第9話
『順調だな』
ローグドローンの旗艦級は既に虫の息と言っても良いほどボロボロになっていた。対してこちらの旗艦はほぼ無傷のままだ。というのも、ローグドローンに最も近いのは人類側の旗艦級であり、わざわざ遠い場所に居るシャビードローンを狙って攻撃する理由がなかった。
『小さい船は殆どラムアタック艦隊で倒せましたね』
『過電流によっていくつかのレーザー兵器が沈黙していますが、順次新しい武装に換装中です』
『実戦データはやっぱり違いますね。もう一度配線を見直す必要がありそうなので、修復ついでに直しますね』
複数のシャビードローン達がせっせと作業を分担し動き回っている。操られているドローンの数は数千隻にもなり、まるで塊になって飛ぶミツバチのようにも見える。
幸いなことに人類側はローグドローンの殲滅に注力しているようで、シャビードローン側に攻撃を仕掛けてくることはあまりない。時々、何を思ったのかラムアタック艦隊のドローンに砲撃してくる船も居るが、末端の無人機が数機落とされる程度なので無視している。
『ローグドローンのアーマー防御を抜きました。
「ローグドローンが使っているアーマー回復装置も欲しいところだよね。今のところ、うちのダメージ回復手段って部品交換しかないし」
『それ以上にジャンプドライブ装置だけは真っ先に手に入れる必要があります。人類側に盗られる前に手に入れましょう』
延々と垂れ流されるレーザービームの攻撃により、ローグドローンのメインエンジンが火を噴いた。それと同時に、船体の至る所で爆発、炎上を始める。
すでにローグドローンの旗艦級は虫の息といった様子で、先ほどから攻撃も止んでいるようだ。推進機もやられてしまったので逃げ出すことも出来ず、その場でフヨフヨと漂う巨大な漂流物となっている。
『……ローグドローンの旗艦級内部で高出力反応! 爆発的に増加中!』
『アラート!! ラムアタック艦隊に一時後退の指示を出します』
『防御態勢を取ります。攻撃停止。太陽光パネルの展開面積を縮小。正面装甲の衝撃緩衝帯を拡張します』
「これは……大爆発の予感!? そんなことしたら木っ端みじんでサルベージできないよ」
『パーツが残ることをお祈りしなきゃ』
攻撃を続けているボロボロの旗艦級の内部が、赤みを増し、徐々に光り輝き始める。この頃になって漸く人類側も様子がおかしい事に気が付き、機微に聡い船から距離を取り始めた。
「そろそろ大爆発かな。みんな! 衝撃に備えて防御態勢をとるように!」
そう叫んだ瞬間、ローグドローンの旗艦級は真っ白な光の中に消えた。それと同時に、周囲一帯に凄まじいまでの衝撃波が広がる。
近距離で戦っていた人類側のTT(タイタン級)の3隻がシールドを飽和させられ、装甲を吹き飛ばされ、船体にダメージを受ける。しかし、辛うじて爆沈は免れたようだ。だが、それ以外のプレイヤー艦は悉くが爆発の衝撃で消し飛ぶか、船体が折れ曲がり航行不能状態になった。それなりに近くに居た非戦力艦であるTT級のサポート艦は粉微塵に消し飛んだ。
「被害報告!」
『正面装甲の7割が消し飛びました! 武装が全部ダメです!』
『機動力は確保できてますのですぐに動けます』
『ローグドローンの消失を確認しましたが、現場に”報復サイン”が出てます。撤退することを推奨します』
「”報復サイン”ってなんだ?」
『自分の撃沈を仲間に知らせる事で、この場に多数の味方を呼び寄せる、ローグドローンの特性です』
『レーダーに感あり! おそらくローグドローンが多数近寄ってきます!』
「ぐぬぬ! 全軍撤退!!!」
『集められるだけ、近場の残骸を収拾します!』
「撤退優先! 何かのついでに引っ張る程度でいい!」
『正面装甲はもうダメです。切り離して機動力を上げましょう』
「ううう。仕方ない。勿体ないけど、先端部の切り離しを許可!」
ゴゴゴゴン、という振動とともに、巨大なキノコの傘の部分がゆっくりと切り離されていく。先ほどの爆発の衝撃で、表面はドロドロに溶け、赤熱した金属が宇宙空間で丸い球を作っている。
レーダー上には大小様々な光点が全方位に現れ、近づいてくる様子が分かった。
幸いな事に過剰なまでに正面装甲を増やし、さらに直前で衝撃緩衝帯としての空白地帯を装甲内に設けたことにより被害は軽微。キノコの傘の部分にあたる正面装甲を完全に切り離してしまう事により、船体重量を軽くして機動力を確保した。
TT(タイタン)級の船とは思えないほど身軽になった私達シャビードローンの旗艦はローグドローンの増援が来る前に宙域から脱出することが出来た。
ワープ空間に入り、巨大な惑星たちが前方から後方へと流れていく景色を見ながら、シャビードローン達と反省会を行う。
「ジャンプドライブが得られなかったのは残念だった」
『ローグの連中も、僕たちにだけはパーツを残したくなかったのかもね。そうでなきゃ自爆なんてしないよ』
『旗艦級の”報復サイン”なんて出しちゃったら、周辺宙域からローグがドンドン集まってきちゃうから、僕たちの居場所も特定されちゃうかも』
『ローグが増えれば人間も増えるし。となると、僕たちの活動領域が狭くなるかな。得物は見つけやすいけど、逆に言えば僕らも見つかりやすくなっちゃう』
「これはお引越しが必要かな?」
『帰り際に人間の船をいくつか取り込めたから、そっちの分析もあるし、ワープで移動しつつ研究でいいかも』
『今回は正面で敵艦が動かない状態で殴り合いだったから、正面装甲が役に立てたけれど、やっぱり全周囲をちゃんと装甲で囲わないと危ない気がします』
「確かにね。あの爆発を正面以外で受けてたら、たぶん船体がバラバラになってた」
『うちらもシールド防御を取得したいね。人間側の旗艦級はあの距離で耐えてたから。やっぱりシールド防御は強いよ』
『人間側の旗艦級にシールドエネルギーを送ってた船も真似したいね。大型のサポートドローンを作って、外部からエネルギーを給電してもらうの』
「いいね。そうすれば大きな太陽光パネルは必要なくなるね」
『そもそも、わざわざ太陽光パネルを使う必要はないんじゃないかな?』
『どういうこと?』
『最近合流した子が、熱を加えると発電する金属で自分の体を作ってたから、その子の技術を使えば、船全体が発電パネルになると思うんだ。それに、熱で発電するようになるなら、攻撃を受けた時の衝撃でも発熱するから、そこでも発電出来ると思うんだけれど』
「え!? そんな子いたっけ?」
『なんで気が付かなったの?』
「いやー。最近、合流する仲間が多すぎて誰が誰だかわかんないんだよね」
『そもそも、これも誰が話してるのか、明確に区分しているわけじゃないしねー』
まぁ、シャビードローン達って個々の特徴がないというか『個は全』みたいなところあるからな。でも、熱で発電する金属を炉で作っている子もいるくらいだから、環境の違いで個性がでてくるのかもしれない。
やいのやいのとシャビードローン達が意見を言い合い、ふわっとした感じでまとまっていく。
「じゃ。とりあえずこれからの行動方針をまとめるよ」
最後に主様と慕われている私が話をまとめた。
まず最初に、ローグドローンが”報復サイン”を出してしまったので、このリージョン(例えるならば都道府県)からは出た方が良いので、引越しをする。
引っ越しはかなりの距離になるため、その間にワープ空間内で研究を実施する。優先するのはシールド防御と熱反応で発電する装甲。あとは人間側の船から得られた兵器。
新しいリージョンにたどり着けたら、どこか良い感じに人気のない小惑星帯で旗艦を作り直す。
「以上。他に意見は?」
『『『ないでーす』』』
というわけで、引越しが決定した。
今の拠点には大型の建造船や貯めている資材などもあるため、一度拠点に戻って荷物を纏める必要がある。ワープ距離が長くなるので、なるべく旗艦の中にすべての船を収めてしまいたい。
「どうせ船は作り直すのだから、とりあえずくっ付けるだけでいいよね?」
ということで、大型建造船や倉庫として使っていた巨大なコンテナはそのまま旗艦の装甲にペタペタと張りつける形に収まった。
大きなキノコ(傘の部分が無くなり、竿だけになってしまった)に色々な物がミチミチとくっ付けられ、最終的には巨大な楕円形の船になってしまった。これはまさにシャビードローンと呼ばれてもおかしくない、つぎはぎだらけのみすぼらしく見える艦だ。
「あーあー。せっかく色々な資源が採取できるガス惑星も近くに合って、良い感じの拠点だったのにな」
『かなり余裕をもって資源は採取出来てますし、暫くは補給無しで活動できるので、それほど心配ないですよ』
『リージョンも隣の隣くらいまで移動すれば、人間の到達してない地域が多くなるし、いっぱい良い感じの鉱石が掘れる恒星系もあるはず。なければ探せばいいし』
『探索はドローンを展開すれば大丈夫です』
こうしてシャビードローン達は新天地を目指してワープを始めた。
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