第31話


 宇宙人類の貴族や機械生命体、機械知性体が画策していた地球のペットファーミング化作戦は完全に破綻していた。

 地球人類に自分の星を攻め落とさせる、という上流階級の性格破綻者達が喜びそうな趣味の悪い作戦であったが、その作戦の遂行が難しくなった。よって別案としてエルフ族のノージャ・ロゥリー氏の捕縛作戦に変更したが、これも突然参戦してきたシャビードローンに完膚なきまで叩き潰されてしまう。

 作戦の立案者たちは地球を不法に占拠したシャビードローンから地球人類を救出するという建前のもと、宇宙全土から艦隊を終結させつつあった。

 いくらジャンプゲートを潰し、太陽系へ来るルートを制限したとしても、さすがに宇宙全土から集まってくる戦闘艦の数はシャビードローンだけでは対応でき……ないとは言えないが、それでも結構な負担になる。数の暴力で勝ち進んできたシャビードローンに対して、数の暴力で対抗すると言うのはなかなかに良い作戦だと言える。

 

 ここで問題になるのが、宇宙人類は生ものだということだ。

 宇宙全域から、例えばジャンプゲートを使用して地球にたどり着こうとすると、最短でも数日は掛かるし、遠い場所であれば移動だけで数カ月は必要となる。当然、船の乗組員の水や食料などの補充も道中で必要となるし、弾薬の供給も必要となる。それらの物資をどこに集めるかも重要だが、宇宙全土から集まる艦隊に供給できるほどの物資を一か所に留めておけるかというと、それも難しくなる。そもそも艦隊を集めたら、その艦隊が守っていた宙域を誰が守るというのか。あっちをやろうとすると、こっちに問題が出てくるというのような状態だった。

 機械知性体も自分自身は食事等が必要になることはないが、船を動かすためのエネルギーなどは必要となる。そうなると、やはり兵站という面で負担が発生してしまう。

 とにもかくにも、宇宙全土から艦隊を集めるという言葉通りの行動を起こそうとした場合、それは非常に困難を極めるものであった。


 対してシャビードローンは食事の必要も無いし、船の整備は自前で出来る。燃料も現地製造現地消費という地産地消が可能。おまけに、今や銀河の端から端まで30分で移動可能という、他種族が知ったら「チート禁止!!」と叫ぶであろう”シャビドジャンプ”の存在もある。

 さらに、地球人に携帯ゲーム端末で操船させる船により、シャビードローンの思考を外れた、独自の行動原理を持つ戦力の拡充もでき、高ランク保持者にもなれば、簡単な命令コマンドを使用して数百隻のドローンを操ることも可能となってきた。低ランク保持者でも、魚雷満載のラムアタック用フリゲートを用いて、敵艦に突っ込んでもらえば、それだけでも嫌がらせになる。たとえ目標にたどり着けなくても、そういった存在が予測できない動きで接近してくるというのは、やられる側としては、たまったものではない。


 シャビードローン達の何が非常識かというと、これらすべてに対して命の危機に晒されないことだ。地球人たちは宇宙に出ることなく、地球上から遠隔操作でドローンを操れるし、シャビードローン達も核を持たない戦闘ドローンを突っ込ませるだけなので、命を消費する心配がない。


 当然のことながら、シャビードローンが使っている技術の元は、機械知性体が使っていた技術をパクったものであるから、宇宙人類側だってやろうと思えば出来る。居住惑星や居住コロニー上から遠隔操作で戦艦を運用することだって難しくない。

 だが、宇宙人類側はその手法を取れないでいた。予算的な問題があるからだ。

 例えば、一人で遠隔操船可能な戦艦を建造しようとすると、戦艦一隻を作るのに3隻分以上の資金が必要になる。そして、作ったは良いが、その船を誰に操縦させるのか、という問題も出る。一個人のワンミスで超高額な宇宙戦艦が撃沈される可能性があるわけだ。そんな超特大の責任を負いたいと思う者はなかなかいない。

 その点、シャビードローン達のドローン船は自前で作っているし、壊されたところでまた作れば良いや、くらいに考えているので責任の所在なんてものが存在しない。次は頑張ってね、と新しい船がポンッと出てくるのだ。そもそも、ラムアタック戦法が使える時点で、船の建造コストというものは無いに等しい。


 そこで宇宙人類は考えた。

 シャビードローン達は人間のようにポコポコ増えるような種族ではない。つまり、彼らは一個人の価値が非常に高い為、人的資源を消費させないためにドローンを用いて攻撃をしてくる。ならば、宇宙人類側は豊富な人的資源を用いてこれに対抗することにした。

 宇宙人類は人口爆発が起こっており、宇宙コロニーは人で溢れかえっていた。また居住可能惑星も人でごった返しており、失業率が毎年のように課題となって表れていた。そこで、宇宙人類達は船舶の操船システム等を自動化するコストよりも、原始的にすべてを人力でやらせた方がコスト的には安くなることに気が付き、これを実行した。

 高性能な宇宙船を1隻を作るよりも、そのお金で旧型の宇宙船を20隻作る方が総合的に見て戦力が増えることになる。おまけに安い賃金で人的資源を活用できるため、失業率の改善にも貢献できる。

 宇宙人類達は旧タイプの船を作りまくり、そして最低賃金で溢れる失業者を戦場に送り込むことにした。

 だが、旧タイプの船になると、機械知性体や機械生命体がハッキング等で干渉できる部分がなくなるため、彼らからすればあまり好まれた艦ではなくなってしまう。自分たちの思うように船を操れなくなるため、いざとなったときに身代わり等に使えないからだ。

 こうなってくると、宇宙人類側と機械知性体側で「そんな旧式の船を作るな(我々が操れないだろうが)」という意見と「そんなコストの高い船なんて作れないよ!(失業率対策しないと選挙で勝てないんだよ!)」という宇宙人類側の意見が対立し、最初は協力関係にあった宇宙人類と機械知性体との間に亀裂が生じ始める。


 だが、シャビードローン達にやられっぱなしというわけにはいかない。

 宇宙人類の貴族には面子を重んじる文化がある。

 宇宙人類側の造船企業や兵器関係企業には膨大な発注が掛けられ、さらに失業者達は遥か彼方の太陽系で行われる戦場に次々と送られていく。宇宙人類は空前の好景気に見舞われ、戦争にムダ金使うな派がクルリと手の平を返し、戦争推進派が幅を利かせ始めた。

 これは面子を重んじる貴族にも大変に影響し、戦争で勝ちたい貴族の思惑と、戦争で儲けたい商人の間でも軋轢が生じ始めた。

 宇宙貴族達はさっさと決着を付けたい。宇宙商人達はなるべく戦争を長引かせ儲けたい。

 

 こういった思惑が重なり、さらにそこに機械知性体や機械生命体が絡みあい、宇宙人類の政治はカオスに包まれた。

 

 その結果が、太陽系への戦力の逐次投入という愚策になり、シャビードローン達から見ると、雑魚敵が良い感じに無限湧きしてくる戦場になってしまった。消費される兵士達からしたら、宇宙貴族や機械生命体等の政治に巻き込まれ、たまったものではない。

 このような状況下であり、いい塩梅の難易度で戦闘が継続すると地球人のドローン操船についても経験者が増え始めてきた。センスの良い者達は戦場での功績によりランクが上がり、自前の船を持つ者が現れ始める。 

 

『ふははは! みろぉ、敵がゴミのようだぁ!』


 演技じみた声音と共に大量のレーザービームが放たれる。

 この船はシャビードローン達が操っている戦艦級とタイプは同じだが、その装甲には某天空の城の大佐の顔がデカデカと描かれていた。いわゆる、痛車ならぬ痛艦というやつだ。シャビドの粋な計らいにより、自前の船を手に入れた者には好きなカラーリングを施している。どうせなら自分の船に愛着を持って欲しい、というシャビドの計らいによるものだ。

 なお、痛艦は某国民のパイロットが圧倒的に多く、それ以外の国から「やっぱりアイツらはクレイジーだ。未来に生きてやがる」と言われたとか言われてないとか。


『ム〇カ大佐を援護しつつ、敵艦隊の側面に回るぞー』

『戦艦が20隻も集まると壮観だなぁ』

『俺の船は今日納車されたばかりの新車なんだ。頼むから傷つけないでくれよ』

『戦わない戦艦なんてタダの船よ』

『ただの船でも宇宙を飛び回れる自前の船なんだからいいじゃん』

『ランク上げるだけで、こんな巨大な戦艦を無償で与えられるって凄まじいな』

『そりゃ太陽系の支配者だからな』

『くっちゃべってないで、指示された目標をロックオンしろ!』

『ミサイル艦とレーザー艦の指定される目標は違うから、間違えるなよー』

『ああ!? 俺の新車に傷が! ……あのクソ野郎よくも! ぶっ殺してやる!』

『おい! 隊列を乱すな! 突出するな! 集中砲火を浴びるぞ!』

『ちょっとー! シールド転送距離の限界超えてるって! 回復できない! 戻れ!』

『バックしろ! 馬鹿野郎!』

『戻れー!』

『ぐあああああああ』


 地球人が操る遠隔操作の戦艦が一隻、宇宙人類の艦隊から集中砲火を浴びて爆発四散した。

 フルダイブ型VR機器に繋がれていたパイロットは、眩い光に包まれたのち、自室のベッドの上で目を覚ました。

 VRヘッドセットを外し、がっくりとうなだれた彼のスマホが震える。そこには戦績の発表や隊列を乱したペナルティなどが加味され、撃沈によりパイロットランクが降格処分される旨が記載されていた。彼は金ランクから1ランクダウンし、銀ランクとなった。そして巡洋艦の船を与えられ、しぶしぶながらもう一度VRヘッドセットを被りなおし、再び戦場へと舞い戻る。


『俺の戦艦が……せっかく金ランクになったのに!』

『巡洋艦と戦艦じゃ機動性が全然違うんだから、同じ感覚で動かしたって弾避けれないのは当たり前だろう。隊列を乱すなよ』

『いい爆沈だったぜ。リサイクルドローン達が、君の破片をめっちゃ頑張って集めてるぞ』

『まぁまぁ、敵を20隻くらい落とせばまた金ランクに上がれるんだから頑張れ』


 戦艦及び巡洋戦艦を主戦力とする部隊は、宇宙人類及び機械生命体の艦隊に対し、シャビードローンの艦隊と協力しつつ、全体的に圧力をかけるような戦法を取った。というのも、そもそも旗艦級の船や戦艦は大型であるため、圧倒的な火力や防御力と引き換えに速力や機動力は劣る。そうなると、旗艦級や戦艦部隊の運用としては背後に回復専門のロジスティクス艦を控えさせ、敵の矢面に立ち、ずっしりと構えて攻撃を繰り返すような形になる。

 対して、巡洋戦艦よりも小さい巡洋艦や、それよりもさらに小さい駆逐艦やフリゲート艦となると、集団で動くというよりは各個人でやりたいように動くような戦法が多くなる。組織立った動きではないし初心者が操る船も多いので、かなりの数が無駄に撃墜されてしまうのだが、これが想像以上に宇宙人類や機械生命体に対してストレスを加えていた。

 なぜならば、組織立った動きというのはセオリーというものがあり、ある程度の経験を積んだ軍人であるならば次の行動が予測できる。であるからして、予想に対処するような形で事前に艦隊を動かすことができるのだが、完全な個人運用の戦闘艦が多数いる場合、その予想が全く当てにならない事が多い。さらに初心者や宇宙船の操船が苦手な者は、はなから格闘戦やまともに正面から戦うつもりが無い。

 そういった者達が使う戦法というのが、艦内に大量の爆薬を積み込み、超高速で敵の戦艦目掛けて体当たりを敢行する、通称、神風ラムアタックだった。


『ジャイアントキリーング!!』


 そんな掛け声とともに、一隻のフリゲート艦が宇宙人類側の空母の艦載機出射口に突っ込んでいった。次の瞬間、空母の中央付近が膨れ上がり、艦内の動力源も巻き込んで大爆発を引き起こす。その爆発は空母の周囲を固めていた護衛艦もろとも吹き飛ばした。


『はっはー! 汚い花火だぜ!』

『すげー。フリゲート一隻で空母1、巡洋艦3、駆逐艦6、フリゲート10撃沈か』

『空母の中の艦載機をいれたら数百は倒しただろ』

『もう旗艦級貰えるポイントは溜まってるんじゃない?』

『いやいや。その前にかなり落とされてるからランクは下がってる。トントンだろ』

『あの御仁はバギーにC4張りつけて敵戦車に突撃するのが趣味の人だから、戦艦とか興味ないだろ。機動力悪いし』

『分からんぞ。戦艦に爆薬積んで敵の旗艦級に突っ込んでいくかもしれん』

『フリゲートの積載許容量ギリギリまで爆薬詰めて、装甲にも爆弾引っ付けて突っ込む人だからな』

『あのハリネズミみたいな近接防御網を抜けて突撃とか狂ってるわ』

『かれこれ30回以上失敗してるし。いい加減相手側も疲れが出てるんだろ。つまりだ』

『今が防空網を破るチャンスってわけだ』

『混乱してるだろうしな! 万歳アタックじゃぁぁ!』


 数十機の爆薬満載フリゲートが近接防御の弾幕を切り抜け、次々と敵の戦艦や空母に突撃していく。大半は船にたどり着く前に爆散するのだが、それでも数隻は敵の船にたどり着き、その船体に巨大な風穴をぶち開けた。


『フリゲートで戦艦が食えるんだから、戦艦なんかで戦う意味ねーな』

『地球人全員でフリゲートに乗って神風ラムアタックしたら勝てるんじゃね?』

『さすがに旗艦級はデカ過ぎて効果無さそうだけどな。アイツらシールドが強すぎてフリゲート艦じゃシールド突破できないだろ』

『旗艦級は旗艦級同士でガチンコバトルしてもらって、俺らはジャイアントキリングして楽しもうぜ』

『いやー。決まるとスッキリして気持ちいいぃぃ』

『ねぇねぇ。フリゲートに爆散されてどんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?』

『あっちの船は人が操ってるんでしょ? 流石にちょっと可哀想』

『悲しいかな。これ、戦争なのよね』

『そうだぞ。もし俺らが負けたら、シャビド氏が死刑囚を使って見せてくれたような恐ろしい未来が待ってるんだからな』

『お〇んぽミルクサーバーにはちょっとなってみたいと思いましたまる』

『なお、ご主人様は豚面オーク♂です。ケツ穴拡張オプション付き』

『艦内受付のシャビドちゃんみたいな可愛い子に、ヒール履いた足で踏み踏みされたい』

『あ。そういえば、シャビドちゃんを妻に迎えたいという要求も通るらしいぞ。銀ランクで』

『なんだとぉ! それはヤル気出て来たぁぁl!!』

『うるせぇ変態共! さっさと爆弾抱えて突っ込め!』


 和気藹々(?)とした通信を行いながら、奇抜な戦闘行動をする地球人類達に、宇宙人類側は大変苦しい戦いを強いられるのだった。

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