第8話
《〇〇〇〇〇国営放送より21時のニュースをお届けします》
リンゴを上下半分に割り、その中心となる部分に鈍色の円柱をぶっ刺したような形の特型宇宙港。道行く人々が見上げる巨大な街頭ディスプレイには、遥か彼方の宇宙空間における大規模戦闘の様子が映し出されていた。
「ローグドローンの旗艦級だってさ」
「ドローン系で旗艦級の発見って初?」
「いや、二回目じゃないか? 数年前のニュースに……」
激しい閃光が瞬き、いくつものミサイルが宇宙空間を疾走する映像が流れる。それらは巨大なローグドローンの船に当たると、派手な爆発を引き起こした。
「軍も動いてるみたい。旦那の友達が行くらしい」
「でも主に動くのはあのマネキン連中でしょ?」
「ちょっと……あまりその名で言わないで。咎められるわよ」
「ごめん……ブランクブレインの人たちだったわよね。あの人たちが頑張るから、軍はそこまででしゃばらないんじゃないの?」
「そうだと良いんだけど……」
ニュース画面には禿げ頭のマネキンが無表情のままマイクを持っている姿が映し出されていた。
《初心者救済ギルドのギルド長であるオッフさんにお話をお伺いしました。今回の作戦について何か教えて頂けることはございますか?》
《特にないです! みんな好き勝手撃ちまくってるだけですから!》
《今のところ善戦している様子ですが、問題なく殲滅できそうですか?》
《余裕だと思います。今回のイベント、過去一番のログイン数らしいですからね。人員だけは十二分にいますから、戦力に余裕はあります。強いて言うならば、人が多すぎて弾薬などの補給が追い付かない可能性があることでしょうか。なので、テレビの前の皆さんには弾薬等の物資運搬を是非お願いしたいですね》
《ありがとうございます。現場からは以上です。スタジオに戻ります》
《ではここで皇国大学電脳学教授のノーデン先生よりお話をお伺いしたいと思います。ノーデン先生。今回の戦闘においてブランクブレインの方々が主導で戦闘を行っていることについてお伺いしたいと思います。本来であれば帝国軍もしくはマーセナリコープが目立つと思いますが、何故今回はブランクブレインの方々が主として戦っているのでしょう》
《まずこのお話をさせていただく前に、ブランクブレインの方々について少しばかり説明をしましょう。彼らは機械知性体及び機械生命体に見出された精神体、もしくはどこかに存在する思考能力を持つ生命体の思考能力のみを電脳に移し替えられた機械生命体です。機械生命体と言いましたが、彼らはどちらかといえば我々人類側の存在です。有機生命体の思考能力を備えた機械生命体といえば分かりやすいでしょうか。さて、今私がお話したとおり、彼らの電脳の製造元。ようするに彼らの創造主とは機械知性体及び機械生命体になります。我が帝国と機械知性体は友好的で目的を共有する思考力を持ってはいますが、目的を達する為のアプローチの仕方には差異があります。ここからは推察になりますが、おそらくローグドローンの情報を掴んだのが機械知性体側だったのではないかと。ブランクブレインは情報を掴んだ機械知性体の指示もしくは案内に従い討伐の動きを強めた。機械知性体との情報共有が帝国軍とも行われたと思いますが、既にブランクブレインの動きが強く、主導権がブランクブレイン側に傾いているのではないかと考えます》
《ブランクブレインのみでローグドローンの旗艦級を倒すことはできるのでしょうか?》
《ブランクブレインに搭載されている電脳は非常に高性能であり、我々人類の技術力をもってしても再現不可能と言われています。構造は完全なブラックボックス化しており、機械知性体側からの情報提供もこれだけは渡せないと突っぱねられている状況です。数値化は出来ませんが今までのブランクブレインの様子から、旗艦級ですら一人で動かすことが出来るほどの性能を有していると言えます》
《ということは?》
《ブランクブレインの数だけ、旗艦級並みの戦力がある、というわけです。船さえ揃えばこれほど心強い戦力はいないでしょう》
《映像ではブランクブレイン側には旗艦級の船が見受けられませんでしたが、いかがでしょうか》
《旗艦級の船とはそもそも気楽に戦場の真ん中に飛んでくるようなものではありません。船内には船員の居住区画、船の格納庫、修理工場、はたまた造船場や弾薬製造工場を有しているものもあります。旗艦級は戦場の後方において艦隊すべての兵站を支える存在でもあります。また運用に関してはあまりの巨体によりジャンプゲートが通過できない。ワープ速度が遅い等の問題もあります。》
《旗艦級の船を持ち出す必要も無く、倒せると判断しているというわけでしょうか》
《そこは何とも言えませんが、これだけの数のブランクブレインを統括しようとすれば、それなりのバックアップが必要となるでしょう。ですから、どこかにはブランクブレイン側の旗艦級も待機しているのではないかと思います。そして何かがあれば、その時に姿を見せるのだと思います》
《ありがとうございました。では続きまして――》
ローグドローンとブランクブレインの戦闘が行われている映像が流される。
巨大なローグドローンの旗艦級に張り付くようにして攻撃を繰り返す小型艦と、少し離れた所から次から次にミサイルを撃ち込む大型艦。そしてかなり離れた場所から超高速のレールガンを打ち込む集団が居た。
そのニュース映像を見ているのは戦場から遠く離れた一般人だけではない。実際にその戦場にいる傭兵たちや、ブランクブレインと呼ばれるプレイヤーも情報収集のためにニュース映像をみていた。
ローグドローンの旗艦級から遠く離れた場所に陣取り、そこから遠距離砲撃をしているプレイヤーは、自分の愛船がニュースに映されているのをみて、少しばかりテンションを高める。
同じギルドに所属するプレイヤー操作の船は、一隻の大型艦を中心に固まっており、皆が同じ敵に向けて一斉射撃を繰り広げていた。
電磁的加速により超加速された砲弾がローグドローンの船体に次々と打ち込まれ、本来は強固な装甲を持つはずの船体を粉微塵に砕いていく。
《いいねー。流石にこれだけの数からの一斉砲撃だと、戦艦でも一斉射2回か3回で落とせるね》
《うわーい。これで俺も戦艦キラーの称号が貰えるぞ》
《戦艦キラーの称号が貰えると、自分のアイコンが替えられるよ。後から確認してみ》
《うわ。ローグドローンって近くで見るとキモイ。なんか機械の触手が生えてるっぽい》
《メカメカしいのか、生々しいのか、微妙な感じだよな》
《プラウルドローンってやつはヒラヒラした鋼板とかワイヤーがいっぱいぶら下がってて、お化けみたいな見た目してるし、シャビードローンはつぎはぎだらけのボロボロ艦ばかりだったし、ドローン系の敵って良く分からないよね》
《その中なら、ローグドローンが一番サルベージ品が美味しいから、狩りするならローグドローン一択じゃよ》
《サルベージってみなさんどうしてます? 依頼料払ってNPC艦を連れてってます? 自前で二隻同時操作してます?》
ワイワイとボイチャやチャット欄で会話をしつつ、リーダーからの指示に従いローグドローンの戦艦級を落していくプレイヤー達。
《旗艦級って全然ダメージ受けて無さそうですけど、いつから攻撃始めるんですか?》
《TT級とか旗艦級はうちらの装備じゃ全くダメージ入らないから、ちゃんとそれ用の船が来るはず。まず雑魚を倒して、場所を空けないと飛んでこれないから、今はそれの準備中かな。……お。っとか言ってたら来たよ》
戦場をある程度遠くから眺めていると、不思議な場所に陣取る船が何隻か見つかる。
《あの異様にぴかぴかしている船がスタンパーっていう船で、TT級の船が自前で別の宙域からジャンプしてくる為の道しるべになるんだよ》
ちょうどニュース映像でも、ピカピカ光る船に焦点を当てていた。そして字幕にその船の説明が映し出されている。
TT級、旗艦級と呼ばれる超巨大な艦船は通常の船と違い、ジャンプゲートを潜ることなく自前で別宙域に飛んでいくことができる。これはワープなどとは違い、とんでもない距離を一瞬にして移動することができる。だが、ジャンプと呼ばれるその行為を行うには特殊な燃料が必要だったり、飛ぶ先の座標に先回りして目印である船を置いておく必要があるなど、色々と事前準備が必要だ。
スタンパーと呼ばれるこのピカピカ光る船は座標指定艦であり、TT級が飛んでくる場所の指定をする為だけに存在する船だ。戦闘力は無い。
スタンパー艦がピカピカ光を発しながら、高速で動き始めた。すると、先ほど船がいた場所の空間がぐにゃりと歪み、巨大な鉛色の船が突如現れた。
《うおおおおお! でけぇぇ!!》
《ギルド「宇宙ネズミ」が所有するTT級だね。特型のブラスター兵器をつけてて、近距離で超火力を叩きつける船だよ。もし狙われたらCV(空母)でも、5秒と耐えられずに落とされるね》
卵型の旗艦級兵器はのっそりとした動きでローグドローンの旗艦級に向かって動き始める。そして同時にその全ての兵器を稼働させた。
敵船の装甲が眩く煌めいたと思いきや、巨大な火柱が立ち上り、装甲が赤熱し爛れる。爆散した破片が周囲に飛び散り、シールド装甲に阻まれる様子が遠くからでも見て取れた。
《ひえええ! 一撃でTT級の装甲がはがれたんだけど!? ヤバすぎ。DPSいくつあるんだろう》
《ドローン系の船はシールド防御じゃないからなぁ。ブラスター兵器は弱点だよね》
《お。でもドローンもやられてばかりじゃなさそ……うわ!? 何あのデッカイ大砲!》
《あれは4000mmアーティレリーかな。現存する中では一番デッカイ大砲だと思う》
《4000mmってことは、弾が直径4mくらいのサイズあるの!?》
《やばwwトラックが打ち出されるようなもんじゃんww》
《TT級のシールドぶち破って突き刺さってる》
ローグドローンの巨大な大砲攻撃により、味方の旗艦級にも被害が見受けられ始めた。だが、味方の旗艦級の後ろには特殊な形をした船が集まり始め、青い靄のようなものを旗艦級の船に向けて送り出し始める。
《あれは何をしてるんですか?》
《シールド用のエネルギーを送ってるんだよ。青ならシールド。黄色なら電力。あの旗艦級の後方に護衛付きで止まってるのは大型支援艦だね。戦闘能力は全く無いけど、ああやって旗艦級の能力を底上げしてくれる》
《はえー。旗艦級って単独で無双とか出来なさそうですね》
《そうだねー。飛んでくるにも座標指定艦が居るし、支援艦が無いと割と簡単に電力不足になるし、帰るにもまた座標指定艦が必要になるしね。使い勝手はわるいよ。ただその分、攻撃力は現存する中では最強だけどね》
《いつかTT級を操縦してみたいと思ってたけれど、先は長そうー》
《リアルマネーを数十万円くらいぶち込めば、買えはするけれど、実際に活用しようとするとリアルに人手が必要になるからね……》
《TT級を単独で運用するプレイヤーもいるけど、高確率で大量のCL(巡洋艦)にまとわりつかれて、電力喪失からのシールド喪失。そして爆沈コースが定番だね》
《TT級は同格クラスの船と戦わせるためのもので、あって、小型艦に対しては無力だよ。砲塔の追従速度が追い付かずに全く攻撃が当たらなくなるからね》
《TT級から撃つような特型ミサイルも小型艦なら追尾から逃げきれちゃうし》
自分の画面の端に映し出されるNPCニュース映像でも、旗艦級の運用に関する説明が入っている。先ほどのどこどこ大学の教授が熱く語っていた。
旗艦級同士の戦いにスタジオはかなり熱が入っており、興奮した教授は早口で色々な事をまくし立てるように喋っている。
《たぶんもう一隻くらいTT級が飛んでくると思うけど、この調子だと「宇宙ネズミ」だけで落とせそうだな。流石の近距離火力馬鹿だ》
《あ。リーダー。なんか広域レーダーにデッカイ塊が移ります。飛んできてるようです》
《お。別のところのTTが来たのか? ……いや、でも普通ジャンプで飛んでくるよな。なんでわざわざワープで……》
プレイヤー達はレーダー画面を表示させる。と同時に、全体チャットで呼びかけるが、どうやら他の連中もワープで接近してくる旗艦級並みの巨大な艦船に心当たりが無いようだ。
機微に聡い傭兵連中が接近する未確認艦隊に不信感を抱き撤退の準備に入りだす。
その未確認艦隊は長距離レーダーから中距離レーダーに写り始め、直に短距離レーダーにも反応が入り、ほどなくして戦場に現れた。
《でっか!? ローグドローンの旗艦級より二回りはデカいぞ!》
《どっち!? 敵? 味方? どっち!?》
《撤~収!! タイタンをひっこめろ! 敵だったら最悪だ! 》
《ギルドチャット見てない奴! 恒星に軸合わせと増速! 各自の判断でワープ離脱!》
《バックアップ艦の離脱確認!》
《敵なのか? 味方なのか? くそ分からん! 一度仕切り直すぞ!》
プレイヤー達はあたふたと混乱し、ローグドローンへの攻撃も散発的になる。
敵なのか、味方なのか。
突然現れた新たなる存在に、番組スタッフたちも慌てているようで、スタジオにも混乱した空気が漂っている。さらにこの情報を聞きつけたのか、NPCのTVチャンネルの大半が「3種の旗艦級による戦闘か!?」 という見出しで臨時ニュースを流し始めた。大規模戦闘以外で旗艦級が三隻も集うようなことは滅多に起こる事ではない為、関心度はかなり高いようだ。
そんな混乱の最中、所属不明の旗艦級は自身のお尻辺りから、まるで木々が枝を広げるように太陽光パネルの展開を始める。さらに旗艦級と共に現れた数千隻を超える艦船がローグドローンに向けて加速を開始した。
《こっちには見向きもしないってことは、とりあえず味方か?》
《解析できたぞ! あの武装の無い船は全部ドローンだ!》
《ドローン!? じゃあこれは、ドローン同士の抗争!?》
《お・も・し・ろ・く・な・っ・て・き・ま・し・た》
《俺たちがローグドローンを攻めてたから、漁夫の利を狙ってきたのか!?》
《バックアップ艦を呼び戻せ! こっちの得物だぞ! ローグを先に潰す! 横取りさせるな!》
《戦力の逐次投入は愚策! 全軍突撃ー!! 好きなようにローグを殴れ!》
《なら、うちもTT級出すわー。誰かサインアップしてくれ!》
《おっしゃー! ローグの旗艦級上方50kmにサインアップする。10秒待て!》
プレイヤーが使う全体チャットが祭りのように騒がしくなった。
ニュース番組もアナウンサーが興奮した様子で状況をまくし立てるように話す。
一部のニュースにはブランクブレインが使っている掲示板のチャットログが画面の右に表示されるようなものがあり、様々な言語がリアルタイムで宇宙人類様に翻訳されていった。
《所属不明艦からの攻撃が開始されましたってゲロビじゃんwwww》
《極太ゲロビwww》
《あれって、青地図が公開されてたロマン兵器のゲロビームじゃね? 見たことあるぞ、あの特徴的な虹色ビーム》
《電力馬鹿食いの使えないゴミだったのでは?》
《ゴミ言うな。電力さえ賄えれば、継続DPSは現兵器最強やぞ》
《電力(核融合炉1機分)》
《戦艦に一つ積めたら御の字レベルの兵器は実用兵器とはいわんのじゃ。船の中にダイソン球を作らないと》
《プロトタイプ》
《試供品だろ》
《現に使えてるんだから、一応実用兵器じゃね?》
《旗艦級がすっぽり収まるくらい広大な面積の発電パネルが必要な時点でお察しなんだが》
《ほんで、誰ぞゲロビ艦の所属は分かったのかぇ?》
《ありゃシャビードローン》
《弱小シャビードローンにも旗艦級は居たのか》
《この火力で弱小??》
《ローグめっちゃ削られてるな。タコ殴りやん》
《TT級3隻から集中砲火受けたら、そりゃ溶けるだろ》
ローグドローンの旗艦級はプレイヤー陣のTT(タイタン)級3隻から近距離で殴られ、さらにシャビードローン勢の旗艦級から極太のレーザーでこんがりと焼き色を付けられ、至る所から煙と火を噴き始めていた。
《よしよし。あの体当たりしまくってるドローンのおかげで、雑魚がかなり片付いてきた! そろそろ、俺たちも旗艦級に目標を合わせるぞ!》
《なるべく旗艦級の装甲の隙間を狙うよう手動調整かけて! その方がクリティカルが出やすくなる》
こうして、ローグドローン対シャビードローン&プレイヤーの構図が出来上がりつつあった。
だがこの時はまだ、ローグドローンの旗艦級の内部で引き起こされている現象に、誰も気が付かないでいた。
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