第5話
大型の採掘母艦が一隻。採掘艦が6隻。護衛の戦闘艦が3隻という構成の採掘艦隊はのんびりと採掘をしていた。
近隣のコロニーからはワープ航法を使って3週間ほどの距離。それなりに辺境であり人の手のあまり及んでいない地域だ。だからこそ良質な鉱石が算出できる岩石群が多数存在している。
この岩石から採れる鉱石はかなり希少で、首都惑星などではこの辺りの価格の30倍以上の値段がついている。もちろん、この辺境から首都惑星まで輸送する手間を考えたら、その価格にも頷けるというものだ。
そんな平和な採掘艦隊に悲劇が迫っていた。
『ラムアタックドローンは一隻に対して3隻。護衛艦には攻撃ドローンを向かわせて。採掘母艦は10隻で攻撃。そのすぐ後にドローン母艦を突撃させる。最後に私がいくよ』
『妨害ドローンは展開後、通信の封鎖を実施。また電子戦ドローンと電磁ドローンによる武装解除と電力消費も同時進行で行きます』
『出し惜しみは無し。今のシェビードローンが持つ全勢力でぶつかるよ』
おおー! と大きな掛け声が脳内で響く。
そして防御力と推力に全振りしたラムアタックドローンが一斉に飛び出していった。その後を追ってドローン母艦も飛び出し、私達も後を追って動き出す。
『採掘母艦には多分ワープ装置がついているはず。絶対に手に入れておきたいな』
『壊れてもある程度は再現できると思いますが、完成品が欲しいですね』
『不良品でワープして、惑星に激突して死ぬとかはちょっと悲しいからね』
複数の偵察ドローンを経由して現地の情報がリアルタイムで届く。採掘艦隊はこちらの動きに気付いた様子はなく、のんびりと採掘を実施している様子だ。
《おれさ、この仕事から帰ったらギルドの受付のナタリアちゃんに告白するつもりなんだ》
《はっ。てめーにナタリアちゃんが手に入るわけないだろうが》
《などと、泣き落しで今の嫁を手に入れた男が申しております》
《そういえば、お前の所、チビが生まれるんだってな?》
《たぶんもう生まれてます。帰ったら名前を付けなきゃいけないので、今考えてるところですよ》
《こんなしがない採掘屋にならないよう、良い名前をつけてやれよ》
《いやいや社長。採掘屋ってぼろ儲けじゃないですか。良い生活をさせてもらって感謝してますよ。俺たちコロニーで働いてる奴らの5倍以上給与貰ってますから》
《それだけ危険だってことだ。こんな辺境じゃ、何かあっても守衛隊は駆け付けてくれないからな》
《シャチョーさん。そのための我々傭兵ですヨー。任せてくださいナー。この辺りじゃ、シェビードローンくらいしか見かけませンテー。うちら3隻いれば、20隻以上の集団で来たって余裕でサー》
《そもそも、シェビードローンによる被害ってのも聞かないっすからね。あいつら雑魚すぎて初心者の射撃練習用の的扱いされてますから》
《ローグドローンやプラウラードローン共だとちょっとヤベー時もありますヤー。この辺りじゃ聞いたことがないんデー、安心してくださいヤー》
和気あいあいとした通信を聞きつつ、何となくの感覚でもうすぐ気が付かれるかなっと思い始める。だが、一向に護衛達はこちらに気が付いていないようだ。
《ん? なんかやたらと早い岩が……》
《流星群か? 数が多いな。ちょっとやべーぞ》
《全艦に告ぐ。複数の岩石が接近中。流星群と思われる。それぞれ回避行動をとるように》
《採掘中止! シールド出力を上げろ! 各員安全のため作業を中断し、体をシート等に固定するように!》
なんだかラムアタックドローンが岩と間違えられてるな。確かに、あいつらからは一切の電波などは発信していないし、本当に岩を溶かして作った固くて頑丈で重い金属の塊に推進機つけただけだからな。正面から見たら岩にしか見えんか。
採掘艦隊は流星群だと誤認したラムアタックドローンを避けようと進路を変えている。だが、それに追従するようにラムアタックドローンも当然ながら進路を変える。
……あー。もうこれは、ラムアタック艦隊だけで勝てるな。この距離なら絶対避けられんだろ。
《おい! こいつら進路を変えてくるぞ!》
《避けた方向に動いてくる!》
《こんなのミサイルじゃねーか! 避けられねえ!》
《緊急回避! 緊急回避! シールド出力マックスパワー!》
大慌ての採掘艦隊に、ラムアタック艦隊が突撃していった。
シールドを張っているとはいえ、質量と速度の相乗効果による体当たりは、容易くそのシールドを破り、船体に風穴を開けた。当たり所の悪かった採掘艦は突入したラムアタックドローンが反対から飛び出していき、双方ともに爆発四散した。
《なんだあいつら! 岩石に推進機がついてるぞ!》
《どこからの攻撃だ!》
《ダメコンいそげ! 隔壁閉じろ! この母艦が落ちたら、家まで帰れなくなるぞ! 救助要請!》
《ダメです! 通信が出来ません!》
《また来たぞ……おい! くそがまじかよ! ドローンだ! 敵性ドローンだ!!》
《数が多すぎる! なんだこ――》
《レーザー兵器!? パルスじゃないぞ! 当たるな! 溶けっあやぇびゅ――》
攻撃ドローンに積んだレーザー兵器の威力は大したことは無いが、数が揃うと恐ろしい威力を発揮する。一点集中で撃ち込まれると、あっというまに船体に穴が空き、船内は灼熱地獄に早変わりだ。そのままジリジリとレーザーを動かしてやれば、船体はあっという間に溶断される。
そして、大混乱の最中に真打登場。妨害ドローンのおかげで、こちらの母艦には全く気が付いていないようだった。
《なんだありゃぁぁぁ!!》
《旗艦級のドローン!? こんなの勝てるわけない!》
《もうダメだぁ! おしまいだぁ!》
展開した太陽光パネルが膨大な電力を発電し、レーザー兵器に給電する。
『発射! あ。採掘母艦は爆沈さないようにね。なるべく推進機だけ狙って』
私の無茶なお願いにもポンちゃん達は答えてくれた。
船体にラムアタックドローンをぶっ刺したまま、フラフラと逃げ惑う採掘艦の推進機を焼き、動きを止めたら曳航ドローンがアンカーを打ち込む。そして母艦にわっせわっせと運び込んだ。
長時間照射し続けられるゲロビームレーザー兵器は護衛艦たちのシールドをあっと言う間に飽和させ、船体を真っ二つに溶断していく。
《た、助けてくれ!》
《脱出だ! 船を捨てろ!》
行動不能に陥った採掘艦から脱出ポッドがバラバラと飛び出していく。それらを攻撃ドローンがせっせと壊して回る作業が暫く続いた。
私は動けなくなった採掘母艦に近づき、船体の大きな扉を開いて、船の格納庫に採掘母艦を丸ごと飲み込む。中に入ってきた採掘母艦には無数のアームが伸び船体の分解と解析が始まった。
『いやー。原型をとどめたまま拿捕できるなんて最高だよ。……おお。この採掘モジュールめっちゃいいね! 画期的だ! うちの採掘ドローンにも採用しよう』
『いいですねー。これがワープ装置ですか。完成品ですよ。無傷です。早速あるじ様に使っていただきましょう』
『まだ中に人間が残ってますけど、どうしますか?』
『飼える環境が整ってないから、そのまま外に放り出しなさい』
『はーい』
着の身着のままで宇宙空間に連れ出された多数の人間達がフワフワと宇宙遊泳をする。
真っ二つにされた護衛艦も採掘艦も全て母船に取り込まれ、シャビードローンの養分になっていった。
『大成功だ。しばらくはこの技術を使って、船のアップデートだな』
『ここの鉱石は良質なものばかりです。良いものが作れそうですね』
『ただなぁ……流石にこれだけの船が行方不明になると、何かしらの調査が行われるだろうな』
『人間たちの会話から、彼らはワープ航法でも3週間以上かかる距離から来ているようですので、時間的な猶予はまだあるかと思います』
『採掘艦で三週間だからな。偵察用の船だともっと早くワープするかもしれない。どちらにしろ、移動するか、この場で採掘場を防衛するか考えるか』
『最速で採掘レーザーなどをアップグレードすれば、採掘してから逃げても間に合うかと思います』
『ならそうしよう。せっかく見つけた良質な鉱石だ。捨てるには惜しい』
『曳航ドローンで岩ごと持っていきましょう。元々我々はこの岩を核にして船を作ったりしてましたから』
『その手があったか。ならこの辺りの岩石群はそのまま持ち帰ろう』
建造ドローンがある一定の大きさの岩石に推進機を取りつけ、岩を丸ごと移動させる。もちろん、それだけではなかなか動かないので、曳航ドローンを使って引っ張っていく。引っ張りながら採掘もしていき、設備のアップデートも同時進行で行う。
インターネットを見つけた時のような劇的な変化は無かったものの、シャビードローン達はワープ装置を手に入れたことに大層喜んだ。
『これで私たちは他のドローンたちと同じになりました』
『今までは馬鹿にされてばかりだったけれど、これで対等です』
やいのやいのと喜び合うポンちゃんたちに、私は「良かったね」と軽く返す。
『正直、ラムアタック艦隊が強すぎる。この感じなら数さえ揃えればコロニーとか、もっと大規模な艦隊でも倒せるんじゃないかな』
『数を揃えるには、もっと我々の仲間を増やす必要があります。今の数の倍までは我々だけで制御できますが、それ以上増えると動きが鈍ります。飛ばすだけなら10倍まで対応できますが』
『そっか。なら仲間を早く合流させよう。なんなら迎えに行ってもいい。それと通信の中継ドローンを多数作って、この辺りの宙域に監視網を作り上げよう』
『ワープ装置の複製もやりましょう。そして、見つけた端から拿捕しにいきましょう!』
『採掘母艦に化学製品の製造設備もあったし、これを大規模化すればかなり有用な部品も作れるようになるな』
『ガス惑星で化学製品の原料を採掘しましょう。ガス用採掘装置も製造可能になりました』
『いいね!』
シェビードローン達は忙しく、己の船の改造に務める。
人類が数百年をかけて発展してきた技術を、彼らは一足飛びに取得していった。
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