第4話
ゲームである『とにかくおおきい大銀河』の世界観は仮想の宇宙が舞台だと思っていた。だが、輸送船から得たデータを調べてみると、何となくこの銀河は地球がある銀河をモデルにしているようで、なんなら殆どが一致してくるのではないかと思えてきた。
私にはそこまで宇宙に関する知識があるわけではないが、輸送艦がこの世界のインターネットのようなものに繋がっていたため、そこから多数の情報を仕入れることが出来たのだ。
こちらのインターネット上では”地球”という名称では呼ばれていなかったが、生存可能な居住惑星で、原住民が存在し、技術的にはまだ宇宙に辛うじて進出している程度とのことだ。私の居る宙域からだと銀河の正反対の場所に位置している。移動しようと思ったら、ワープとかない限り不可能だと思える距離だ。
この世界にはワープ航法もあるし、ワープよりもさらに遠くに移動するジャンプゲートなるものがあるらしい。私たちのいる宙域から地球まで、ジャンプゲートを使うと数カ月でたどり着ける程度の距離だと言う。
私は自分が知りたいことを知った後は、インターネットの使用権をポンちゃんたちに任せた。正直、このインターネットにつながったことで、シェビードローンは劇的な進化を遂げるだろうと予想できた。
今まではとにかく情報がなく、シェビードローン達は自らを発展させていくことが出来なかったのだ。情報が湯水のように溢れているインターネットに接続したことで、ブレイクスルーが行われた。
今までシェビードローンが弱小種族だったのは、そもそも船を拿捕するような事も出来ない程弱かったことと、インターネットという存在自体を知らなかったこと。そして知ったとしてもその使い方が分からないからだろう。元々、シェビードローン達が何をしていたのかというと、採掘して溶かして船を大きくする以外には自衛しかしていないということなので、そもそも何のために存在していた種族なのかも不明だ。
どちらにせよ、シェビードローンは劇的な進化を遂げることは間違いない。
ポンちゃんが送り出したアンテナドローンが多くのシェビードローンを呼び寄せて、そいつらがみんな私に合流したことで、出来る事はかなり増えた。
『あるじ様。このセックスというのはどういう意味でしょうか』
『あるじ様。ぬるぽというのはどういう意味でしょうか』
『あるじ様。ワープ航法に置けるアラインと速度との関係について』
『あるじ様。ゲロビとはゲロゲロビームの略で』
『あるじ様。きのことたけのこではどっちがおいし』
『あるじ様……』
………
……
…
その代わりにやかましさも倍増した。ポンコツNPCが増えたからだ。
なんで? なんで? どうして? どうして?
なんでもかんでも聞いてくる子供を相手にしているようで正直なところ疲れる。
しかし、彼らが増えた事で利点も多くあった。まず工場が劇的に拡大した。
シェビードローンの特性として、彼らは自身の船内に一基の炉を持っている。この炉はシェビードローンの心臓とも言えて、こいつはどんなものも溶かすことが出来る不思議な炉であった。私はこれをマジカル炉と呼んでいる。
なぜマジカルなのか。それはこのマジカル炉は鉱石やスクラップをぶち込んで作りたい金属を願うと、投入したモノによっては願いを叶えてくれる不思議な炉だからだ。例えば鉄をぶち込んで金が欲しいと願ってもダメだが、色々な金属や素材をごっちゃに入れ込んで、めっちゃ固くて軽い合金が欲しいと願ってみると、それっぽい金属を生産してくれる。マジカル炉すごい。
このマジカル炉が10機ほどになった事と、インターネットから様々な兵器の情報を得られた事で、シェビードローンの戦力は倍どころか、数百倍くらい跳ね上がった。
そもそも岩石を溶かすことしか能が無かった種族が、製造工場の工場見学動画を見る事によって、それを真似して工場を作り始めたのだから驚きだ。
岩石の塊を相手にぶつける攻撃手段しか無かった原始人が、いきなりレーザー兵器を手に入れたくらいの勢いで進化を始めている。まだまだ製造される兵器は不良品ばかりだが、トライアンドエラーを繰り返し徐々に改善されていくだろう。
さらに、戦力として多数のドローンが作れるようになった。
情報収集ドローンや妨害用のドローンは今後の戦いに大いに役立つだろう。
そして最も戦力の拡大に寄与したのは、インターネット上に設計図が無料公開されていたロマン兵器の一つだ。
どこかの有志が自作したらしいこのレーザー兵器は、あまりにも電力を喰い過ぎる為に役立たずの烙印を押されていた。
ただ電力のほとんどを炉と推進機くらいにしか使っていないシェビードローンの船は電力に関しては有り余っている。電力の大食いというのはシェビードローン達にとっては欠点にならなかった。
そのため私の船にはこの電力馬鹿喰いのロマン兵器が設置されることになった。今も船の工場でせっせと増産がされている。
さて。では10隻のシェビードローンが合流した事で、私の船の現在の姿を何となく説明してみよう。正直、言葉で上手く説明できる気がしない。
まず、全体像を一言で言うなら、とっても大きなキノコだ。
正面には丸みを帯びた30層からなる装甲がある。これがキノコの傘の部分。芯の部分はというと、10隻のシェビードローン達が束ねられたような形でくっ付いている。その全体を包むように、現在外殻がせっせと建造中だ。
この外殻は可動式になっており、外殻が動いて中から太陽光パネルがにょきにょきと生えてくるような形になる。太陽光パネルがすべて展開すると、キノコの頭側に装甲の傘。お尻側に太陽光パネルの傘が出来上がる様な形だ。
レーザー兵器は正面装甲の傘の一番縁に等間隔に設置されている。ここで使用される電力はお尻の傘の太陽光パネルで発電される。
この船の戦い方は、常に恒星を自分の尻を向け、お尻で発電し、頭でレーザーを撃つというものだ。
この戦い方が出来ない場合でも、太陽光パネルを正面の装甲傘よりも広く展開すればいいだけだ。もちろんその場合、太陽光パネルに被弾することもあるが、被弾した端からせっせと直せるだけの修理ドローンは用意できている。
この船は拠点防衛用であるため、こいつで輸送艦を拿捕しにいくことはまずないだろう。そういうコンセプトで作っていない。そもそも、あまりにも巨大になり過ぎて、いくら船内設備があまりなく、大きさに対して比較的軽いとは言え動きが鈍重すぎる。また内部に生産工場を多数設けたことに寄り、あまり激しく動かすと生産ラインに影響が出てしまう。そのため、この母船は小惑星帯などの採掘ポイントに常駐し、辺りの小惑星を軒並み喰らいつくすことが仕事になる。
ならば情報収集用や戦闘用の船はどうするかというと、それ用の大型ドローンを作った。
人が居住することを全く考えなくて良いため、とにもかくにも頑丈で足が速い、ラムアタック専用ドローンを多数用意した。
こいつらには武装はなく、見つけた得物に体当たりして壊すことが主目的だ。もちろん、相手の機動力が高かったり、小さい目標に関しては全く意味を成さない為、輸送艦や大型採掘艦などに対して使用する。
もし護衛の艦載機などが居た場合は、攻撃ドローンの改良型を多数用意しているので、そちらで対応する予定だ。また妨害用ドローンも同時展開出来る為、戦略の幅は大きく広がる。
『となると、ドローンの母船が必要になるんだけど、これもドローンで作っちゃえばいいよね。ベースの輸送船はあるし』
『TP50輸送艦をベースにドローン母艦の建造ですね』
『それと推進力全振りの曳航用の船も欲しいな。あとはどこかで採掘艦を拿捕して分析して採掘ドローンの性能アップもしていきたい』
『同族を呼び寄せるために、アンテナドローンも増産しましょう』
『……これ以上やかましくなるのはちょっと』
『我々はここにシェビードローン王国を作り上げるのです!』
『ポンちゃん、インターネットで変な映画見たでしょ?』
今や百機以上に増えた採掘ドローンが、巨大な岩石に取り付き、無数のオレンジのレーザーで鉱石を採掘していく。その隣に駐機した巨大なキノコ型の母船は、体内に取り込んだ鉱石を瞬く間に赤熱したドロドロの液体へ溶かしていく。それらは順次、組み立て工場に運ばれて船やドローンの形に整えられて行く。
『ネックは中身というか、精密部品だなぁ。まだ粗が多い』
『半導体関係を製造する為に、その部品を作る化学工場を作る必要がありますね』
『その化学工場を作るための部品を作る工場も必要だよ』
『ポンちゃんの仲間が集まってこれば、そのあたりも追々出来ていくでしょ』
『もっと情報が欲しいですね。ネットではなく、生の情報が欲しいです』
シェビードローン達は自分達が今まで虐げられていた、という感覚は持っていない。だが初めて自分たちの力で輸送艦を拿捕し、大きな船を作り上げられる様になったということには喜んでいるようだった。
『それなら偵察ドローンを放って、まずは採掘艦を襲いに行こうか。輸送艦も並行して見つけに行こう』
『偵察ドローン展開します』
こちらも百機近い数になった偵察ドローンが宇宙のあちこちに飛び立っていった。ドローンとはいえ、偵察ドローンはシェビードローンの子どものような存在のため半分自立して動いている。通信限界というものはあるが、常にこちらで制御しているわけではない。通信圏外で得物を見つけたら、通信圏内まで戻ってきて報告をしてくれる。
『そのうち、中継用の通信ドローンも必要だな』
『今から作りましょう。ポン9にやらせます』
集まってきたシェビードローン達には、一番最初にいたポンちゃんの後からはポン2からポン10というように名前の後に番号を振ってある。名前という物に興味を示さなかったので、名づけは適当だ。ただ彼らには個性というものがないので、この名づけにあまり意味はない。私は名付けはしたものの、誰が誰か全くわかっていない。
こうしてしばらくは採掘業と製造業に勤しみ、船の整備に時間をかけていた。
数日後、ようやく偵察ドローンから知らせが入った。
採掘艦隊がいるらしく、大型の採掘母艦もいるとのことだ。また良質な鉱石が多数あるという報告もあった。
『複数相手に勝てるか? まだ複数相手は難しいかもしれないぞ』
『良質な採掘場所であるならば、母船で向かえばよろしいのではないですか? そこを新たな拠点にしてしまいましょう』
『防衛艦隊は……まぁ、ある程度出来てるし、場所的に恒星の近くで、発電量も賄えそうだな……よし行ってみよう』
例え負けても、それはそれで現実世界に戻れる可能性がある。
まだ日本の自宅に戻れる希望を捨てきれずにいる私は、いけそうなら行く、というスタンスで出航の準備のため、採掘ドローンを母艦に呼び戻すのだった。
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