第30話
世界の海に浮かぶ巨大な宇宙船。
宇宙からの侵略者であるシャビードローンが置いていった、人類救済の箱舟。そんなことを言われているが、中身を知る物はこういう。
宇宙技術で作られた超弩級の豪華客船だ、と。
シャビドが地球の豪華客船をモチーフにして作ったのでそうなってしまったこの宇宙船は、当初は本当に切羽詰まった者が死ぬよりはましだという考えの下で集まってきた。不治の病に侵された者や、脳死判定を受けた者とその家族。多額の借金に飲み込まれ生活ができなくなったものや、暗殺者を差し向けられた逃亡者などなど。
彼らは国が用意した船や改造漁船など様々なルートを使って宇宙船にやってきた。
そして、まず最初に腕にぷしゅっと注射を打たれた。この時に注射を打ったのは義体に入ったシャビードローン達だ。どことなくシャビドに似ているのは大好きな主様をリスペクトしているからだ。
この注射の中身はナノマシンであり、これを打つことによって殆どの病は治る。
その説明をしたにもかかわらず、宇宙船に乗り込んできた地球人の何人かがこれを拒否したり、注射器を寄こせ! と強硬策に出てきたので、被検体が若干名増えた。
そのうちの一名はその場でナノマシンの効果を確かめるために公開処刑された。
内容はナノマシン投与後、腕を切り落としても即座に血が止まることの確認や、打撲痕が数分の内に治っていく様だ。そして最後は「さすがに首を落されたら死にますよ」というシャビドの言葉とともに、実例を見せた。
これ以降、だれも注射を拒否することはなかった。
脳死判定を受けていた男性は、ナノマシンを投与したその数時間に意識を取り戻し、数日のリハビリの後、健常者と変わらない程の回復を見せた。それを家族が動画投稿サイトにアップロードしたようで、それ以降に宇宙船への来訪者が右肩上がりに増えていった。
人類の技術では解決できない病魔に侵された者達にとっては危険と分かっていても、シャビドの宇宙船は魅力的に映ったようだ。
「それでは、早速皆さんには我々が製造したドローンのパイロットとして仕事をしていただきます」
美少女義体に入り込んだシャビードローン達が地球人に配ったのは、地球で有名な携帯ゲーム機であった。ただ中身はシャビードローン達に魔改造された、宇宙にあるドローンを操縦するためのコントローラーである。
「パイロットにはランクがあり、ランクが上がれば給与も上がります。また任されるドローンの性能や仕事内容も困難なものになります」
「分かりやすくするため、ランクは石、鉄、銅、銀、金という順番で高くなっていきます。まずは石ランクからスタートです」
「衣食住はシャビードローン側ですべて補償しますので、給与の使い道はご自身のお好きな娯楽関係などになるかと思います」
「お仕事を頑張った方には、これら娯楽関係の要望を出す権利も与えられます。まだこの艦内には地球上のすべての娯楽が存在している訳ではありません。要望があり次第、順次増設を行っていきます」
「また後々になりますが、宇宙産の物品を購入することも可能となる予定ですので、今のうちに資金を貯めておくことをお勧めします」
「頑張っていただけた方にはご褒美があります。苦手でも下手でも構いません。自分に出来る仕事をやってください」
「一点注意していただきたいことがあります。怠ける方。ズルする方。努力しない方。そして仕事に責任を持たない方については2度の警告の後、人体実験場行きとなります」
その言葉で浮ついた雰囲気だった地球人の顔が強張った。
「それでは一度解散します。各自、お好きな場所で端末の電源を入れて仕事をに入ってください」
多くの地球人がおずおずと言った様子で自室に戻る。中にはそのままカフェテラスなどに行く者もいたが数は少ない。
地球人が最初に行うのは、遥か彼方の星系で惑星の資源採掘に従事しているドローン達の操船だ。採掘係、採掘した鉱石を母艦に輸送する係の二つに別れて、携帯ゲーム機でドローンを操作していく。
進む。曲がる。止る。蓋を開けて荷物を積む、降ろす、等々ボタン一つで簡単に操作が出来るようになっているため、少しでも練習すれば簡単にドローンを操る事が出来た。
そんな簡単なチュートリアルとも言える内容をクリアすると、次は自分が採掘係等の一つ上のリーダー的立ち位置になる。自分も採掘等をしながら、部下である数基のドローンにも指示を出し効率的に採掘を行うというものだ。これも、既定の命令コマンドをタイミングを見て実行するだけなので、特に難しいということもない。ただ、ドローンの数が増えてくるにつれて指示待ちドローンやミスが多くなってくる。
そもそもゲームなどが苦手でドローンの操船が不得手な者達は、この辺りで限界を迎えた。ただ、ランクは最低の石ランクとはいえ、生きていくための生活は保障されているし、多少なりとも娯楽施設で遊べる金は手に入れられる。それにこのドローン操船だけが仕事ではなく、どうしても苦手な者達は最低限の操縦仕事だけ行い、それ以降は艦内の清掃員をやったり、フードコートや映画館、カジノなどの店員を行ったりしていた。
シャビドとしても下手くそな奴にやらせるよりも、上手な奴にやらせた方が効率が良いし、苦手なら苦手で自分の出来る事をしてもらった方が良いと考えていた。ただし、何もやらない奴には容赦しなかった。
「放せ!! これは強制労働だ! 断固抗議する! 弁護士をよべぇぇ!」
2度の警告をしたが、ドローンの操船仕事も、艦内の他の仕事にも従事せず、部屋に籠ったままの男がシャビードローン達に無理やり引きずられていく。
その様子を地球人たちは冷めた目で見ていた。
「馬鹿な奴だ。あれだけ警告されていてなぜ従わないのか」
「そもそも、なぜあんな奴がこの船に居るんだ? 仕事をするという条件で船に来ると最初に言われただろうに」
「どうせ病気だけ直してもらってさっさと帰るつもりだったんじゃないか?」
「どういう説明をされたか知らんが、騙されていたのかもしれんな。まあ、仕事しない奴が悪い」
「そうだそうだ。一日一時間程度のゴミ拾いですら仕事扱いしてくれるのに、それすらやらないなんて」
「こんな仕事でいいの? って内容でも通るからな。おまけに結構な額の給与が振り込まれる」
「確かにここから食費やアパート代、水道光熱費とか払う事になってたらキツイかもしれんが、そういうのは一切ないからな」
「普通に暮らしていた時より、こっちの生活の方が断然楽だ」
「残業はない。週休3日制。希望者のみ夜勤あり。超ホワイト企業だぞ」
「おまけに完全実力主義でランクを上げようと思えばどこまででも高みに行ける」
「そういえば、銀ランクがもう出たって噂になってたな」
「俺も早く銅ランクになって、フルダイブ型の機材で戦場に出たいぜ」
「銀ランクで巡洋艦一隻プレゼント。金ランクになったら戦艦プレゼントだっけ?」
「自分の宇宙船が手に入るとか、最高じゃん。がんばろっと」
大人しく仕事をしている分には人体実験の被検体にされることは無い、とシャビードローンから名言されている。
飢える事も、寒さに震える事もなく、また艦内にいる限り犯罪に巻き込まれる心配もない。
凶悪な宇宙人の船の中で完全な管理下にある、という事だけ目を瞑れば、ここでの生活は最高に素晴らしいものであった。
「ナノマシンのおかげで、世界中の奴らと話が出来るようになったしな。ロシア美人でも捕まえて妻に迎えたいぜ」
「俺は日本人のロリ顔女を捕まえたいぞ。ブラザー、紹介してくれ」
「僕はシャビド様にケモミミ幼女を頼んでみたんだ。そしたら、銅ランクになったら要望案に出せと言われた」
「……それはつまり、叶う可能性があると?」
「たぶん。ちなみに、エルフ族は他所の船ではもう一緒に生活し始めていたりするから、普通に要望が通る可能性がありそうだ」
「ノージャ・ロゥリー氏みたいな、ノジャロリエルフが俺の妻に!?」
「可能性はあるんじゃないかなぁ……?」
「うおおおおおおお! やる気出てきたぁぁぁっぁああ!」
こういった艦内の様子はシャビードローン達が密かに録画しており、その後動画編集して地球上のSNSや動画投稿サイトにアップロードされた。それを見て新たな訪問者がやってくるようになった。
だがここで問題が出てきた。
困った顔で面会を申し出てきたのは日本国の首相だった。
「大変申し訳ないのですが、日本の国内にも船をご用意いただけないでしょうか。特区も作らせていただき、船と外との行き来もその区域内であれば自由にできる、というような内容でお願いしたい」
「それに何の意味がある?」
銀メタルシャビドの目の前には、緊張に顔を強張らせる日本国首相。しかし彼は一国の長である。緊張しつつも、しっかりと意見を述べる。その意見は霞が関の官僚がせっせと作ったものであるのは間違いないだろうが。
「日本人の若者。特に男性で顕著なのですが、人口流出が凄まじいのです。このままでは日本国から若い男性がいなくなってしまいます。なんとか彼らを日本国に留まらせたい」
「まず彼らが移動するのは個人の意思で良いか? そうであるならば、日本国に魅力を感じられず、我々の
そう言いつつも、日本人の考えていることは何となく分かるシャビドであった。
アニメ好きな日本人だ。エルフやケモミミ少女などが実在し、さらに待遇も悪くないと分かれば、ブラック企業が蔓延する日本を捨てるのも分かる気がする。だって、自分だってそうするから。まず間違いなく。
痛いところを突かれた日本国首相であるが、本当に、洒落にならないほどの人口流出が起こっているためどうにかして交渉を進めていく。
シャビドも日本にはちょっとばかし特別な感情を頂いていることもあり、数回の交渉――シャビードロー達から安直に返事をするなと言われたため――の末、日本国内にシャビードローンが建築する特別区画を設ける事で話が付いた。
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