミ種族にしますか? この前は猫と犬でしたから、次は地球人からの要望が多い兎にしますか?』

「そうしておくか。要望が出ていた船には先行してお知らせしておこう」


 流石に2年も全く進捗無しの戦争が続けば、機械生命体の中でも派閥によっては考えを改める者が出てくる。そういった者達はシャビードローンに対して地球人を要求する代わりに、宇宙人類が用いている技術や製品、他の宇宙生物や種族などを提供してくれる。

 今や、シャビードローンと一部の機械生命体は、表ではバチバチに戦争をやり合っているが、裏では握手して取引しているような状態になっていた。これは当然ながら宇宙人類にも言える事であり、戦争を声高に叫んでいた貴族は国民から猛反発をされ、その影響力を著しく落とし、逆に戦争鎮静化を望む貴族が勢いを増していた。

 

「2年近くも、よく戦争したなー」


 地球人からは「太陽系の支配者」「銀の悪魔」「銀メタルシャビド」「メタルマン」「銀シャリ」などと呼ばれる、全身フルメタルの銀色義体に入ったシャビドは、椅子に深く腰掛けた。

 その席の反対側に座るのは、エルフ族始まって以来の才女とも言われた統括族長であるノージャ・ロゥリーだ。彼女は気難しい(と噂の)銀メタルシャビドと上手く交渉したことにより、その地位を盤石なものとしている。


「最初はどうなるかと思ったが、良い落としどころだと、我は思うのじゃ」

「そう? そう言ってもらえると嬉しい。ノジャロリ氏には地球で色々調整してもらって助かってるよ」

「まぁ、お主の発言は影響力がデカいからのぅ。悪い意味でじゃが」

「上手く役割分担が出来ていて、いいじゃないか。アメと鞭だよ」


 銀メタルシャビドの役割は、徹底して冷血な支配者を演じることだ。そして、地球人のために交渉をし続けているように演じているのがノージャ・ロゥリーだ。今のところは地球人を上手く騙せており、地球上の主要な国のお偉い様たちは、銀メタルシャビドにお伺いを立てる前に、必ずノージャ・ロゥリーに相談を持ち掛けるようになっていた。

 

「我の方から、機械知性体に提供する実験体の選出について言っておこう。お主が一方的に命じると、また反発がでるじゃろうからの」

「ノジャロリ氏がやっても反発は出るでしょ? 表向きは平和を願う団体だろうが、やってることは平和とは程遠い過激なことだけどさ」


 海に浮かんでいる宇宙船に向けて大型タンカーをぶつけてきたり、地球の街を探索している非番のシャビードローン達を襲撃したりと、平和を願う団体は平和ではない手段で平和を訴えてくる。まったく困ることはないが、鬱陶しくは思う。


「各国の警察に過激な実行犯を捕まえさせるのじゃ。そいつを臨時裁判で有罪にして、お主が最初に言い出した”懲役10年以上は実験体行き”の条件に当てはめさせるのじゃ」

「あー。まだあの条件って生きてたんだ」

『定期的に送られてくる実験体はこれだったのですね』

『納得ですー』


 シャビドの脳内にシャビードローン達の会話が聞こえてきた。


「そもそも、随分と実験体を使ってきたようだが、何か進展はあったのか? もうそろそろ実験体は要らん、とは言わんのか?」

「んー。機械生命体とか宇宙人類に渡す分もある程度は確保しておきたいけど……そうだね。確かに実験体同士で繁殖させてるから数は結構あるし、そろそろ条件の緩和を考えてもいいかも」

「繁殖……しれっと恐ろしい事を聞いたのじゃ……。なら条件緩和の話も地球人には伝えておくのじゃ」


 この二年間で、シャビドのやり口に慣れてしまったノージャ・ロゥリーは、彼の発言についても顔色一つ変えることなく、自分のスケジュールを確認していく。


「我らエルフ族も地球人と交わる事で人口減に漸く歯止めが掛かったのじゃ。これまで数千年、ゆっくりと滅びの道を歩んでいたのに、その憂いが無くなったことは、素直に感謝するのじゃ」

「エルフなんて地球人の大好物だから絶対に大丈夫だよ。むしろ、人口爆発で食糧問題とか発生しないか心配よ」

「その心配は無いのじゃ。エルフ族はそもそも孕みにくいのじゃ。通常のヒト種のようにポコポコできないのじゃ」

「そりゃ、ヤル頻度とかによるんじゃない? 地球人の性欲舐めない方が良いよ?」


 エルフ族の希望者は地球上で生活しているし、シャビドが用意した宇宙船の中でも生活している者がいる。総じて美形であり、エルフ族は地球に住所を移した半年後には結婚相手と子供を授かる程の人気者になっていた。

 

「大丈夫なのじゃー。我々の孕みにくさは異種姦並みなのじゃ」


 良く分からない例えをするノージャ・ロゥリーに、シャビドは表情の見えない銀色の顔に、苦笑いを浮かべる。


「薄い本、直行な気がするなぁ」


 シャビドはぽつり、と呟き、一部の方には絶大な人気を誇るノージャ・ロゥリーの身を案じるのだった。

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