薄汚いドローンの逆襲
あるあお
第1話
とにかくおおきい大銀河。通称「とお大」と呼ばれるゲームがあった。
このゲームを一言で表すならば、何でもありの完全フルダイブ型スペースRPGだ。GTAの宇宙版、と言えば分かる人には分かるかもしれない。
プレイヤーは宇宙に進出した人類またはそれ以外の種族となり、それぞれの派閥、企業の一員として、自由気ままに好きな事をして過ごすことが出来る。その選択肢は多岐に渡り、AIにより自動生成されていると言われており、実質無限という話もある。
例えば、傭兵業。
銀河のそこかしこで行われる小競り合いから、超弩級戦艦がぶつかり合う大規模な戦場まで。そんなところへ金で雇われて参戦するのが傭兵業だ。もしくは交易路を脅かす宇宙海賊を潰すバウンティーハンティングなども傭兵の仕事の一つだろう。
例えば、商人。
数光年離れた近くの交易ステーションを巡って必要な物資をご家庭へお届けするようなものから、数千光年離れた別星系同士を行き来するような取引まで千差万別ある。
例えば、宇宙豚骨ラーメンの店主。
何かと好き嫌いや食べられない物が多い異星人相手に、それぞれに合った調合比率でラーメンを作り、如何に素早く、如何に的確に作業し儲けを出すか。
例えば、宇宙海賊。
モヒカンに棘付き肩パッドを装着し、金属バットの代わりに強襲宇宙船で民間貨物船に襲い掛かり物資を略奪。R18とR18G付きゲームであるため、乗り込んだ乗組員の生殺与奪はあなたの思いのまま。その先のグヘヘな展開も出来てしまうが、あまりやりすぎると懸賞金が掛けられ、まともな生活ができなくなる。
例えば、宇宙コロニーの清掃員。
例えば、コロニーの整備士。
例えば、宇宙船の開発技師。
例えば、性感マッサージ師。
例えば、自宅警備員。
例えば、詐欺師。
例えば、例えば、例えば……。
プレイヤーの選択肢をゲームシステム側が制限することはない。やろうと思えばなんでも――それこそコロニーをテロで爆破する、なんてことも――出来てしまうこのゲームは、世界中で大人気……というわけでもなく、あまりに難しすぎて一部のコアなファンの中でひっそりと楽しまれていた。
チュートリアルも無く、ろくな説明もない。あるのは初期設定という名の「面接」だけ。
ゲームを初めて起動したプレイヤーを待ち受けるのは、一時間以上に渡る多数の質問攻めである。
やりたい事。成りたい事。好きな食べ物。好きなタイプ。人を殺したいか。人以外とセックス出来るか。金が欲しいか。
イエスorノーで答えられる質問ばかりでなく、自分の意見を述べるようなタイプの質問も行われる。中には回答に窮するようなものまで存在し、ライトプレイヤーはまずこの洗礼を浴びてゲームする気を損失する。
「とお大」名物の面接を終えると、普通のゲームであるならばキャラクタークリエイトが始まるが、このゲームのキャラクターは一種類しか存在しない。
そのキャラクターの名前は「ブラブレ」だ。ゲームが始まると病院のような場所で目を覚まし、看護師NPCから「君の名前はブランクブレイン。略してブラブレだ」と教えてくれる。
プレイヤーが操る体は、頭頂部がツルツルに禿げ上がったマネキンのような姿をした人造人間。このキャラクターを自分の体として動かして活動するのが、この「とお大」というゲームである。
ご察しのとおり、もうこの時点で女性陣は大抵ゲームをシャットダウンする。男性陣も禿げたマネキンではヤル気も失せるというもので、エンジョイ勢などはここで大半がゲームをアンインストールすることにある。
では、なぜこんな全くお客にゲームさせる気が無いゲームであるにも関わらず、一定数のファンが付き楽しまれているのか。彼らを引き寄せる魅力が「とにかくおおきい大銀河」にはある。
一つ目。先ほど説明した通り、選択肢が無限に用意され、プレイヤーのやりたいことはほぼ全て叶うといわれるほどの自由度の高さ。
二つ目。ゲーム内で稼いだお金は現実世界においても「トロトロロン」という仮想通貨として与えられること。なお、2124年現在、1トロトロロンの価値は0.0000234円であり、ゲーム内で稼いで生活が出来るのは残念ながら不可能と言える。将来に期待したいとこだ。
三つ目。宇宙船を操る際の挙動のリアルさ。そして無重力空間の再現度の高さだ。
癖の強いゲーム故にライト層には受け入れがたいが、コアなファンが多いのがこのゲームの特徴だろう。
そんななか、また一人ゲームを開始した人物がいた。
ただ、その人物はゲームの運営側からすると魅力のない者であった。そのため、振り分けをAI(人工知能)に丸投げした。
『面接を実施中』
『回答者年齢、35才。性別、男性。』
『現在無職。解雇日、4月末。解雇理由。会社都合による。』
『貯金額150万弱。現在の収入無し。彼女無し。彼女候補生無し。結婚願望あり。』
『容姿、中。身長、167。体重、62。知力、弱い。視力、悪い。運動神経、にぶい。』
『他者とのコミュニケーション能力、低い。他者への依存性、低い。』
『個人主義。マッタリプレイ希望。』
『金銭的欲求、大。なおゲーム内通貨による生活費充当は考えていない模様。失業保険の適用あり。』
『対人戦闘経験なし。嗜虐性、有り。女性経験、複数回あり。……回答に疑義あり。』
『残虐性、あり。他者に対する攻撃性、あり。』
『総評価、性格に難あり。癖強し。』
…………
………
……
…
『マッチングを開始』
『人勢力マッチング、……対象外』
『亜人種勢力マッチング、……対象外』
『機械知性勢力マッチング、……対象外』
『管理者からの干渉確認……処理中……エラー』
『その他の勢力マッチング、…………対象あり』
『該当勢力。シェビードローン』
『管理者権限による修正中……エラー』
『該当勢力より、強い召喚希望あり』
『本人の召喚承諾を確認中……確認』
『本人の希望により、生態情報を電子化しています……完了』
『該当者をシェビードローンとして召喚します』
彼は人勢力、亜人勢力、機械勢力のすべての所属国家から不要と判断され、最終的に弱小勢力の中でも著しく劣る一つの勢力に属する事となった。
この出来事は世界のターニングポイントが生まれた瞬間だった。
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