第34話
一人のドローンパイロットがカフェテラスでコーヒーを飲んでいる。彼の名前はヒイラギ。彼は腕時計を確認すると、携帯端末を使い会計を済ませ帰路についた。
2年ほど前に地球を征服した宇宙人。シャビードローン達と出会えた自分は幸運だったと、ヒイラギは今でも思う時がある。
今の自分は二年前、悪性新生物により余命1年無いと言われた。当時はすべてに絶望し、自殺まで考えていた。そんな折りに、シャビードローンという存在が地球を侵略してくれた。可愛らしい、吊り目がちの気の強そうな少女がテレビでふんぞり返って、地球を支配下に置いたぞ、と語る姿が今でも思い出される。
ヒイラギにはその少女であるシャビドが地球侵略者ではなく、救世主に見えた。
シャビードローンが持ち込んだ技術により、ヒイラギの病気は瞬く間に完治した。抗がん剤治療で抜けきった髪は元に戻り、病気になる前よりも健康な体を得た。そして、シャビードローンの支配下に置かれる代わりに、仕事として与えられるドローンのパイロットという業務も、ヒイラギの性分に合っていた。
自分の部屋に帰ってきたヒイラギは、トイレを済ませ部屋着に着替える。
元々与えられていた1LDKの部屋は、一人暮らしの男には少々広すぎるものであった。しかし、最近になって部屋に備え付けられた仕事用の装置が場所を取ってくれたおかげで、ようやく、ちょうどいい広さになったと思える。
部屋の中央に鎮座しているのは、ドローンパイロットのゴールドランクに与えられる、ドローンと生身の体をリンクさせる装置だ。
シルバーランク時代からの専属担当であるシャビードローンの少女に聞いたところによると、元々の技術は戦争の敵である機械知性体の技術だそうだ。それをシャビードローンが改良し、さらに使い勝手を良くしたものだという。
この機器を用いる事で、何百、何千、はたまた何万光年も離れたところにあるドローンをリアルタイムで操縦できる。そして、何よりこの装置を用いる事で、疑似的に自分自身がシャビードローンに成れるのだ。その感覚は言葉では中々伝えにくいのだが、並列思考が物凄く楽に行える。自分自身が複数に別れて、それぞれがそれぞれ、役割分担を与えて仕事に従事してくれる、といえば良いだろうか。例えるならば、主たる自分が部下である自分に指示を出し、ある者は随伴のドローンを操作し、ある者は本艦の操縦を担当し、ある者は火器管制を担当する、という感じだ。
携帯端末で仕事を開始する旨を打つと、装置から空気の抜ける音がする。装置の蓋がゆっくりと開き、ヒイラギはそこに体を横たえた。
最初はこの狭い装置の中に閉じ込められるような気がして、少しばかり不安だったが、今ではもう慣れた。
目を瞑り、装置の蓋が閉まる音を聞く。
『では、これより接続します』
「ああ。今日もよろしく頼むよ」
聞き馴染みのある女性、ヒイラギ専属シャビドの声が聞こえる。
程なくして、目を開いているにもかかわらず、光が失われた。
『はい。接続出来ました。ご健闘をお祈りいたします』
「ありがとう。じゃあ行ってくるよ。やることは昨日と変わらないよね?」
『その通りです。こちらは陽動ですので、派手に正面からドンパチお願いします』
会話をしていると、光が戻ってきた。
漆黒の暗闇に光り輝く星々の瞬きが眩しい宇宙空間が目の前に広がる。360度全方向の視界が確保され、無数の小型艦船が周囲に漂っていた。
自身の後方には自分よりもさらに巨大な超タイタン級と呼ばれる、全長が百kmを超える巨大な建造物が浮かんでいた。自分の船はその建造物にお尻を突き刺して係留されている。
「補給万全。機関良好。作戦内容承諾。ゴールドランク。ヒイラギ。艦名、ボクノハコブネ、出航します」
『出航申請を受諾しました。切り離しします……完了』
「切り離し確認。微速前進」
全身が微振動し、船体を支えていた巨大なアームが外される。
自由を得た船をゆっくりと巨大な建造物から離していく。係留されている船が馬鹿みたいに大きいため、自分の船がひどく小さく見えるが、それでも、ヒイラギの持つ船はタイタン級と呼ばれる、全長が十㎞近い大きさを持つ巨体だ。
ゴールドランクの中でもさらに貢献度の高い者には、戦艦ではなくさらに上位の艦船が与えられることがある。
ヒイラギは病気を治してくれたシャビードローンに恩を返すため、最初期から愚直にドローンパイロットとして功績を積み上げてきた。たとえシャビードローン達がそのことに対してなにも感じて居なくても、彼は自分の命を救ってくれた礼をしたいという一心で、真面目に仕事に取り組んでいた。その結果、それなりの短時間でシルバーランクに達し、ほどなくしてゴールドランクにもなった。
そのゴールドランクの中でも、安定して戦績を収めていたヒイラギには、シャビードローン達からこのタイタン級の船を与えられた。
タイタン級。いわば、旗艦級とも呼ばれる全長が十km近くある巨大な船だ。その艦内に十数隻の戦艦。数百隻の巡洋艦。数千機の艦載機を積み込み、操れるドローンの数は千を優に超える。
『母艦との安全距離確保できました』
「了解。増速。速度80%」
船の後方や側面に複数取り付けられた推進機から青白い炎が噴き出し、巨大な鉄の塊が速度を増す。その巨大な船の周りに、次々と艦船が集まり出した。それなりに統率の取れた、操縦によどみのない連中が多く、一部の船は数隻で綺麗な編隊を組んで飛んでいる。
『おはよう。ヒイラギ。今日もよろしく』
「おはよう。こちらこそ。今日も派手に暴れていこう」
集まってきたのは地球にあるシャビードローンの船で、一緒にドローンパイロットをやっている仲間たちだ。ここにいる面子はシルバーランク以上が中心になっており、ドローンパイロットとしては単騎で敵を複数相手に出来る程度に、良い腕の持ち主ばかりだ。
「では、今日もいつもと同じ、退屈でつまらない集団戦をやろうか」
『それが今回の俺たちの仕事だ。仕事はしっかりこなさなきゃな』
『カチコミ連中が羨ましいが、俺たちが出張ったら速攻でカタが付いちまいそうだしな』
『低ランク組にランクアップの機会を与えないとダメ』
「俺たちがここで派手に暴れて陽動すれば、その分、低ランク組のサポートになるんだから、しっかりやるぞ」
『そりゃそうだ。指示と回復よろしくな』
「プライマリを受けたらちゃんと報告しろよ。耐久が50%切ってから慌てて要請されても間に合わないからな」
『爆散したら、お腹の戦艦を使わせてもらうぜ』
『私に良い考えがある。落ちた奴に今日の飯を奢らせよう』
『言い出しっぺの法則ってしってるか?』
『今日はただ飯が食えると聞いて』
和気あいあいとした通信をしつつ、全員の艦船が同じ方向に、同じ速度で進む。
目指す先には作戦目標の宙域が、数百光年先に存在した。
「よし。全艦、アライン完了。同期ワープ開始」
タイタン級のボクノハコブネがワープを開始すると同時に、その周囲に居た船も同時にワープに突入する。ヒイラギの頭には既に現地の観測ドローンから戦場の状況が届いており、このワープにより自分が戦場のどの位置に出現するのかも把握していた。
その情報を即座に全艦隊に通達する。
「出現位置は敵から距離70km。弾種を劣化ウラン弾に変更」
ヒイラギの指示に基づき、各艦が装填する砲弾をワープ航行中に変更する。初心者なら慌ててミスをする場面であるが、それなりの場数をこなしている連中ばかりなので、戸惑う奴はいない。
「ワープアウトまで5…4……3……2…1…」
戦場にボクノハコブネと百隻近い艦艇が宇宙鳴りと呼ばれる共鳴音を立ててワープアウトする。これにより敵は即座にこちらのワープアウトを認識するが、それよりも早く、ヒイラギは即座に主要目標となる船に皆が砲撃できるようマークを付ける。そのマークはすべての艦に瞬時に共有された。
「プライマリー! 1番から3番をターゲット! セカンダリー! 4番から6番をターゲット」
攻撃班はヒイラギの指示のもと、1番から6番までの船のロックオンを開始する。そしてターゲットにされた敵艦はロックオンと同時に、すべての艦艇から一斉射撃が開始された。
地球人類の艦隊から一斉砲撃を受けた敵艦は、船体を守っているシールド容量の許容値を一瞬で破られ、船体にダメージを与えられる。シールドが切れたところに次から次へと砲弾が撃ち込まれ、あっという間に火を噴いて爆散した。
攻撃班は敵を落とすと、指示のあった2番目の船へ目標を変える。流れ作業のように次々と敵の船を落とす中、攻撃班の集団から少し離れた場所にロジスティクス艦、いわゆる、回復要因の艦艇が位置取りを完了した。
「相互充電網構築完了。相互シールド回復網構築完了。ボクノハコブネを起点に50㎞アンカーよし!」
ロジスティクス艦は一切の攻撃力を持たない代わりに、特殊な機構を装備している。これはロジスティクス艦同士を特殊なケーブルで物理的に接続することにより、各艦が持つ個々の回復能力を並列化し、数倍以上に高めることができる。欠点は物理的にケーブルで接続されるため、行動制限や操船自体が非常に難しいことがあげられる。
「やばい! 俺が狙われた! 回復求む!」
敵艦からの一斉砲撃に狙われた味方艦から回復要請が入る。
ロジスティクス艦は要請を受けた味方艦に対し、一斉にシールド容量の転送を開始した。
ロジスティクス艦からの青白いシールド伝送ビームを受けた味方艦は、船のシールドが二回り以上膨れ上がり、敵艦からの砲弾とレーザー砲による熱線をいとも簡単に弾き返した。
「敵フリゲート接近!」
「対フリゲート用ドローン展開開始!」
こちらの艦隊編成は巡洋艦から戦艦が多数を占める。
艦艇に搭載された砲は基本的に同格もしくはそれ以上の船を相手取るものであり、自分より小さい敵を相手にすることは不向きとされている。
その理由は砲塔が大きくなればなるほど、砲塔の旋回速度が足りず、高速で動き回る小型艦に近づかれると弾を当てられなくなってしまうからだ。
小型艦に近づかれ、手も足も出なくなることを防ぐために、大型艦には必ず対フリゲート用の小型ドローンが多数積まれている。
『くそっ! 鬱陶しいドローンが無数に……!』
「はっはっはー! こちとらドローン専業じゃい!」
「このドローンの自動戦闘AIってスゲーよな。コマンド一つで自由自在だし、割と臨機応変に動くし」
「同格同士なら基本負けないしな」
「敵にエース級がいなけりゃ、ほぼ負けなしよぉ」
「種族名にドローンってつくんだから、そりゃドローンは強いよな」
近づいてくる小型艦はすべて対フリゲートドローンに任せ、大型艦は艦隊の指揮官であるボクノハコブネの操縦士、ヒイラギからの指示にしたがって敵を撃ち続ける。
集団による戦闘は意外なことに地味だ。
言ってしまえば、指揮官の指示に従い、船を自動操縦で指揮官の船に追従させ、言われた通りの船に向けて砲をぶっ放すだけだ。
敵の動きを先読みする必要も無いし、敵のシールドの特性に合わせて自分で弾種を選ぶ必要もない。その辺りはすべて指揮官が行ってくれる。
ロックオンして撃つ。ロックオンして撃つ。ロックオンして撃つ。
攻撃班は常にこれの繰り返しだ。まさしく、作業と言える。だからこそ、これを「つまらない」という者たちがいるのも納得である。
「こちらロジスティクス艦! 回復艦の総電力が40%切ります!」
「使い捨てバッテリーの使用を許可!」
「ラジャ。70%を維持するように使用を開始します。バッテリーの残数が3割になったら報告します」
集団戦において最も忙しいのは、ロジスティクス艦たちだ。
まず、このロジスティクス艦であるが、シャビードローン達をもってしても『建造コストが高いので絶対に落ちるな。落ちたら三等級ダウンに処す』と脅されるほどに高額な船である。良い装備を積んだロジスティクス艦になると、戦艦より建造コストが高かったりする。
そんな高額な船を任されるドローンパイロットは、ヒイラギのように、ゴールドランクの中からさらに選ばれた、特別なパイロットのみが搭乗を許される。
まず、ロジスティクス艦は特殊な船である。ほかの船と物理的にケーブルで接続されているため、著しい行動制限がかかる。味方艦との距離の取り方や、指揮官の船についていく距離なども非常にシビアで、その位置取りは指揮官ですらも「全部任せる(丸投げ)」と匙を投げるくらいには面倒くさい。
次に、ロジスティクス艦のパイロットは指揮官の指示を待たずして、コロコロ変わる戦況を読みながら、被弾している船に即座にシールドエネルギーを供給しなければいけない。被弾した船から回復要請が来る前に、先手を打って回復を掛けないと仲間が撃墜される事があるため、敵が誰をロックオンし始めたのか、誰が集中的に狙われやすいのかを、集められる戦場の情報から推察する必要がある。
さらに、シールドエネルギーを転送するには自艦の電力を使用するため、自分の船のシールド状況、被弾状況、電力状況などを常時把握し続けなければいけない。限界ギリギリまで味方の為に電力を使い過ぎ、いざ自分が狙われた時に自艦の回復が間に合わず撃沈しては元も子もない。
戦場での勝敗は優秀なロジスティクス艦の有無次第と言われるほどに、彼らパイロットの重要度は非常に高い。
タイタン級を操るヒイラギですら「ロジスティクス艦をやれって? それはちょっと、お断りしたいですね(苦笑)」というくらいにはきつい仕事だ。
では、どんな奴らがパイロットになるのか。
「おほー♡ 発電機が火を噴きそうだぜ♡♡♡この焦げた香りがたまんねぇ♡」
「シールド残量よし。電力よし。見方艦との距離よし。次点目標ロック。3番シールド転送開始。一番シールド転送停止。次点目標ロック。機関増速。見方艦との距離よし。2番シールド転送容量20%アップ。シールド残量よし。電力よし。機関停止。ヨシ」
「僕が回復しなきゃ仲間が死んじゃう僕が回復しなきゃ仲間が死んじゃうボクガガイフクシナキャナカマガシンジャウ」
「2番と3番は赤にシールド! 4番は黄色に電気送れ! 2番シールドから電気に交換! 5番接続ケーブルが伸びすぎだ! もっと近づけ! 4番! 4番ーー!! はよ電気送れやこらぁ! おっせぇぞ! 3番3秒後に青にシールド! 2番6秒後に緑にシールド! 4番! 4番! 4番こらぁぁあ! シールドじゃねぇ! 電気だつってんだろがよぉ! もおやだロジスティクス艦やだぼくも攻撃班やりたいうわああああああ」
「隊長♡がんばれ♡がんばれ♡」
「隊長がんがれ。電力よし。距離よし。4番電力伝送開始。バッテリー使用。電力70%。距離よし。1番シールド停止」
「僕が回復しなきゃ仲間が死んじゃう僕が回復しなきゃ仲間が死んじゃうボクガガイフクシナキャナカ」
『僕を妻に迎える条件がロジスティクス艦の隊長だったでしょ? 離婚する?』
「のおおおおおおおおおお! シャビドちゃん!? 頑張るから離婚するとかいわないで! 悲しみに暮れて死んじゃうぼくしんじゃうぅぅぅう!」
『がんばれ♡がんばれ♡僕の旦那さんがんばれ♡』
「がんばりゅううううううう」
「おほー♡さすが隊長の嫁ちゃんだ。扱いがうまい♡」
「サスシャビちゃん。扱いがうまい。電力よし。距離よし。3番停止。微速後退」
「ボクガカイフクシナキャナカマガ」
だいたいが、非常に濃ゆいメンバーになったりする。
ちなみに、ロジスティクス艦の隊長は地球人で初めてシャビードローンを妻に迎えた男だ。初めて地球にやってきたシャビドに一目ぼれし、それからシャビドが銀メタルシャビドに殺されたところで世界に絶望し、次いで彼女に似た義体を用いたシャビードローンが地球にやってきたところで、自主的にパイロットになった。そして瞬く間にドローンパイロットとして功績を積み上げ、シャビドを妻に迎えたいという要望を出し、ロジスティクス艦の隊長をやる、という条件で結婚した。
シャビードローンと地球人との間で生まれた初めての子供も、彼らの夫婦のところに存在している。
そんなこんなで、かれこれ一時間以上、戦場では敵と味方でドンパチが繰り広げられる。
地球人類側は幾度か機械知性体の戦線に突破口を開けたが、あえて突っ込まず敵の戦線が立て直すのを許した。こうする事で、相手側はまだ自分たちが有利に戦えている、相手側も余裕がない、と錯覚し更なる戦力の投入を促すよう仕向ける。
ヒイラギが率いる一団以外にも、同じような規模の船団が複数あり、それらがこの近辺の宙域で同じような戦闘を繰り返している。機械知性体をココに釘付けするための策だ。
「宇宙人類側の船団が降伏を宣言しました。機関停止しました。指示を仰いでいます」
「機械知性体の敵艦が降伏した艦に砲撃を加えています」
戦場の動きが変わったのは、さっきまで戦っていた宇宙人類側の艦艇が一斉に降伏したタイミングだった。
「こんな話、聞いてたか?」
「いや。予定にはないが、降伏したなら保護する必要があるかな?」
「とりあえず、戦場から離れてもらおうか。邪魔になるし」
『降伏した艦から保護を求められています。旗艦に収容してほしいとのことです』
それを聞いて、私たちは苦笑いをした。
「収容した途端、自爆されそうだな」
「対応は、あっち行ってろ、でいいんじゃないか?」
「あいつらがまた攻撃を仕掛けてきても対応できるし、取り込んで暴れられるよりも対処しやすい」
それから幾度となく保護を求めてくる宇宙人類側の船団であったが、シャビードローン達の「道徳?犬の餌ですか?」という教育方針の賜物であるベテランドローンパイロット達は彼らの要求を悉く無視。
降伏したは良いものの、元々の味方(機械知性体)からバカスカ撃たれる宇宙人類側の船団は、仕方なく戦場から離れていく。地球人類側と機械知性体との両方から距離をとった戦場の片隅に移動した。
それが幸か不幸か、戦場の様相を一変させる要因になる。
宇宙人類側の船団が移動した地点に、突如、ステルス迷彩を解いたドローンがいくつも現れたのだ。
「こんなところにもシャビードローンの伏兵がいたのか!」
「こいつら!撃ってきたぞ!」
「俺たちは降伏している!やめろ!」
「違う!こいつらはシャビードローンじゃない! ローグドローンだ!」
「プラウラドローンも混じっているぞ!」
「応戦しろ!応戦しろ!」
戦場の通信を完全に傍受しているシャビードローン達は、彼ら宇宙人類側の船団に起きた悲劇を明確に理解した。
それらの情報は即座にドローンパイロット達にも共有されていく。そして、しれっと戦場を移動し、自分たちの座標を変えていった。
突如として現れたローグドローンやプラウラドローンの射線上に機械知性体の艦隊を挟むような形で位置取りしたのだ。
『第三勢力の参入です。適宜対応してください』
『敵の戦力が未知数です。現場の裁量を最大にします』
『ボクノハコブネ率いるヒイラギ艦隊の独立行動を許可します』
矢継ぎ早にシャビードローンからの指示が飛ぶ。
「どうやら、お嬢様(シャビド)も把握してないらしいな」
「諜報活動というか、索敵は得意だって自慢してた割に、こんな近くまでステルスで接近されてるのはどうなの?」
「降伏した敵さんが移動して居場所が露見しなきゃ、完全に側面を突かれてたぞ」
「結構危なかったな。まあ、先に見つけられたんだから結果オーライだ」
「それで、ヒイラギ指揮官はどう動く? とりあえず、間に機械知性体を挟んだから、一直線にこっちへ向かってくるとは思えないが」
仲間のドローンパイロットから意見をもらいつつ、ヒイラギは考えた。今までにないほどの裁量権を得た彼には、今ならこの船のすべての機能が使える。ここから完全撤退することも出来るし、とりあえず一当てしてみることもできる。
「わざわざコソコソ隠れていたんだ。何かやろうとしていたのか、それともただこちらを観察していたのかはわからない。ここでアレコレと手の内を見せるのは良くない気がするから、機械知性体をこのまま押し込んで、ローグとプラウラの相手をさせよう」
ヒイラギは通常火力による面制圧を選択した。個別撃破ではなく、相手の侵攻力を抑止するように、船団全体へ満遍なく砲撃し圧をかけ続ける。
しばらく機械知性体とシャビードローン側の艦隊は互いに砲弾とビームを撃ち合い、軽微な損傷を出していく。だが、戦況は徐々にシャビードローン側に傾いていった。
「宇宙人類の艦隊がすり潰されたな」
「さっきからぽつりぽつりとローグがワープしてやってきてる。時々変な場所にワープしてくる奴もいるが、数が多いな」
「少しずつワープしてくる船も大きくなってるし、このまま行くと結構な数になりそうだぞ」
降伏した宇宙人類側の船団は可哀想なことに、ローグ&プラウラドローン艦隊に壊滅させられてしまった。そして、ローグ&プラウラドローンの艦隊が狙うのは、距離が近い機械知性体の艦隊だ。
正面はシャビードローン。背面はローグ&プラウラドローンの艦隊に挟み込まれた機械知性体の艦隊は瞬く間にすり潰されていく。
「お。機械知性体が逃げ出すつもりらしいぞ」
「逃げられないよう、ワープ妨害バブル張る?」
「やめとけやめとけ。ローグ共には手の内晒さないってさっき指揮官が言っただろ」
「逃げる数もたかが知れてる」
「こっちも逃げる算段を立てておくか。機械地生体が逃げたら、次の狙いは俺たちだろう」
「全艦に告ぐ。恒星に軸合わせ。ワープ可能速度まで増速ー。……開始!」
機械知性体の艦隊がボロボロになりながら退却していく様を見て、地球人類側の艦隊もワープアウトする。
取り残されたローグ&プラウラドローンの艦隊はしばらくその宙域を観察するように飛び回り、安全が確保されると、残された残骸をかき集め始めた。機械知性体の船も、宇宙人類側の船も、そして地球人類側の船も分け隔てなく。
その様子をステルス観測ドローンで確認したシャビードローン達は、今後はローグドローンとプラウラドローンが脅威になるかもしれないと、うっすらと予想するのだった。
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