第3話


『よし。輸送船を襲おう』


 この結論に至るまでのあらすじをざっと説明しよう。

 船の改造をしている内に運営が気付くだろうと考えていた。しかし、どれだけ待っても運営が気付くことは無く、状況は改善しない。

 オカルト話であったゲーム内に閉じ込められる、というのをリアルで体験し、一時的に恐慌状態に陥る。

 しばらく気を失った後、ポンコツAIと会話をし、この世界の状況を辛うじて把握。

 何をするにしても情報が足りない。

 情報を得るためにはどうしたらよいのか。

 自分以外の誰かから得るしかない。しかし自分は人類種とは敵対している種族。

 であるならば、他の船から奪うしかない。

 よし。もしこれがゲームなら、死んだらゲームオーバー。流石に現実世界に戻るだろう。ならばさっさと襲撃作戦を実行しよう。失敗したらその時だ。


『ポンちゃん。近くに輸送船が通る様な輸送ルートある?』

『あまり頻度は多くありませんがあります。ただ、襲撃が成功する確率は低いと思います』

『大丈夫だ。拿捕じゃなくて、ぶっ壊せば良いんだから、そんなに難しくないはず』


 船体改造を施し、また垂れ流しだったドロドロは型枠に入れて固めて外殻に使ったりと時間はかなり経過している。自分が一時的に恐慌状態に陥り、暫く意識を失っていた時間も入れたら、一月以上経過していた。それでも運営が気付かないという時点でおかしいし、ゲームならば機器が強制的にログアウトを実施する安全基準を超えている。さらに言えば、流石に一カ月も音信不通ならば会社から警察に連絡が行き、私の部屋には誰かが入ってきて見つけてくれているだろう。それでもこの状態が改善しないというのは、もうオカルトの領域に入っているとしか思えない。


『もしくは、脳内時間が加速しまくってる……とかかな。ありえないと思うけれど』


 VRゲームの中にはそういう機能を有し、特に格闘系のゲームで一瞬だけ思考を加速させるようなものがあったと思う。だが、それもほんの一瞬のこと。このような長時間、時間が加速するようなことはありえない。


『まぁ、どうでもいい。死んだら分かる。うまく輸送船からこの世界のデータがひっこ抜けたなら、それでも色々分かる』


 一カ月という時間をかけて、船体は大きく変貌していた。

 多数の型枠で作った外殻は二回り以上も大きくなり、特に正面は砲弾のような球形を帯びた曲面の装甲を有している。また、船体の至る所に推進機を取りつけ、鈍重な船体をそれなりの速度で飛ばせるようにした。

 見た目はめちゃくちゃ大きくて、重そうなのだが、船内に居住区角などはなく、大きな炉が二つとそこから伸びる工場のライン。そしてドローンの格納庫くらいしかないため、意外と重量は軽い。そのため、見た目以上に機敏な動きが出来た。

 

『作戦は真正面からぶつかる。ぶつけたら攻撃ドローンと採掘ドローンを展開して、輸送船を切り分ける。うまく拿捕が出来れば、この小惑星帯まで持ってきて、改造する。いいね、ポンちゃん』

『ポンちゃんは了解をしました』


 ポンコツAI。通称ぽんちゃんが返事を返す。

 私は自分の船を動かし、輸送船を探し出した。索敵はポンちゃんが持っていた収集ドローンを展開し、そのお尻のパラボラアンテナで行う。

 この大きな宇宙で早々に見つかるとは思えないが、輸送船の航路は安全度などによってある程度決まりがあるらしく、この辺りは自分達、弱小ヨワヨワシャビードローンしかいないため、非常に安全な地域であるらしい。

 であれば、襲撃は必ず成功させ、しばらくは安全宙域だと誤認させておきたい。理由はなるべく多くの情報を得るためにも、数多くの船を襲撃しておきたいからだ。

 無防備にフワフワ航行している船が多いに越したことは無い。


『見つけました。一隻です。護衛無し。武装アリ』

『多少の武装なら、正面装甲で弾けるだろう。なんたって、ありったけの外殻を5重に張ってあるんだからな』


 船の方向を輸送船の行く先に向け、一気に加速を開始する。

 グングンと輸送船との距離が近づくと、何やら頭にピリピリとした感覚があった。


『こちらスマートデリバリー所属、TP50輸送艦。貴艦の所属を言え。これ以上近づけば、警告射撃を行う』


 なるほど。相手の通信か。何故かちゃんと言葉が通じるが、相手と話すことは無い。そのまま加速を続ける。


《……おい! あれ、普通の船じゃねーぞ!》

《なんだあの歪な……ローグドローンか!?》

《ローグはこの辺りにはいないはずだ! シャビードローンだろう》

《それなら雑魚だから、輸送艦の武装でも十分倒せる!! オールウェポンズフリー!!》


 先ほどの通信とは別系統の声が聞こえてきた。これはどうやら相手の船の中での会話のようだ。なぜこんなものが聞こえるのかは分からないが、おそらく収集ドローンのアンテナのおかげだろう。そう思っておこう。

 

 輸送艦から白煙が立ち上り、ミサイルが放たれた。それと同時に赤色のレーザーが等間隔で出射され、正面装甲にぶつかる。


《やはりシャビードローンだ! シールドすら張ってない! 雑魚だ!》

《ミサイルは使うな勿体ない! レーザーで焼き殺せ!》


 最初の数発のミサイルが、正面装甲にぶつかり爆発を起こす。だが、一層目の装甲がはがれた程度で、二層目には達していない。

 正面の装甲は、装甲同士をくっつけず、間に緩衝帯を設けている。


 装甲、すきま、装甲、すきま、装甲、すきま、装甲、すきま、装甲、本体。

 

 こんな感じになっているので、そう簡単に船本体まで攻撃が届くことはない。もちろん、正面以外にミサイルを打ち込まれたら、間違いなくバラバラになるだろう。

 輸送艦からのレーザー攻撃は全く効果がなく、グングン近づいてくる私たちの船に輸送艦が慌てだした。


《おい! 全然効いてないぞ!》

《ミサイル撃て! 撃て!》

《緊急回避! 積み荷が崩れるのは仕方ねぇ!》


 輸送艦が大きく旋回を始めた。だが、お腹にいっぱい荷物を抱えた輸送艦よりも、こちらの船の方が機動性は高い。

 多数のミサイルが正面装甲を崩していくが、まだまだ耐えられそうだ。


《ああああ! ぶつかる!》

《ママぁぁぁ!!!!》


 そして、私の船と輸送船がぶつかった。


『ぐぇっ!? っぅいたたた。意外と衝撃が来たな』

『あちらの方が重い船ですからね。ドローン展開します』

『よしよし。相手の武装と推進機を重点的に攻撃。アンテナドローンは破損個所から電力ケーブルをこちらに繋いでくれ。相手の電気を奪って動けなくするぞ』


 無数のドローンが飛び出し、輸送艦にまとわりつく。そして船体についている武装を次々と無力化していった。なるべく大きく壊さないよう、ケーブル類を焼ききるように壊していく。


《ああああ。まだ生きてる!》

《思ったより相手の船が軽いな! まだ助かるぞ!》

《武装が全部死にました。推進機もダメです! あぁ!? 電力に異常発生》

《なんだこいつら! 本当にあのシャビードローンなのか》

《全員緊急脱出! 船を捨てろ! 電気まで落ちたら脱出も出来んぞ! 急げ!》


 攻撃ドローンは武装をすべて壊したら、アンカーを輸送船に取りつけ、そのワイヤーをこちらの船に取り付けていく。そして電力ケーブルも取りつけができ、相手の船の電力はすべてこちらの炉と推進機に回した。

 採掘ドローンが相手の武装と推進機を切り取りし、せっせと倉庫に運び込んでいく。そして倉庫内では収集ドローンが解析を始める。

 

『よしよし。上出来上出来。さて曳航して帰ろうか』

『やはりあなたに合流して正解でした。我々が数百年掛けても無しえなかった偉業をいとも簡単に』

『大げさすぎだろ』

『いえ。大げさではありません。我々はあなたに合流したいと考えます』

『まぁ、好きにしてくれ。俺もポンちゃん達が増えればそれだけ色々仕事を任せられるし、強くなれるだろう? それにこれでレーザー兵器とか推進機とか作れるものが増えてきたら、工場を大きくしていく必要もある。毎回母船が工場抱えて戦いに出るのは避けたい』

『いくつかのアンテナドローンを自立行動させ、仲間に知らせます』

『どうぞご自由に』


 輸送船から無数の脱出ポッドが宇宙空間へ飛び出していく。

 それらを一つ残らず、攻撃ドローンが壊していく。


『ごめんなー。まだ俺たちの事を他に知られるわけにはいかんのだ』


 こうして、シャビードローンとしての初戦闘は恙なく終了した。

 戦果は輸送船一隻とそのお腹の中に抱えていた多数の荷物だ。これは想像以上に、今後の自分達の活動に大きな影響を与えるのだった。

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