第10話

 ブランクブレインとローグドローン。そして途中参戦したシャビードローンの戦いは壮絶な結末を迎えた。これは国家間の戦闘行為を除けば、最大規模のものであり、かつ被害額も歴史的にみても過去最高額を記録するものであった。艦船保険を主として扱う大手保険会社が数社、倒産に追い込まれるほどの補償額を請求された、といえばいかほどのものか伝わるだろうか。帝国経済にも少なからず影響があり、連日株価がストップ安を記録するほどの出来事であった。


 戦闘終了後、しばらくの間はテレビのニュース番組はこの戦闘に関する話で盛り上がり、またブランクブレイン達は壮絶な旗艦級同士の戦闘とその結末に胸を高鳴らせた。

 たとえ死んだとしても、新たな電脳を乗せた義体で生まれ変われるブランクブレインと違い、戦場にいた報道機関及び諜報活動中の軍の艦船などは、戦闘最後の爆発で巻き込まれ行方不明及びKIA《戦死》判定を下されている。

 

 機械生命体及び機械知性体と友好関係を結んでいる帝国は、その国内に多くのブランクブレイン達を有している。

 ゲーム的な事をいってしまえば、最初のリスポーン地点が帝国内なので、必然的に帝国内で活動するプレイヤーが多いだけであるが、政治的な側面から見ると、一人で戦艦以上の艦船を操れる強大な戦力が国内に多数存在しているとも言える。

 空母から発艦する艦載機を除けば、フリゲート艦以上の船は殆どが複数人で操船することが普通である。戦艦ともなれば少なくても数百人は乗務員が必要となる。

 しかし、ブランクブレイン達は「ちょっと隣のコロニーに行ってくる」と戦艦で出かけるような連中がゴロゴロいる。単独で巨大な戦艦をいともたやすく操ることと、意思決定権が個々に存在するためにその行動力がとてつもなく速い事などから、帝国は有事の際にはブランクブレインに多額の報酬を対価に、戦場へ出てもらうよう傭兵組合を通じて依頼が出されることが常であった。

 さて、此度のローグドローン、シャビードローン、そしてブランクブレインとの戦闘でブランクブレイン側の保有戦力は相当なダメージを負った。大手保険会社が倒産する程の被害額だ。旗艦級が二隻、ほぼ全損判定を受け、多数の特型サポート艦が粉微塵に消し飛ぶ。さらに近くに居た小型艦は跡形も残らず、それなりに離れたところにいた戦艦及び空母も撃沈若しくは全損判定。運の良かった艦艇が辛うじて中破といった有様だ。

 さらに悪い事に、今回の戦場には普段は戦場に出てこないようなブランクブレイン達も多く集まっており、それが被害額の増加に拍車をかけた。というのも、普段戦場に出てこないブランクブレインの乗る船というのは、撃沈されることを想定していないため、例えば内装が非常に豪華に改造されていたり、無駄に高額なパーツを贅沢に使用したり、中には電脳に高価なインプラントを追加で刺し、演算処理を上げている者達も多くいた。例えばフリゲート艦の癖に、新造空母が買えるくらい高額だったり、インプラント一つで空母が買えたりするレベル、と言えばその額の大きさに驚くだろう。

 そんな超高額な船がぼんぼん落ちたのだから、保険会社にはご愁傷様としか言いようがない。

 そんなこともあり、今現在、多くのブランクブレイン達は船無し状態であり、コロニーでうろうろしたり、そもそもゲームにログインしてこなかったりと、全く戦力にならない状況にあった。

 これをチャンスとばかりに、帝国と長年争っている隣国が国境に戦力を集め始めた。

 当然、帝国も国境に戦力を集めるのだが、頼みの綱にしていたブランクブレイン側はこの依頼に答える事が出来ない。船が無いのだから戦い様が無いわけだ。

 そして、国境沿いの緊張感は日に日に高まり、隣国がブランクブレインが戦力として投入される予定はかなり先になる、という情報を得ると同時に、宣戦布告が行われた。


 この三者の戦闘行為が原因となり、帝国の束の間の平和は終わり、再び国家間戦争が始まったのだった。

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